海水浴に関する閃き
僕は破綻枢軸の本部、そして残体同盟の拠点がある国──チュリパに来ていた。
残体同盟に所属する知覚系の異能者と会う約束を取り付けたからである。
位階の高い知覚系と会える機会は少ないので、この好機は逃せない。
──位階。異能者は位階という絶対的な指標で、連盟から格付けされる。
異能に覚醒した時点では、最下層の第9位階。
そこから祝福と術式の研鑽を重ねる事で、自らの位階を昇格させていく。
第3位階まで至った異能者は、畏敬を込めて上位者と呼ばれる。
極寒、灼熱、猛毒、真空。
人類が死に絶えるような環境でも、それが異能による攻撃でなければ、問題なく活動できる。生理現象すら克服した、人外の領域。
第3位階に昇格する事を、俗に人間卒業なんて呼ぶ異能者もいるくらいだ。
上位者に到達する者は、例外なく英雄が授かる祝福──異名持ちである。
そして、第1位階の壁を超えた規格外は、崇敬を込めて超越者と称される。
祝福によって若さと長寿を得る異能者の中でも、真に永遠なる不老の肉体。
人類の歴史全体で百名に満たない、個人で国家と同等に扱われる、神格の存在。
まあ、自分で言うのは恥ずかしいが、四大組合の最高戦力も一応は超越者に数えられる。
残念ながら、知覚系のシグネット使いで上位者に到達する者は希少だ。超越者は言うまでもない。
「そう考えると、スフィア・ミルクパズルは意外と凄い異能者だったのかもしれない。知覚系のシグネットで、上位者クラス」
知覚系。自身に特殊な感覚を発現させて、外界から情報を抜き出すシグネット。
それ自体は他者に対する干渉や攻撃に使えないので、戦闘向きのシグネットとは言い難い。
勿論、異能者の価値は戦闘能力だけではないが、位階を上げる過程で戦闘を避けられない場面があるのも事実。
そして、僕が求めるのは最高峰──できれば、知覚系シグネットを持つ超越者。ならば、選択肢は多くない。
指定された部屋に入室した僕は、テーブルの向こうで待ち構えていた明るい灰髪の女性に軽く挨拶する。
「今日は時間を割いてくれて、ありがとう。感謝する」
最近は世界を滅ぼす悪魔と淫祠邪教のクズ共とばかり交流していたので、まともな礼儀作法ができているか少し不安だ。
「前置きも感謝も要らないわぁ。貴女に会った方がより良い未来に繋がると、私が判断しただけだものねぇ」
灰色の髪をバレッタで留めた彼女は、胸の前で手を組んでおっとりと言う。
残体同盟に籍を置く超越者。未来を知覚するシグネット使い。預言のタヴ・モンド。
おそらく歴史上でも最高位の未来観測者だ。
「早速だけど、占いを始めちゃうわねぇ」
「占い?シグネットを使って欲しい」
「占いという型に嵌める事でノイズを減らして、未来を読みやすくするのが、私のスタイルなのよねぇ」
「なるほど。理解した」
敢えて複雑な手順を踏む事で、術式の精度を上げる。感覚の精度が生命線である知覚系がよく使う手法だ。
「ではでは、お客さん。どんな未来について占って欲しいのかしらねぇ?」
僕は予め用意していた答えを返した。
「黙示録と摂理の崩壊について」
「閃いた」
「……志鳳さんのコレって、何か繋がっちゃいけない場所に繋がってる可能性あるわよね。世界の総体意思的な……?なんやかんやから無意識にメッセージを受信してるのよ、きっと」
橙髪をハーフアップにした女性──サラート・シャリーアは、前回巻き込まれた事件を思い出して真顔で言った。
「なんやかんやって何ですかぁ?」
紫髪をサイドテールに束ねた女性──山藤杜鵑花が、LITH端末を弄りながら真っ当な突っ込みを入れたが、サラートは気にしない。
「つまり……人類は滅亡するわ!」
「原因と結果が結び付いてないんですけどぉ」
ちなみに、サラートの推測は奇しくも真実に近い。
天使と化した梧桐志鳳が、拡張思考回路で処理した膨大な世界情報。それを通常時の彼がシグネットで取捨選択し、無意識下で導き出した答え。
それが、梧桐志鳳の閃きの正体だった。
傍から見ると遠回りな手順を経る事で、術式の精度を底上げする。知覚系の常套手段。
志鳳自身に自覚がない点が、少し特殊だが。
「あはは、さっき観てたオカルト特集に影響され過ぎかな」
燃えるように赤いミディアムヘアの女性──信桜幕楽が小柄なサラートの頭を優しく撫でながら笑う。
当然ながら、その説を真に受ける者はいない。
知覚系の異能者が不思議ちゃんと呼ばれがちな理由の全てが、そこにはあった。
本日の喫茶ウールーズで駄弁っているのは、梧桐志鳳を含めた四名。他に来店者はいない。
ある意味、いつも通りの光景である。
「それはともかく、海水浴に行きたい」
「水着回の提案……本気よね!」
「水着になる必要ありますかぁ?どうせ礼装をモードチェンジするだけですしぃ」
杜鵑花が面倒そうに、LITH端末から顔を上げる。
異能者の戦闘は激しく、一般的な衣服では直ぐに破損してしまう。
故に、異能者は特殊な迷宮素材を使った礼装と呼ばれる祭具を身に纏っている。
礼装は着用者のマナを流す事で強度を補完でき、破損箇所も修復できる優れ物だ。
更に複数の衣装デザインが内部に記憶されており、状況に適した服装に再構築できる。
素材は変化しないので、本当に見た目が変わるだけだ。
「杜鵑花ちゃんは何も分かってないわ!美女が三人!海!と言えば、水着回なのよ!」
「あはは、今回は私も行く流れなのかな?」
「モチのロンよ!幕楽さんの女神のようなプロポーションを活かさない手はないわ!」
幕楽は友人達の中でも志鳳とアインの次に背が高く、女性的な色香に溢れる容姿をしているが、仕事中はバーテンダーのようなデザインの礼装に身を包んでいる。
「奇跡のボンキュッボン体型なのに、いつも男装みたいな服を着てるなんて、絶対に勿体ないわよね!」
「あはは、料理人は動きやすい格好が基本かな。それに、身長比だとバストはサラちゃんの方が……」
そこで、サラートは杜鵑花の無言の視線に気付いた。胸の下で腕を組んで、慰めるように言う。
「大丈夫よ!杜鵑花ちゃんもヒップの大きさなら負けてないわ!」
『口伝──|存在の耐えられない軽さ《フリー・フォール》』
サラートが引力によって飛ばされる。
壁に衝突しそうになったが、蓄積のシグネットで激突の衝撃を吸収したらしい。おかげで店の壁には傷一つなかった。
店を壊すと幕楽が怖い。杜鵑花もそれを分かって手加減したのだろう。多分。
「海水浴には心身をリフレッシュする効果があると聞いた。僕も日頃のストレスを解消したい」
「志鳳さんにストレスとかあるんですかぁ?」
悪意なく本音を溢す杜鵑花。
「正直ストレスはないけど、最近は精神的な疲労が溜まってる気がする。知覚系のシグネット使いにしか分からない感覚」
「そんな巨乳特有の悩みみたいな事を言われても反応に困るわ!あ、ちなみに異能者は美乳が多いわよ。祝福の効果で垂れないから」
「確かに、そんな気がする」
バーテン服の下からでも主張の強い幕楽の胸を見て、二人は頷き合った。
「と言うわけで、来た。水場の多さに定評のある真説大陸のパシフィス遺構」
「あはは、真説大陸の中でも商業が盛んな地域だね。私もたまに食材の仕入れに来るかな」
見渡す限り、全方位を水が囲んでいた。
パシフィス遺構の特徴は何と言っても水の多さだ。無数の河が重力を無視し、上へ下へと流れており、足元には海が広がっている。
マナで満たされた真説大陸ならではの異常な環境。
「なんかもう凄く水よね!水!」
マナで海上に足場を形成して、四人は歩いている。
「あはは、ちょっと懐かしいかな。知り合いの水の異能者を思い出したよ」
「流石にこれだけの水を出せる異能者はいないと思いますけどねぇ」
「第0位階でも難しそう」
第1位階に至った超越者の中でも、更なる規格外が分類される第0位階。
例えるなら、レベル100が上限のゲームでレベル101を記録した世界のバグ。
天使を降ろした梧桐志鳳でも勝てるか分からない、理不尽な最強。
それが──。
『失伝──完全無欠な矛盾』
──前触れもなく、目の前に現れた。
一瞬の出来事。巨大な水の矛が全員の視界を埋め尽くす。
最初に反応したのは志鳳だった。
『失伝──|針の上で天使は何人踊れるか《シースレス・エンジェル》!サラート!杜鵑花!』
回避は不可能だと即断し、閑話で叫ぶ。
『ッ!口伝──呪われた椅子!』
『口伝──|存在の耐えられない軽さ《フリー・フォール》!』
サラートが水の矛の一部を蓄積し、杜鵑花が軌道を逸らす。しかし。
『何よ、これ!?水量が異常過ぎるわ!私のキャパじゃ受け止めきれない!』
『逸らしても逸らしても、次々後続が来るんですけどぉ……!というか、出力が高過ぎですってぇ……!』
二人は暫く拮抗した後、志鳳と幕楽を連れて回避する。正面から対処できる術式ではないと判断したのだ。
そして、術式の主を確認する。
高所を流れる河の上に、前髪を水平に切り揃え、水色の長髪を靡かせた女性が立っていた。
彼女の周囲を守るように、大量の水の矛と盾が浮遊している。
「第1位階止まりの雑魚の口伝が、第0位階の私──戦渦のギーメルに通じると、本気で思ったのかしら?」
ギーメル・パペス。
残体同盟の頂点に君臨する女傑。
シグネットは水。水の矛で攻撃し、水の盾で防御する。
どこまでもシンプル。だが、馬鹿げた水量を精密に操作する彼女にとっては、あらゆる小細工を正面から打ち砕く最強の戦術だった。
『あはは、異名を自分で名乗るなんて、相変わらず品がないね。失伝──無秩序な熱狂』
信桜幕楽。
シグネットは炎。彼女は巨大な炎の鎌を振るったが、ギーメルを守る水の盾の全てを蒸発させる事はできなかった。
『断章取義の撃針、ね。面識があったかしら?私、雑魚は覚えない主義なの。貴女が第0位階に上がる前に会っていたとしても、多分忘れてるかしら』
『余所見とは余裕ですねぇ!』
『雑魚呼ばわりはムカつくわね!』
『僕達を侮り過ぎ』
幕楽と閑話で話し始めたギーメルに接近し、サラート・杜鵑花・志鳳が同時攻撃を仕掛けようとする。
そんな彼女達の頭上の水から、髪を逆立てた吊り目の男が飛び出した。
『おっと、そりゃそうだ。余所見は危険ですぜ、お嬢さん方。失伝──毒々しい爪』
ヴァヴ・パープ。
シグネットは毒。侵蝕の異名を持つ、世界一の猛毒使い。
これも、第0位階。
ヴァヴの毒を不意討ちで受けたサラートと杜鵑花は全身が麻痺し、高所から落水する。超越者はその程度で死なないが、直ぐに戦線に復帰するのは難しいだろう。
志鳳は辛うじて直撃を逃れたが、大量の毒を浴びてしまった。
『第0位階が二人!一体どうなってる?いや、それよりも不意討ちに気付けなかった……!』
志鳳は混乱する。過去を読んでいたはずなのに、ヴァヴが隠れている事を察知できなかった。
『驚いたでしょう?この認識を狂わせる遺物、中々役に立ちますぜ』
『前回の事件で回収された遺物……!』
やられた。超越者の立場があれば、連盟から押収品を借りるくらいは難しくない。
そして、異能者は自力救済。異能者同士の個人的な小競り合いに、連盟は関知しない。
『余計な真似をするかしら』
『労いの言葉くらい欲しいですぜ、ボス』
幕楽の炎鎌と志鳳の光槍をギーメルの水盾が防ぐ。流石に少し押されたが、ヴァヴが的確に毒を飛ばして援護し、水の矛が二人を蹴散らす。
『……私は残体同盟のボスじゃない。あの勝ち逃げ女の代理をやってるだけかしら』
『それは何度も聞きましたけどね。過去ばかり気にするのも体に毒ですぜ。っち、まだ動けるのか、壟断!技巧派の筆頭の癖に、体力も化け物ですぜ!』
数回の術式の応酬を経て、遂に志鳳へと水の矛が直撃する。
『まずは、一人。ここまで来たら、もう消化試合かしら』
『一応、壟断の追撃に行きますぜ。ああいう男は、死に体でも何するか分からないもんだ』
『陰湿ね。私は撃針を倒しておくかしら。今度は手を出さないで』
『おお、怖。その迫力だけは前ボスにも引けを取らないですぜ』
『……強さはどうかしら』
『言うまでもないでしょう?』
ヴァヴは尖った歯を見せて笑う。
『あの女が負けるところなんて想像できない。人類の総力戦とはいえ、よく退治できたもんですぜ』
信桜幕楽は激怒していた。
彼女は大層な野心のある人間ではない。
喫茶ウールーズで友人達と話し、自分の作った料理を食べて貰う。その生活に満足している。
ただし、それを脅かす者は。
『許さないかな』
幸福を意味する店名を付けた時から、決めていた。こういう時にどうするか。
『──封印解放。目覚めの時間だよ、私』
『頭が高い』
その言葉を聞いた時、ヴァヴは震えを抑えられなかった。閑話のマナに込められた、覚えのある威圧。
『は?……ぁ、え……?』
女王が、そこにいた。
残体同盟の前ボス。世界を相手に暴れ回り、討伐されたはずの女が。
退屈そうな表情。血のように赤いロングヘア。普段の幕楽よりも高い、志鳳に迫る程度の長身。
『全て、私に跪け』
──信桜幕楽の中に封印されている、もう一つの存在。
残体同盟の盟主にして、古の時代には最強とも謳われた女王。
異能社会の全てに喧嘩を売り、しかし彼女を誰も討伐できず。
最終的には貴重な遺物を消費して、脆弱な少女の肉体に封印された、正真正銘の化け物。
炎のシグネットを持つだけの少女の体に封印された女王は、恐ろしい事に新しい宿主にまで影響を与え、永い時を掛けて超越者へと導いた。
『失伝──至上なる命令』
擅権のベート・バトゥル。
シグネットは万物に対する絶対命令。人類の歴史において、彼女を超える支配系の異能者は──存在しない。
『失伝──完全無欠な矛盾ッ!!!』
ギーメルは歓喜した。
敗北したヴァヴには目もくれず、今の自身の全力を絞り出す。
『会いたかったかしら、ベートッ!!』
『退け』
ベートは短く命じる。彼女が命令したのは、ギーメルを守る水の盾。
自ら道を譲るように、水の盾に穴が空く。
『刈り取れ』
その穴を通って、幕楽が使っていた炎の鎌がギーメルに向かう。
志鳳にのみ許された複数シグネットの同時使用ではなく、幕楽の術式をベートが無理矢理シグネットで奪っただけだ。
『が……はッ……!』
久し振りのダメージに、ギーメルは口元を綻ばせる。
これだ。これを倒してこそ、彼女は真の最強になれる。
『待ちくたびれたの!私と踊って下さるかしら、ベートッ!!』
そう、今を待っていた。ずっとずっと、この時を。
だが。
『断る。恨むなら私の怒りを買った自分を恨め。──穿て』
ギーメルは背後から攻撃された事に遅れて気付く。
意識の外。
振り返ると、そこに立っていたのは──侵蝕のヴァヴ・パープ。
倒れていたはずの彼の麻痺毒が直撃し、全身に回り始める。
万物に対する絶対命令。意識を失った超越者の肉体を操る程度は容易い。
『どう……して……?貴女は私と同じ……死闘でしか満たされない……異能者……』
『人は変わる』
変わった?あの無慈悲な女王が?
『待つかしら……ベート……!私はまだ何も……』
必死に訴えかけるが、ギーメルに次の一撃を凌ぐ手段はなかった。
静まり返った空間。
ベートは足元の水に命令し、サラートと杜鵑花、そして志鳳を海中から引き上げる。
「今回は助けられた。ありがとう、ベート」
「礼は要らん。どうせ、まだ策があったのだろうが。ああ、だが心から感謝するなら……」
ベートがニヤリと意地悪く笑う。
「私のモノになれ、梧桐志鳳」
「……嫌だ」
「それで良い」
ベートは変わった。普通の感性を持った少女と、肉体と精神を共有する事で学習したのだ。
すなわち。
「お前は誰の命令も聞くな、私の最愛」
──恋を。
『超越者同士の戦いとは!面白い事もあるものだな!いやはや、実に面白い!』
悪魔が何か言っているが、僕はそれどころではなかった。
「明らかにおかしい……!」
『何がかね、孤高の青?』
超越者の動向は把握していたはずだ。第0位階の連中は特に、注意深く。
その上で断定できる。この動きはおかしい。
「戦闘狂のギーメルが戦いを仕掛けるのは理解できる。でも、そんな兆候は全くなかった。隠れてコソコソ計画を進めるなんて、あの女が一番嫌う事。つまり」
間違いない。
「焚き付けた誰かがいる」
『ほう、自力でその結論まで辿り着いたか。上出来、上出来』
「馬鹿にしないで。もしかして、お前と同じ黙示録が関係してる?」
預言のタヴ・モンドから聞いた、未来の大きな可能性。
僕の契約した悪魔とは別の黙示録が、世界を滅ぼす為に暗躍する。
『我輩の同族かね?君も知っての通り、黙示録には意思があるが、何でもできるわけではない』
そうだ。この悪魔は今のところ、僕にしか干渉できない。
『契約者の協力を得るか、契約者の肉体を奪って完全に受肉するか。それまでは、ただのお喋りな道具に過ぎない存在だろう』
「そう」
安堵した僕に、悪魔が囁く。
『話は最後まで聞くべきだ、孤高の青』
愉快げに、愉しげに。
『我輩は一言も言ってないだろう?現時点で受肉している黙示録は存在しない、などとは』
「……え?」
今、この悪魔は何を言った。
『これまで天使の関わった事件を見て、おかしいと思わなかったかね?』
そういえば、最初の火種。何故、臆病なはずのスフィア・ミルクパズルが、遺物の強奪なんて大胆な計画を実行したのか。
『火種が致命的な事態に発展するまでが早過ぎるだろう』
第二の火種。何故、竜の大群が迷宮から出てくるような異常事態が起こったのか。後の調査でも原因は不明のままだった。
『──まるで世界の崩壊を望む誰かが、意図的に手を加えたようじゃないか』
第三の火種。戮辱者の異様な強さ。組合の最高戦力が三人揃っても苦戦していた。単なる瘴気中毒者がそこまで強化されるものか。
「……確かに、不自然さは感じてた。それが作為的な、悪魔の同族によるものだと?」
悪魔は僕に突き付ける。
『その通り!気配から判断すると、ざっと十体程度。契約者の体を奪って受肉した黙示録が、世界各地に存在するはずだとも!』
「十……体……」
絶望的な真実を。