1話 転生したら……
完結まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。
そんな感じでニートからホームレスにジョブチェンジ(ジョブはない)した。でも、就活をするつもりにはならなかった。
知り合いができた。
ホームレスの米田粒太郎さん。年は30いかないくらいで、僕のブルーシートで一緒に寝る知り合いだ。
「この世界はくそだ。会社がうまくいかないときに限って、金を返せと言っているクソみたいな銀行、金がないとわかると突然いなくなる社員、教えてもすぐに同じ間違いを繰り返すくず。そんな連中ばかりだ」
米田さんは会社を経営していたらしいが、最近の世界恐慌の影響で倒産。借金とりから逃れるためにホームレスになったらしい。
「僕たちって似てますね」
「あ? どこが似てるっていうんだ?」
「この世界に必要とされていないところが」
「ははは」と米田さんは笑う。「確かにな。ホームレスなんて俺らを必要とする家がないからホームレスになるんだ。俺は借金を抱えて妻と離婚し、娘も一緒に家を出ていった。もう俺を必要とするやつなんていねえ」
「僕がいます。僕には米田さんが必要なんです」
「いいんだよ。そういうのはさ」
「だって、一人だと暇ですからね」
「そうか」と米田さんは笑った。「確かに暇潰すなら一人よりはいいか」
米田さんとは、昔拾った濡れてしみた後がついたトランプで遊んだ。あとはくだらない話をした。
米田さんはいろいろなことを知っている。ホームレス歴が長いからだろう。例えば、近くの大型ショッピングモールのフードコートには無料でスマホを充電できる座席があることも教えてもらった。おかげで最近はショッピングモールで充電して、動画をみて時間をつぶしている。
食料も米田さんが持ってきてくれる。飲食店の廃棄物みたいなものを手に入れる方法も知っているらしい。
「すごいの見つけたぞ! めんたいこだ」
「めんたいこ!」
「これをよ、あまりもののご飯の上に乗せるんだ。めんたいこ乗せご飯の出来上がりだ!」
「おいしそう!」
最近は不景気のせいか、ホームレスが増えて食料争いが加速している。何も食べられない日があるなか、今日はごはんにめんたいこ。さらにデザートにプリンまである。
豪華な食事となった。そして、それが最後の晩餐になった。
おいしく食事を食べた。いや、ちょっと変な味がしていたような気もした。
食事の30分後、2人とも腹痛と猛烈な吐き気に襲われた。
食中毒だ。
最近は30度越えの暑さが続いている。食べ物は腐りやすくなっている。特に生ものは腐りやすい。
「しくじったな」
助けを呼ぼうにも、近くには誰もいない。スマホも動画を見ていたら充電切れ。
「ああ、死ぬんだな」
最後の光景は拾ったひびの入ったお茶碗に残った米粒。
なぜか食べてといわれてる気がした。お腹壊したのに、それでも捨てられない。
手を伸ばす。
「もったいない」
それからの意識はない。あっけない人生だった。享年25歳の夏。
目が覚めると、目の前にメガネをかけた禿のおっさんがいた。
「こいつは外れだな。スキルを持っていない」
あたりを見渡すと、ほかにも人がいる。
「前世も大したスキルを身につけないゴミみたいな人間だったんだろうな」と外野から声が聞こえる。
「そうか。では、レイバーだな」
僕は質問する。「あの、ここはどこですか? あなたたちは?」
「ここは教会だ。懲役刑を受けたお前には死ぬまで働いてもらう」
「え! な、なぜ」
よく見ると、手かせと足かせがはめられている。手も足も自分の元の体とは違う。どういうこと?
「お前は異世界から転生してきた。お前はいま罪人の体に入っている」
「意味がわかりません」
「別に知る必要はない。問答は無用だ」
ロン毛のおっさんがいう。「便利店で働かせたいのだが、いいでしょうか神父様」
「ああ問題ない。ちゃんと寄付金を払ってくれさえすればな」
ロン毛のおっさんはメガネ禿のおっさんに金を支払った。
そのあと、僕は屈強な男2人に手かせ足かせをつけられたまま連行された。
これからどうなるのか考えるのも怖くなって、声をも出すことができなかった。
米田さんはどこ? ここはどこ? 異世界から転生? そんな小説みたいなことあるわけない。
読んでくれてありがとうございました。