落ちこぼれ
全国の落ちこぼれ紳士淑女諸君。快適な落ちこぼれライフを送られているでしょうか? 元落ちこぼれの(現在もそうかもしれない)私から落ちこぼれ処世術を授けましょう。本題に入る前に落ちこぼれとは何ぞやと言う方々のために落ちこぼれクイズを出題します。
Q1 日本全国から頭が良い人(テストで点数を取れる人)を上位100人集めたとします。その100人の中で順位を決めるためテストをしました。中央値(平均点)以下の人は何人いるでしょうか。ただし同じ点数を取った人はおらず、この集団の点数のばらつきは正規分布に従うと仮定します。
a 0人
b 50人
c 100人
A1 bの50人です。
注釈:どんな集団を集めても中央値以下(正規分布に従うなら平均点以下)の点数を取る人は必ず半分います。驚かれるかもしれません。頭が良いのだから平均以下にならないのではないか。直感的にそう言いたくなるかもしれませんが、どんなに頭が良くても集団によっては平均以下になることもあります。全国で51番目に頭が良かったとしてもこの集団の中では平均以下です。
Q2 日本全国から頭が良い人(テストで点数を取れる人)を上位100人集めたとします。あなたは日本で100番目に頭が良かったので、その中に選ばれました。その100人の中で順位を決めるためテストをしました。あなたの順位は何位でしょうか。ただし同じ点数を取った人はいないと仮定します。
a 下から数えて1番目
b 100位
c 最下位
A2 a,b,cどれも正解です。
注釈:全国で100番目に頭が良かったとしてもこの集団の中では最下位です。この集団の中ではぶっちぎりの落ちこぼれです。順位が絶対である価値観の中であなたはこの順位を純粋に誇れるでしょうか。
Q3 日本全国から頭が良い人(テストで点数を取れる人)を上位100人集めたとします。あなたは日本で100番目に頭が良かったので、その中に選ばれました。その100人の中で順位を決めるためテストをしました。その時のあなたの順位は100位でした。1年後に再びテストがあります。そのテストであなたは何位になる可能性が最も高いでしょうか。ただし同じ点数を取った人はいないと仮定します。
a 1〜10位
b 50〜60位
c 90〜100位
A3 cの90〜100位です。
注釈:当たり前ですが、這い上がるのはとんでもなく難しいです。正直正気の沙汰ではないです。自分より頭が良い人に勝つ可能性は万に一つもないでしょう。基本的にあなたの上位互換なのですから。死ぬ気で努力したところで相手もそれと同等かそれ以上の事をしております。ひょっとしたら残酷なことに費やしている時間はあなたより遥かに少ないかもしれません。あなたは全国で100番目に賢いので十分化け物です。しかしその上は化け物中の化け物です。上澄みも上澄みです。現実はフィクションのようには上手くいかないものです。あなたはその事実に直面してもなお這い上がることができるでしょうか。
現在落ちこぼれている人は、状況を当てはめてみて下さい。多少の慰めにはなるでしょう。落ちこぼれたことのない幸運な人は、頭の片隅にでも入れておいて下さい。衝撃に備えて下さい。挫折しない人はいないのですから。過去に落ちこぼれたことのある人は、辛いでしょうが時折で良いので思い出して下さい。きっとあなたの助けとなるでしょう。飛翔に見紛う跳躍に強靭な踏み込みは不可欠なのですから。
では本題に入ります。以下に落ちこぼれ処世術を紹介します。
落ちこぼれ処世術三箇条
1 腐らないこと。
2 下には下がいる。
3 逃げよ。
落ちこぼれに必要なのは真っ当な正論ではなく一時凌ぎの詭弁です。大抵のことは時間が解消してくれます。人が危機的状況に陥った時にすがるものは、屁にもならないとんちやアホみたいな仮説や嘘みたいな屁理屈であることがよくあります。例えば、世界で一番サッカーが上手い集団がいたとします。その人達とサッカーのうまさを競ったら、ぶっちぎりで落ちこぼれです。しかし、サッカーの下手さを競ったらぶっちぎりのトップです。伸び代と言っても良いですが。屁理屈は人の苦難を解消することこそないですが、しばしの間それを忘れさせてくれます。
まず1の腐らないことについてです。腐るとは主人の座を明け渡すことです。生を放棄することです。これをすること自体にそこまでの善悪はありません。ですが、腐敗は伝染します。腐ったみかんのように。じわじわと精神と肉体を蝕んでいきます。これの厄介なところが不可逆的であると言うことです。そして恐ろしいことに自分で自分を傷つけていることに気づかなくなることです。きちんと供養しましょう。少なくとも完全に腐らなければ何とかなります。これだけは自信を持って言えます。私は一時期腐りかけましたが本当にどうとでもなります。たとえあなたが似たような状況に陥ったとしても、あなた自身がそれを証明してみせるでしょう。
次に2の下には下がいるについてです。屁理屈かと思われるかもしれませんがそうではないです。これは立派なアンチテーゼでしょう。確かに上を見ればキリがないです。しかしそれが言えるのならば、下を見てもキリがないとも言えるはずです。首が攣るほど上を見上げて落胆したら、奈落の底を恐る恐る覗き込みましょう。目も眩むほどの高さを、果てしない道行きを誇りましょう。下を見て自分の力を過信し、自信過剰に振る舞うようになったら、上を見上げましょう。きっと空から降ってくる雪の結晶が不格好な装飾品を削ぎ落としてくれます。例外なく謙虚になれるでしょう。
最後に3の逃げよについてです。何から逃げるのでしょうか? もう言わずもがなでしょう。そう、テストで良い点を取るのが絶対だという一面的な世界観からです。落ちこぼれると悲観的になり現実逃避したくなるでしょう。甘いです。逃げ足りません。逃げるなら徹底的に逃げまくらなくてはなりません。現実逃避は問題から目を背けているだけでいつかは直面する必要があります。先延ばしにしているだけです。そうではなく問題ごと吹き飛ばして仕舞えば良いのです。適度に相対化しましょう。物事は複数の要素が複雑に絡み合って出来ています。一つの指標だけで判断するなんてことは不可能に近いのです。ある要素で勝てないと判断したら別の要素に逃げれば良いのです。そこでやれそうならその環境でやれば良いのです。
別にテストで良い点を取るだけが人生ではないのですから。社会なんてのは基本的に落ちこぼれ同士の傷の舐め合いなのです。周りを見れば隠れ落ちこぼれだらけでしょう。要素に対する相性があるので、それらを相互に補完し合っているだけなのです。上手くやっているように見せかけているのです。まあ、落ちこぼれ同士仲良くしましょう。あなたの何気ない振る舞いがきっと誰かを救うでしょう。
では良い「落ちこぼれ」ライフを。