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2話 レイバーという働き方

完結まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。

連れていかれたのはコンビニだった。いや、コンビニでいいんだろうか? 微妙に違う気もするが。青い外観のコンビニに見える。

ロン毛のおっさんがいう。「ここがお前の職場だ。お前はレイバーだから一応労働条件を説明しておくか。休日は毎週日曜日の週休1日。年末年始と合わせて年休はなんと60日。レイバーにしては破格の条件だ。

しゅ、週休1日!? 年休60日なんて新卒で入った会社の半分じゃないか。

「年休60日なんて違法だ!」

「なにが違法だ!? そうか。お前の元の国ではそうではなかったのかもしれない」

「元の国ってどういうことですか」

「ここはお前のいた国ではない。お前は死んで喜捨の世界に転生した。その際、この世界の罪人たちの記憶を上書きしたわけだ。つまり、公的にはお前は罪人として裁かされ、懲役を科される立場にある。さすがに懲役はわかるだろう」

「ど、どうすれば懲役は終わるんですか?」

「無期懲役を知っているか? どれくらいで終わるか? そうだなあ、お前が死ぬまでかな」ロン毛のおっさんは笑った。

絶望した。このまま死ぬまで働き続けないといけないなんて。

こんなことなら新卒の会社に我慢してしがみついておけばよかった。

もう毎日自由気ままに散歩するニート生活も、米田さんとの楽しいホームレス生活も許されない。社畜として死ぬまで働かされる。

「ちなみに労働時間だが、3交代制で2シフト連続、つまり日16時間労働だ。仕事は店長にでも聞いておけ。わたしの利益のために死ぬまで働いてくれ。くれぐれも死のうとか脱走しようなどと考えるなよ。どこに行ってもお前は懲役犯なんだからな」

そう言い残してロン毛のおっさんはいなくなった。

コンビニみたいな店の前に立っていると、店の中から怒った顔をした豚みたいな男が出てきた。

「なにやってるんだ! 店の入り口に立つな営業妨害だぞ!」

「ご、ごめんなさい」

「早く中に入れ」

店の中には様々な商品が並んでいる。食料品に飲料、お弁当、化粧品。でも雑誌はないみたい。それ以外は日本のコンビニにそっくりだ。

「ここは伊東様が所有される便利店だ」

「伊東様って、さっきのおじさん?」と豚が言う。

「伊東様をおじさん呼ばわりするな! 伊東様はこの一帯の便利店を経営するオーナーだぞ。お前のような懲役犯を雇用することで社会復帰を手助けしてやろうというお心積もりなのだ。感謝してきびきび働け。勤労奉仕だ」

「死ぬまでここで働くのに社会復帰ってなんですか!」

「口の利き方が鳴ってないな。わたしはこの店の店長、お前の上司なんだぞ。いいか。ここでは上司の言うことは服従絶対。もし違反したら刑務所送り、お前は死刑だ」

「し、死刑!?」

いやだ、また死にたくない。

「死にたくないならここで働け。わかったな」

「はい。わかりました店長」

この店の労働条件はワンオペが基本だ。最初はあまりにやることが多すぎてびっくりした。

商品の品出し、ホットスナックを揚げる、商品の会計、清掃作業は当然のこととして、税金、水道、電気料金の支払い、商品の発送ほかにも山のような仕事をすべて一人でこなさないといけない。

「早くしろ!」と怒鳴られるのは日常で、レジに行列ができると早くしないと思ってさらにミスが出る。

ようやく交代の時間になると、店長がやってくる。

「またクレーム来てたぞ! 減給だからな」

「そんな!」

この店ではクレーム一件につき給料が減らされる。

一度だけ先輩が教えてくれた。「ここの給料には期待しない方がいい。1か月働いて握り飯一つ食べられるかどうかってところだ」

「そ、そんな。いったいどうやって生きていけば」

「簡単なことさ。盗めばいい」

「盗む、ってどうやって」

「正確には廃棄処分品を食べるんだよ。まあ、違法なんだけどな。そこはうまい方法があるんだ」

といって、角刈りの先輩はやり方を教えてくれた。「狙うのはホットスナックだ。ホットスナックなら安いし、廃棄したといって胃袋に入れちまえばいい。いや、胃袋に廃棄したと言い張れば食べても問題ない」

「おにぎりとかパンは?」

「やめといたほうがいい。おにぎりやパン、弁当は数をしっかり数えていて、廃棄品であっても食べることはできないんだ」

「じゃあ、消費期限を過ぎたおにぎりやパンはどうなるんですか?」

「捨てるに決まってるじゃないか」

「そんな、もったいなさすぎますよ!」

おにぎりやパンを食べずに捨てられるなんてなんて世界だ。

「もったいないってなんだ?」

「え?」

先輩はもったいないという言葉が理解できないみたいだった。

「捨てるっていうのはいいことなんだよ。この世界ではいらないものを捨てることは喜捨といって喜ばしいことだと思われる。捨てないのは執着だ」

「商品として捨てられるのは商品にとってもありがたいことなんだ。商品なんて売るよりも捨てた方がいいと思っている連中もいるくらいだ。さすがにそれだと会社が成り立たないから、ある程度売ったら終わりなんだ」

「なんのために物なんて売ってるんでしょうね」

「さあな。給料がもらえればそれでいい。それがレイバーだ」

仕事で一番つらかったのは余った食料品の廃棄だった。

まだ食べられる大量の食品があって、それをトラックに載せるのを手伝うのだが、まだ食べられそうな食料が捨てられるのを見るのがつらくて辛くて、それを先輩に言ったら先輩が代わりに廃棄作業をしてくれることになった。その代わりに別の仕事を引き受けることになったけど、おかげで食料品が捨てられるのを見なくてよくなった。


読んでくれてありがとうございました。

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