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3話 消えたお給料

完結まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。

1か月ほど働いた。

1日16時間働いて、仕事が終わる1時間前にホットスナックをお腹に廃棄する。そのあと先輩に引継ぎをする。帰る場所はないので、コンビニの裏の休憩室で睡眠をとる。すると、先輩が仕事を終えたくらいに呼びに来てくれる。

「本当、最近物騒だな」

「どうかしたんですか先輩」

「本部から通達が来たんだよ。米粒侍ってやつがいま暴れまわっているらしい」

「米粒侍ってなんですか? 米粒みたいなやつなんですか」

「そいつの前で米粒を一粒でも残すと切られるとかって噂だ。とんでもねえやつだな」

「ですよね。米粒を残しただけで切られるなんてたまったものじゃないですよね」

「そっちじゃねえよ。食べ物を残すのはこの世界では常識だ」

「え?」

「そういえば、お前ホットスナック食べるときに残さないよな。よくないぞ。食べ残しておかないと罰が当たるぞ」

「何言ってるんですか、逆でしょう」といったけど、そういえばこの世界は食べ物をたくさん残したほうがいいと考える人たちがいるんだった。

「まだ前の世界の価値観が残ってるのか。珍しいな。ここの食事を1週間もすればこの世界の常識を学べるはずなんだが」

「そうなんですか? って、先輩もしかして転生者なんですか?」

「そんなわけないだろ。あんな罪人たちと一緒にするなよ」

「転生者って罪人なんですか?」

「罪人には罰が与えられる。その中でも特に重い刑罰に魂の流刑という罪がある」

「なんですかそれ」

「罪を犯して回心する見込みがない魂を別の世界に転生させてそっちで罪を反省させる刑罰だよ。そのとき肉体から魂が出ていくから、代わりに別の魂を入れる。それが転生者だ」

「ってことは、この体の持ち主は罪を反省するために魂の流刑で別の世界に転生させられたのか」

「そういうことだ。この世界に転生してくる魂は大体ろくでもない魂だって聞かされてたんだけど、お前は意外といいやつだな」と先輩は笑いかけてくれた。「前の転生者は仕事なんてやってられるかって便利店から逃げて捕まったんだ」

「その転生者はどうなったんですか?」

「さあな。転生者なんて大体ろくでもないやつばかりだ。たぶん、米粒侍ってやつも転生者なんだろうな」

そのとき、僕は米田さんのことを思い出した。そういえば、米田さんのフルネームって粒太郎だったような。ちょっと似てるな。いや、まさか。

「そうだ。今日は店長くるからな」

「この1か月ほとんどこなかったのに」

「今日は給料日だからな」

そうか、今日は待ちに待った給料日。あれだけたくさん働いたんだ。それなりには……。

「まあ、あまり期待するなよ」と先輩がいう。

そうだ。クレームが入ると減給される。僕は今月すでに20回クレームを入れられているらしい。

店長が店内にやってくる。「おお。一か月苦労だったな。ほれ、給料だ」

手渡されたのは紙切れ一枚。

「ありがとうございます」

学生時代バイトもしていないし、初任給もらう前に辞めたから、何気にこれが初めてのお給料だ。

期待せずに見てみると、なんか数字が書かれている。

「45006?」

「これは給料を引き出すためのコードだ。便利店の機械から下ろすことができるぞ。ただし、手数料がかかるがな」

「手数料がかからない引き出し方法はないんですか?」

「ないな。お前だって機械で手数料を支払っている人間を案内してきたはずだ。そういうものなんだよ」

なんとも理不尽な仕組みだ。給料を引き出すだけで手数料を払うなんて。

先輩も給料をもらっていた。

店長がいなくなると、機械を使って先輩が先に引き出した。

「じゃあな。あと頼んだぞ」と先輩は言い残して店を出ていった。

「はい」と返事したとき、先輩はなぜか目をそらした。

さて、自分の給料がいくらか。

さっそく機械にコードを入力する。

「え? なんで?」

残高は0だった。

「クレーム入れられたせいか? クレームのせいで給料0になったの?」

悲しくて涙が止まらなかった。


「まあ、退職金代わりになったかな」と角刈りの先輩はファミレスの座席に座ってメニューを見る。

「本当にいいんですか? おごりなんて」

「ちょっと臨時収入が入ったからな。にしても、便利店はひどいよな。1日8時間週6日で働かされて、安月給なんだから」

「便利店は、レイバーがやる仕事ですからね」

「本当にな。あんなのは人がやる仕事じゃないよ。店長だってひどいんだぜ。月に1回給料配りにくるだけで楽して高給取りなんだからな」

「そんな楽なら店長目指せばよかったじゃないですか。なんでやめちゃったんですか」

「店長になるためにはまず店長資格試験に合格して、研修を受けないといけない。バイトのままじゃ資格試験の勉強する時間なんてねえよ。そもそも勉強嫌いだしな」

「先輩まだない内定ですよね。卒業したらどうするんですか?」

「うるせえな。いまはそういうこと思い出したくねえんだよ」

「すみません」

「食え食え。今日は俺のおごりなんだからな」

「いただきます」

学校の後輩らしき男と角刈りの先輩はファミレスでたくさんの料理を注文して、食べきれずに残した。

「ああ、食った食った」

「もうお腹いっぱいです。さすがに頼みすぎましたね」

「いいんだよ。今日だけは俺は貴族様だ! 貴族様はなあ、たくさん食事を残すものなんだよ。喜捨だ喜捨」

「さすが先輩!」と角刈り先輩を持ち上げる後輩。

「そろそろ会計するか」

と2人が伝票をもって立ち上がる。

そのとき、彼らの後ろの席に座っていた全身が白い男が立ち上がり、2人に話しかける。

「君たち、もう食べないのか?」

「なんだよ、おっさん。食べねえよ。俺たちはお腹いっぱいなんだ」

「申し訳ないと思うか?」

「何言ってるんだ?」

「そうか。だから嫌いなんだよ、角刈りは」

全身が白い男は真っ白な刀を取り出した。

「お、おい。なんだよ。その真っ白いのは」

「米粒刀。悪しき角刈りよ、一刀両断!」

全身が白い男は先輩の角刈りを刈りつくしてその場を立ち去った。


読んでくれてありがとうございました。

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