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【信桜幕楽】の大罪

 私は何処までも普通の人間だ。


 料理と計算が得意なだけの常人。全てにおいて普通の範疇だと自覚している。


「なるほどの」

 

 いつの間にか、エプロンドレス姿の小柄な女性が私の顔を覗き込んでいた。


「……貴女は誰?」


「妾は『福音』。異名持ちだの超越者だの言っても、お主には分からぬだろうし……正義の味方とでも思っておけば良い」


「そうは見えないかな」


 肌が灼けるような凄まじいエネルギーを感じる。どう見ても尋常な存在ではない。私は指先から炎を放って牽制した。


「異能に目覚めておったか、小娘。だがまあ、覚醒したての児戯では妾の肌にすら届かんよ」


 彼女がパンと手を叩くと、小さな炎が綺麗に消える。私は背を向けて歩き出した。


「何処へ行く?」


「空が曇ってきたから、雨が降る前に洗濯物を取り込みに行くんだよ。できれば、貴女も手伝ってくれると助かるな」


 村を追い出されて1人で野営している私にとって、早めの行動は重要である。


「妾の事が気にならんのか?」


「気にしても仕方ないよ。力の差があり過ぎる以上、危害を加えてきても抵抗できそうにないし」


「くかかっ、どのような状況に置かれても普通でいられる異常性。故に、不気味な存在として排斥される。正しく、妾が求めておった人材よな」


「そうなんだ。凄いね」


 適当に相槌を打っていると、不意に腕を掴まれた。クリーム色の髪にカチューシャを嵌めた福音と目が合う。


「震えておるの。強者に対する恐怖……ではないな。もしや、お主、人間が怖いのか?」


「多分、そうだね。近くに人がいるとパニックになって上手く体が動かせないかな。無意識の反応だから、私にはどうしようもないけど」


 昔から他人の悪感情を向けられる機会が多かったせいではないか、と私は予想していた。


「……それさえも冷静に捉えるか。しかし、人が怖いとはお誂え向きよの。女王を封じるならば、器の対人戦闘能力は低いほど良い。その心の傷は好都合と言える」


 彼女は一瞬だけ哀れむような目をした後、童顔に似合わない悪辣な笑みを浮かべる。


「今日は一先ず帰るが、また近い内に来る。何か欲しい物はあるか? こんな生活では買い物もままならぬであろ?」


「じゃあ、恋愛小説が欲しいかな」


「恋愛……似合わぬの。お主が他人に特別な好意を抱くところなど、想像できん」


「私にだって、手に入らないモノに憧れる気持ちくらいあるよ。貴女は違うのかな?」


「さて、どうだったかの」


 福音は静かに去った。また、干し肉を齧るように味気ない日常が戻ってくる。


 こんな特別な出来事を経ても、私は昨日と同じ普通の人間だ。物語の主人公にはなれないな、とつくづく思う。きっとこのまま一生変わらないし、変われない。


 ──私が何かに執着したり失いたくないと願う未来なんて、全く想像できないから。




「おはよう、幕楽」


 深い青色が目に入る。どうやら、私はまだ生きる意味を失っていないみたいだった。


「ん、ゅ……。志鳳くん?」


 料理人の習性と言うべきか、一度目が覚めれば頭が働き始めるのは早い。


 胸の谷間を押さえる。もう1人の意識は感じられない。ただ、私の発声に合わせて上下する膨らみが見えるだけだった。それが少し寂しく、心配でもある。


 昔はあんなに忌々しかった女王の存在が、今では私の一部になってしまった。その事に苦笑しつつ、私は少し硬めのベッドから起き上がる。


「ごめん、僕が女王の力を使わせたせいで、気絶するくらいの負担が……」


「あはは、それは言わない約束かな。志鳳くんこそ、また無茶したんだよね?」


 志鳳くんが気まずそうに縮こまる。背が高くても反応が子供っぽいから、思わず揶揄いたくなるんだよね。


「僕は好きでやってる事だから」


「あはは、私も好きでやってるよ」


「僕の方が好き」


「私の方が好きかな」


 志鳳くんは先に押し黙った。無表情のせいで分かりにくいけど、彼の素の性格は割りと打たれ弱い。


 強い自分を演出している時は、凄く頼りになるんだけどね。私はこっちの……初めて会った時と変わらない志鳳くんも好き。


「今、ベートはどうなってる?」


「完全に眠ってるね。話しかけても返事がないよ。ゆっくり休んでくれると良いけど」


 胸元に埋まった遺物を撫でる。あまりにも無茶をし過ぎた。遺失支族との戦いが終わったら、猪尾(イオ)ちゃんに封印を強化されてしまうかもしれない。


「それで、志鳳くん達の状況は?」


「異界の精霊使い達と協力して、この世界を追い詰めている元凶──呪いの黙示録『フォビア』を倒す事になった。今はプレイスホルダーが起きるのを待ってる」

 

「志鳳くん達だけで倒せないのかな」


「難しい。フォビアは『衰弱』のディザイアを使う。近付くと歩行や思考すらできなくなるらしい。遠距離攻撃も届く前に勢いを失う。かなり危険な相手」


「確かに、普段より少し体が怠いような……? あはは、急いで失敗するよりかはプレイスくんに任せた方が良さそうだね」


 志鳳くんとアインちゃんが考えた作戦なら、そっちの方が確実なのだろう。過去のシグネットは勝算の判断に長けている。


「じゃあ、それまでは待機かな?」


「いや、他にもやる事は沢山ある。この世界の精霊文化から学べる技術も多そうだし、アイン達は既に交流を……」


「シホー、遊ぼ」


 本を抱えた青い髪の少女が駆けてきて、志鳳くんの服を引っ張った。


「向こうの世界のお話、聴かせて」


「分かった。サファイア、ちょっと待って」


「あはは、兄妹みたいだね」


「僕は師弟のつもり」


 そんな事を言いながら、彼は私の手をそっと握る。昔に比べて対人恐怖症は改善してるから、流石に子供1人が近くにいるくらいは平気なんだけど……。


「あはは」


 私は過保護な友人に呆れつつ、彼の大きな手を握り返した。




 料理人にはあらゆる能力が求められる。私は戦闘のセンスがない代わりに、基本六術を高レベルで満遍なく習熟していた。


「焼き菓子を食べただけで、腕が治った……!? どういう理屈だ……!?」


 全身をローブで覆ったアレキサンドライトくん……長いからアレキ君って呼ぼうかな。彼は久し振りに動いた左腕を驚きの表情で見ている。


「瘴気の蓄積が原因だったからね。簡単な浄化と治癒の術式(スパイス)で治せたよ」


 瘴気が有害物質なのは私達の世界と同じだけど、この世界では精霊を汚染して『悪霊』という存在に変える効果もあるらしい。


「悪霊の降霊実験で腕を蝕まれてから、完治はとうに諦めていたが……」


「危ない事をしてたんだね」


「ああ、違法な実験だ。おかげで、国外に追放されてしまったよ」


 アレキくんは動くようになった肩を竦める。


「その祖国の連中が魔王フォビアの軍勢に皆殺しにされ、私だけが生き延びて活躍の機会を得たというのだから……。ははは、皮肉なものだろう」


 言葉はハキハキしてるけど、本心を隠すような喋り方をする人だ。プレイスくんとちょっと似てる。


「ともあれ、君の治療には感謝する。何か礼を……と言いたいが、今は私の開発した精霊術を教えるくらいの事しかできないな」


 精霊。彼らが扱うエネルギーの塊については、既に説明を受けていた。


「精霊術? 異能者でも精霊を扱えるのかな?」


 私達の『異能』と『精霊』が併用できるなら、苦手な対人戦闘を精霊に任せられるかもしれない。私は少しの期待を込めて質問する。


「普通は無理だ。君達は霊気(マナ)の密度が高過ぎて、精霊を身に宿す余地がないからな。精霊を体外で自在に操れるのは私やナサヤ君のような『霊能者』のみ」


 こっちの世界では稀に精霊を使役できる才を持った男性──霊能者が生まれてくるそうだ。勿論、別世界が出身の女性である私にそんな才能はない。


「だが、今回だけは例外だ。信桜幕楽君。炎の化身と言って差し支えない属性の塊である君なら、精霊が永住する為の『土地』となれるかもしれない」


 人間じゃなくて自然環境扱いなんだ……。


「ちょうど良い。少し離れた場所に、瘴気に侵されて悪霊化した『熱の精霊』がいる。理論通りに調伏できるか試してみよう。当然、私も精霊術の専門家として手を貸す」


「え、危ないよ? ここで待ってて良いのに」


「いや、見届ける。責任と結果の伴わない仕事など、子供のままごとと変わらない」


 むぅ……固い決意。でも、私の火力に巻き込まれたら死んじゃうし、どうしよう。


「じゃあ、せめて危険を感じたら迷わず逃げてね。それが約束できるなら連れていくよ」


「無論。緊急退避は私が使役する神格精霊の得意分野だ」


 それなら、まあ良いか。本人がここまで言えば、消し炭にしちゃっても志鳳くん達に言い訳は立つよね。


 多分、摂理がボロボロになってそうなこの世界で蘇生の術式は使えないけど、アレキくんが希望した事だ。死んでも恨まないで欲しい。




「幕楽君! 起きたのか!」


 避難所の子供に料理を教えていると、アインちゃんに背後から抱き締められた。


「良かった……! 君が倒れてから、ずっと気が気じゃなかったんだぞ……!」

 

「あはは、心配し過ぎだよ。……オニキスちゃん、後は1人でできる?」


「うぃ」


 黒髪の少女は包丁捌きに集中しているようで、煩わしそうに生返事する。この様子なら大丈夫そうだ。


 最初は肩に無駄な力が入っていたけど、今はかなり良い姿勢になっている。これまで色んな人に調理技術を伝授してきたので、彼女に調理の才能がある事は直ぐに分かった。


「それにしても、話に聞いてたイメージよりずっと平和な世界だね」


「ああ、確かにそれはそうだな。最低限の衣食住は確保できてるし……。正直、黙示録の侵略を受けてるとは思えないくらいだぞ。奴らはもっと積極的に人類を害するものじゃないのか?」


「平和に見えるのは表面だけだ」


 アレキくんが私達の会話に割って入る。


「魔王フォビアが存在する限り、この世界の生命は常に衰弱の呪いの攻撃対象だ。早い話、生殖能力が阻害されている。時間経過と共に、人類は遠からず絶滅する運命だった」


「……ん? だが、若い子供達がいるのだから、まだ猶予はあるだろう?」


 頭の回転の速い2人の言葉の意味を遅れて理解した。つまり、若い間に子供を産めずに次世代が途絶える事が深刻な問題らしい。


 うちの派閥メンバーは100歳越えても普通に出産するから、すっかり忘れてたなぁ……。そう言えば、未能者は一定年齢を過ぎると子供を作れなくなるんだった。


「この避難所にいる者達は、ナサヤ君と契約した偽りの神格精霊『カウンターフィト』の能力で心身を弄っている。それでも効果には個人差があり、生殖可能年齢の人類はもう少ない」


 声の聴こえる範囲の人達が一様に顔を曇らせる。啜り泣く老人もいた。この世界では性に関する話題に気恥ずかしさなど一切なく、重苦しい絶望を伴う話題と化している。


「本来ならば、この世界の人間だけで解決するべき問題なのだろう。しかし、時間がない現状では君達に希望を見出ださずにはいられない。フォビア討伐の希望を……」


「そんなに強いの?」


「少なくとも、この世界で屈指の実力者であるナサヤ君でも殺せなかった」


「殺せなかった……? ふむ……」


 アインちゃんの目付きが鋭くなった。何か考え事をしている時の癖。私は思考の海に潜る彼女を邪魔しないように、一旦話を切り上げる事にする。


「それなら、私達も戦いに備えて用意しないと。アインちゃん、ちょっと精霊を捕まえに行ってくるよ。ご飯は作り置きしといたから、私の帰りが遅くなったら温めて食べてね」


「ああ、すまな……」


「まーくーらーさーん!」


 部屋を出ようとした私の胸に、小柄なサラートちゃんが飛び込んできた。


「やっぱり幕楽さんがいると癒されるわ!」


「退いてくれ。外出の邪魔だ」


 アレキくんが無慈悲に引き剥がそうとするも、サラートちゃんは離れようとしない。


「私達の蜜月タイムを邪魔しない事ね、ローブ男。あんまり舐めてると……オギャるわよ」


「意味不明な脅しは止めろ」




 異能者の心身は経験に応じた祝福を得る。炎のシグネットを使い続けた私の体には、熱に対する世界最高峰の耐性が備わっていた。


「少し暑いね」


 礼装が燃えてしまわないように、マナを流して祝福を分け与える。


「少し、だと……!? ごほっ……! この熱気はもう、そんなレベルではないだろう! ……どういう事だ? 『熱の精霊』はごく普通の悪霊だったはず。考えられる原因は」


 アレキくんは喉を押さえながら、辛そうに咳き込んだ。そして、私の方を見る。


「君か……? 君の存在に引き寄せられた火に纏わる精霊達が、熱の精霊を核に集まり、1つの強大な精霊になろうとしているのか? ──伯爵級『葉柄間欠泉』!」


 セントレアの悪霊事件を思い出した。単独では脅威にならない存在でも、合体すれば超越者を脅かす戦力になる。


「属性複合の精霊術も焼け石に水……。不味いな。このままでは神格に近い悪霊が生まれかねない。悪いが、検証は中止だ! ここまでの大事になるとは想定外……」


「あはは。……ねぇ、アレキくん」


 私は鎌の器仗を振り被り、最後の警告をした。


「約束」


「……! 『ハーメルン』……ッ!!」


 隣に立っていた人間の気配が消える。危険を感じたら迷わず逃げて、という約束は覚えていたようだ。もしくは、単純に生存本能が退避を選択させたのかもしれない。


 どちらでも良い。やっと、本気が出せる。


『熱いの1発、お見舞いしてあげる』


 熱の悪霊は同族を食らって成長していく。でも、まだ攻撃はしてこない。理解しているのだろう。生半可な火力では私を倒せない事を。


 私もまた集中を高めていた。ウールーズの皆とずっと一緒にいる為に、私は強くならないといけない。その想いを薪として焚べ、極限の集中状態──妙覚に突入する。


 互いの状態が最高潮に達した。

 

『失伝──幸福なる過熱(フラッシュ・オーバー)!』


『……!!』


 蒼炎が爆発的に燃え広がる。熱の悪霊が放った業火と蛇のように絡まり合い、熱波に肌がチクリと痛んだ。


 炎と炎の殴り合い。純粋な火力勝負。


『勝たせて貰うよ。ウールーズのリーダーとして、頼りになるって思われたいからね』


 私が戦う理由なんてそんなものだ。だけど、その理由にはどんな高級食材よりも価値がある。


『あれ?』


 術式を介して嫌な手応えが伝わってきた。これは、迷宮の外郭を壊した時のような……。


『あ、そっか』


 私達は渡界者。この世界にとっては外部から侵入したばかりの異物だ。異能で刻んだ爪痕が自然修復されない可能性もあるのかな。


『あと少し決着が長引いたら、ただでさえ壊れかけの摂理が大変な事になってたかもね』


『……!?』


 蒼い炎が熱の悪霊に引火する。マナで構成された不定形の体を私の炎が焼き尽くした。


『あはは、私の勝ち』


 火力は互角。熱に対する耐性……祝福の強度もほぼ互角。


 勝敗を分けたのは制御能力だった。火力が上がれば上がるほどに、そのコントロールは難しくなる。


『──私、火加減の調節は得意だよ?』




 私達の戦いが周囲に与えた影響は深刻なものではなかった。それもこれも、固有術式に浄化の効果と活術を組み込んでいたおかげだと思う。


『火を使った後の片付けまで気を回さないと、料理のプロとは呼べないかな』


 熱の悪霊は浄化されて精霊に戻り、私の周りをゆらゆらと漂っている。調伏には成功したみたいだ。


『やってくれたな、異界の神よ!』


『え……?』


 水の触手がお腹に叩き付けられる。私は勢いのままに地面を転がった。


『先程の衝突で大陸の一部が蒸発し、異常なエネルギーを注がれた土地が『霊脈』と化した! 火属性のみならず、あらゆる属性の精霊が寄り集まって活性化している!』


 巨大なイカの姿をした水の塊が怒りの思念を飛ばしてくる。あれも精霊なのかな?


『そのせいで、慎ましく精霊を狩って力を蓄えていた我輩の計画が台無しだ! あれだけ群れられると、如何に海の精霊『カナル』と言えど、分が悪い! どうしてれる!?』


『えっと……ごめん。カナルくん、だっけ? 頑張ってて偉いね。そんなに弱いのに』


 神格どころか上位者よりも弱そうなのに、さっきの戦いを見て文句を言ってくる度胸は評価したい。


『ああああああああ……っ! 殺す!!』


 再度、私目掛けて水流が伸びてきた。


『いずれ神に至る予定の我輩に対する不敬! その身で償……』


『失伝──無秩序な熱狂(ワイルド・オージィ)


 私は炎の鎌を生み出してバラバラにした。


『馬鹿な! 熱の精霊との戦いでエネルギーを使い果たしたのでは……!?』


『あはは、そんな事、一言も言ってないよ』


 それにしても、イカかぁ。栄養価が高くて美味しい食材の代表格だ。肉体を持たない精霊なのが本当に惜しい。


『残念だなぁ』


『ひっ……! 神とはこれほどまでに理不尽な存在なのか……!!』


 海の精霊は一目散に逃げ出した。別に追う理由もないので、私はバイバイと手を振って帰り支度を始める。


 具体的には礼装の修復だ。流石にあの熱量に服の方は耐えられなかったようで、直すのには時間がかかる。


「皆、ちゃんとご飯食べてるかなぁ」


 私は熱の精霊と戯れながら呟いた。




「本当に単独で調伏したのか……」


 私に纏わり付く熱の精霊を、アレキくんが引き気味の顔で観察している。


「やはり、神はモノが違うな。我々の常識から外れた……正に規格外の不条理だ」


「そうかな?」


 私は首を傾げた。 


「私はおかしな運命に選ばれただけの、普通の女の子だよ。アインちゃん達みたいに自力で超越者になったわけじゃないし」


 胸元の遺物に手を当てる。思えば、全ての運命の始まりは女王だった。私は彼女に巻き込まれただけの端役に過ぎない。


 アレキくんが私の言葉に目を見開く。


「まさか……その反応は遺物? 天与の鬼才を持たない常人でも……。人は何らかの手段で神に至れるというのか……?」


「あはは、ノーコメントで」


 女王の存在を説明するとややこしくなる。私は適当に笑ってはぐらかした。


「それにしても、漁夫の利を狙って幕楽さんに攻撃を仕掛けた精霊はざまぁだったわね! 雑魚イカの分際で、我輩がどうとか偉そうな口調してるからよ!」


「いや、我輩はセンスあるだろう」


「僕もありだと思う」


「まあ、そこは許すわ!」


 アインちゃんと志鳳くんに言われて、あっさりと前言撤回するサラートちゃん。可愛い。


「きゃひひ、幕楽さんが精霊使いになってるなんて、プレイスさんが目を覚ましたら驚くんじゃないですかぁ?」


「良し! せっかくだから、寝起きの一番ビックリするタイミングで見せるぞ!」


「プレイスホルダーは反応が良いから楽しみ」


「リアクション芸人みたいな扱いね!」


 悪友のような笑顔で肩を組む4人。自分が自然に笑っている事に、彼は気付いているだろうか。


 やっぱり、志鳳くんにはアインちゃん達が必要だ。彼が彼でいられる世界。それが私の幸福。 


「あはは、愛してるよ、皆」


 こんな日々が永遠に続けば良いのに。




「きゅふふ☆」


 和気藹々とした雰囲気に混ざった聞き覚えのない笑い声。全員が一斉に窓の方を見る。


 目の下に涙マークの化粧を施し、ピエロを思わせる派手な衣装を着込んだ少女……のような何かが窓枠に腰掛けていた。


「フォビア……っ!?」


『口伝──呪われた椅子(バズビーズ・チェア)


 ナサヤくんの叫び声が響くよりも早く、サラートちゃんの投げナイフが飛ぶ。

 

「あら、いきなりご挨拶ね☆」


 途中でナイフの勢いが減衰し、床に落ちた。


「何か凄いエネルギー反応があったから、あたしが直接様子を見にきたんだけど……。心強い助っ人がいたみたいね☆」


 フォビアと目が合う。私はその魔王に対して、他の黙示録とは違う感想を抱いた。


「……見ての通りだぜー。今度こそ、俺達はアンタを殺せる」


「そう。次はしっかり殺してね、ナサヤ。じゃないと……また沢山、人が死ぬわよ☆」


 嫌悪感はなかった。だって、この黙示録は。


「きゅふふ、さあ、道化芝居(サーカス)を始めましょう☆」


 ──志鳳くんに似てるから。

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