表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/64

【新機種】に関する閃き

 異能者は基本的に、未能者と深く関わりたがらない。


 勿論、百年弱しか生きられない未能者との死別を嫌っての事でもあるが、それだけが理由ではなかったりする。


 かつて、超常の力を扱う異能者は、未能者から崇め奉られる存在だった。


 覚醒したばかりの異能者でも、人知を超えたエネルギー──マナの精製と、肉体の最適化──祝福の力によって、未能者を遥かに凌ぐ超人となる。


 位階の高い異能者に至っては、生み出す利益が計り知れない。


 更に、優秀な異能者は戦闘能力も相応に高い。


 彼らの振るう術式とシグネットの力を目の当たりにすれば、未能者同士の戦争など馬鹿らしくなる。


 そうして、異能者と未能者の共存は、世界に平和と繁栄を齎した。


 仮に、古来より異能者が存在していなければ、この世界の文明の開始と発展は遅れ、歴史は大きく変わっていただろう。


 しかし、理想的な両者の関係は、時が経つにつれて綻びを見せた。


 いつしか、文化や生活様式の違いに端を発する小さな軋轢をきっかけに、少数派の異能者が弾圧されるようになっていく。


 最終的に、異能者に対する差別や不当な搾取が始まった時点で、遂に不満が爆発した。


 ──異能革命。


 表向きには、天変地異による世界の混乱期と記録されている。


 しかし、その実態は各国で冷遇されていた異能者達の一斉蜂起であった。


 精神系の異能者を総動員して、世界中の未能者の記憶と認識を改竄し、異能者という存在の痕跡を消し去った、正しく革命。


 その社会変革を契機に、異能者は表舞台を降り、現在の国際異能連盟が完成した。


 異能者が誰からも縛られず、自由である為に。




「だから、未能社会にまで根を張っている遺失支族は、異能企業としては変わり種なわけですね」


 スフィアが歴史の教科書を捲りながら、得心したように呟く。


「ほ、ほとんどの社員や顧客には、異能関連の商品は見せていないだろうが、それにしても大胆な真似をする」


 実は、少数であるが、現代を生きる未能者の中にも、異能者の存在を知る者はいる。


 そもそも、実在する異能社会を隠している都合上、勘の良い者や一流の人材であれば、違和感に気付く可能性は高い。


 物流、地理、歴史、人口。


 それらの違和感を足掛かりに、真実に限りなく近付いた優秀な未能者には、二つの選択肢が与えられる。


 すなわち、連盟の協力者となるか、記憶を封じる措置を受けるか。


 そして、協力者となった未能者は、マナを充填した祭具を贈呈され、異能の装備を扱う者──異装者と呼ばれる。


「連盟と円卓にも、予め許可取っちゃってるみたいだから、そっちの線で追及しちゃうのは無理だけどね……」


 異装者にも待遇の差があり、最も強い権限を有するのが、異能社会に大きく貢献した未能者に与えられる、円卓勲章の受章者。


 通称、円卓。

 

 円卓の主な仕事は、異能社会と未能社会の橋渡し役。と言えば聞こえは良いが、要するに面倒な利害の調整役だ。


 異能者が未能社会で派手に行動する場合、事前に彼らの許可を取ってさえいれば、万事丸く収めてくれる。


「よ、よく円卓が認めたな。彼らは異能者と未能者の棲み分けに厳しいはずだが」


 円卓は、未能者の集団でありながら、異能社会に対しても強い発言力を持つ。


 未能社会における情報操作・事後処理・人材勧誘などを一手に担う事で、異能者達の信頼を勝ち取っているのだ。

 

 特に影響が大きいのは、人材勧誘だろうか。


 異能に覚醒するのは、異能者の血を引く子供だけではない。アインのように在野の人間が異能に目覚める事もある。


 そういった突然変異的な異能者を発見・保護し、国際異能連盟への登録を促すのも、円卓の役割だ。


「まあ、地道に根回しすれば、無理な話ではありませんよ。未能者で構成されている円卓は、世代交代が早いですからね」


 スフィアは机の表面を指で叩いた。

  

「それに、私が遺物の強奪なんて、らしくないリスクを冒したように、黙示録には思考を誘導する能力もあるようですから」


「思考の誘導……?」


 彼女の発言を聞いて、僕の中で何かが引っ掛かった。


 黙示録の能力は、世界の上書き。これが、現段階での僕の仮説だ。


 では、これまで摂理崩壊の火種を誘導してきた能力は、完全に別種の力なのか?


 黙示録は、一見すると何でもありのチート連中だ。


 だが、僕の目には、あれはあれで何らかのルールに縛られている存在に見える。


「どうしちゃったんですか、王?」


 シビュラが心配そうに僕を見る。


「いや、何でもない」


 内へ内へと思考を潜らせてしまうのは、引き篭もりの悪い癖だ。


「と、ところで、王。待ち合わせの時間は良いのか?」


 ドルクに問われて、僕はLITH端末を取り出し、時間を確認する。


「ん。そろそろ時間。じゃあ、行ってくる」


 僕だけで考えていても、埒が明かない。だからこそ、外部に糸口を求めてみよう。


「軽いですね。仮にも世界有数の危険地帯に踏み込む直前ですよ」


「辞世の句でも詠む?」


「縁起でもない冗談は止めて下さい」


 割りと本気で頬をつねられた。痛い。


「ぶ、武運を祈る」


「無事に帰って来ちゃってね!」


 ドルクとシビュラに手を振り返す。


 断章取義の薬師が調合した、悪魔を抑える薬を服用して、全ての準備は整った。


 さあ、行こうか。


 世界屈指の危険地帯──対抗神話のイカれ研究者達が支配する隔離区域へ。




「閃いた」


「んあ?……おお、何かえ?」

 

 志鳳に寄り掛かって微睡んでいた金髪の青年──プレイスホルダーが、姿勢を正して相槌を打つ。


「新機種のLITH端末を見に行こう。最近、端末の調子が悪い」


「余が端末内で術式を連発して、負荷をかけ過ぎたせいかもしれんな。申し訳ないかえ」


「別に良い。どうせ新機種が出たら買い換えるつもりだった。僕は欲しいものに対する出費は惜しまない」


『少しは惜しんで欲しいでありんす』


『ヂィ、ヂィ』


 志鳳の大味な金銭感覚に対して、眷属と隷獣から苦情の閑話が届いたが、彼は居留守を決め込んだ。


「ついでに、プレイスホルダーの個人用端末も選ぼう。義体の完成祝いに、僕が買ってプレゼントする」


「何から何まで、かたじけない」


 ここは巨大な島船──梧桐派閥の本拠地に設けられた休憩室。


 アイン達による義体の調整と改造が無事に終わり、プレイスホルダーは新たな体を手に入れた。


 その後、梧桐派閥の拠点に居候しながら義体制御の慣熟訓練をしていたのだが、それも上々な仕上がりとなっている。


 となれば、リハビリがてらに外出するのも悪くない。


「王は暇さえありゃ、あちこち飛び回ってるよな。まあ、行き先は分かってるから、俺ら親衛隊級としては問題ないけどさ」


 薄紫の交じった銀髪を二つに結った男性──梧桐派閥の親衛隊隊長・(ヤオ)飛龍(フェイロン)は、LITH端末上でカードゲーム対戦に興じながら口を挟んだ。


「お、また俺の圧勝級だな」


「ああっ、切り札を出す前に負けたある!血も涙もないね、飛龍!」

 

  桃髪に水色メッシュの女性──親衛隊副長・(リー)獲麟(フォリン)が、怪しい梅国人のような口調で悲嘆に暮れる。


「コストの重い札ばかり積んでいるせいだと思います。どうぞ」


 濃紫に染まった三つ編みの女性──親衛隊参謀・(ワン)筮亀(シーグイ)は、連敗中の獲麟に対して抑揚なく指摘した。


「そういや、プレイスホルダーの兄ちゃんは気軽に出歩いても良いのか?未登録の超越者級だろ?」


「大丈夫。連盟と円卓には本人の口から事情を説明したみたい」


「異能社会と未能社会、双方の管理機関に話を通す必要があって骨が折れたかえ。異能革命とやらによる社会構造の変化を肌で感じられたのは良かったが」


「一々、考え方が真面目あるなー」


 獲麟が呆れた表情で溢す。


 実際、プレイスホルダーは超越者にしては珍しいほどに、根が真面目である。


 志鳳の知る中では、神聖喜劇のヴァルナ・ジェインに次ぐかもしれない。


「それで、結局どのような扱いになったのですか?どうぞ」


 筮亀は事務的な口調で要点を確認する。


「うむ。連盟も円卓も、今のところは静観すると言っておった。同志が後ろ楯になってくれたおかげで、行動制限も少なく済んだかえ」


「王は運悪く色んな事件に巻き込まれて、そのまま解決しちまうせいで、お偉いさん級からの評価が異様に高いからな。実績だけなら超越者級でも十指に入るんじゃないか?」


 飛龍が長い髪を弄りながら言うと、志鳳は何とも言えない顔をする。


 志鳳は超越者全体としては若い方だ。その点を考慮すると、彼が大事件に巻き込まれる頻度の異常性が際立つ。


 実際には、志鳳自身が無意識に悲劇を解決しようとした結果なのだが、真相を知るのはプレイスホルダーくらいだ。


 身内からも、ただただ絶望的に運が悪い男と認識されている。




「と言うわけで、来た。端末の製造量に定評のある梅国」


「種類が豊富過ぎて逆に選び難いかえ」


 プレイスホルダーは、大量に並ぶLITH端末を前にして目を白黒させた。


「どうせ超越者の権限で改造するんだから、適当に気に入った機種を買えば良い」


「それもそうか」


 志鳳の助言を受けて、プレイスホルダーが顔を上げ、壁に設置された広告映像を見る。


 画面の中では、赤と白の交じった短髪の女性が、元気な声で端末の宣伝をしていた。


『貴方と寄り添い、進化するLITH端末!ボーア社の技術を結集したニューモデル!』


「この時代は、何処に行っても広告というものが目に入る。あの広告塔の娘も有名人かえ?」


「売り出し中の直魂アイドルグループ、真善美のリーダー、バーティカルバー。まだ知名度はそれほど高くないけど、演劇畑の出身だから面識がある」


「ほう、余と同じ直魂かえ。これも巡り合わせ。あの娘が宣伝している端末を買ってみるか」


「分かった。店員を呼ぶ」


 彼らを新機種コーナーに案内した人型のロボット──客体に志鳳が声を掛ける。

 

「それにしても、最近の客体は精巧かえ」


 プレイスホルダーは改めて、興味深げに客体を観察した。


 灰色の髪を伸ばした女性型の客体には、細部まで生物的な質感が宿っている。


 ソレは志鳳が指差したLITH端末を手に取り、二人の超越者に目を向けた。


『改編──可能世界(ライクリフッド)C25』


 そして、世界が上書きされる。




 志鳳が危機を察知して飛び退いた時、そこは異空間だった。


 近代的な祭具店の内装が、荒廃した廃墟のような景色に切り替わっている。


「青の天使。最大のイレギュラー。始めようか自己紹介。教えて欲しい君の正体」


 閑散とした廃墟に声が響いた。


「私はマナセ広告のモナルキーア。嫌いなものは虚偽。好きなものは数字」


 女性のような姿をしたソレの名乗りに、プレイスホルダーが顔を顰める。


「そのおぞましい気配。受肉した黙示録かえ」

 

「摂理の守護者。数字にならない前時代の敗北者。今更出てきて何の用?まるで学ばないダチョウのよう」


 灰髪の黙示録──モナルキーアが指を鳴らすと、様々な生物を模した彫刻──偽典が二人を包囲するように出現した。


『精神系の余は、偽典と相性が悪い。そちらは任せても良いかえ、同志』


『了解。再演──完全無欠な矛盾アブソリュート・パラドックス


 モナルキーア達が話している隙に、固有術式の発動を既に済ませていた志鳳は、周囲に光の矛と盾を出現させる。


『悪いが、眠って貰うかえ。失伝──深き眠りの果て(ディープ・スリープ)


 プレイスホルダーの放った固有術式は、モナルキーアに届く寸前で掻き消えた。


『無駄だと分からない?君では私に敵わない。改編──可能世界(ライクリフッド)A156』


 モナルキーアが爪先で床を叩くと、プレイスボルダーの全身が火炎に包まれる。


『ちっ、世界の上書きか!相変わらず、面倒な連中かえ!』


 彼は咄嗟に、協術を使って無形のマナと同調し、炎を擦り抜けて重傷を免れた。


『改編──可能世界(ライクリフッド)D38』


『ぐっ……!』


 が、突然背後に現れたモナルキーアに殴り飛ばされる。


『ごめん、プレイスボルダー!偽典が異様に強くて、僕だけじゃ押さえ切れない!』


『ここは私のホーム。君達はアウェー。囚われた時点でゲームセット。君にできるのはリグレット』


 モナルキーアの追撃を躱しながら、プレイスボルダーは奥歯を噛む。


 黙示録に敗北を喫した過去を持つ彼は知っていた。この状況、逆転の目は限りなく薄い。


(まさか、これほど早く黙示録が直接攻撃に出るとは……いや、それも言い訳かえ。せめて、同志だけでも逃がす方法を……)  


 黙示録に敗れて隠れ潜んでいた自分に、再び立ち上がれるほどの希望を見せてくれた同志──梧桐志鳳。


 彼を失うわけにはいかない。摂理の守護者としても、友人としても。


『失伝──溢れる程の目覚め(フル・アローザル)


 自分自身に固有術式をかけ、擬似的な妙覚状態に突入する。


『失伝──溢れる程の目覚め(フル・アローザル)……!』


 更に、もう一度。飛びそうになる意識をシグネットで繋ぎ止めた。


(紫色のの意識パターンを思い出せ。妙覚の二重掛け。余にも短時間なら制御できるはずかえ)


 先の事は考えない。全てを出し切って、刺し違えてでもモナルキーアを倒す。


 摂理の外にいる黙示録の攻撃で負った傷は、超越者であっても簡単には治せないのだ。志鳳に負傷させるわけにはいかない。


『汝には、余と心中して貰おうかえ……!』


『見上げた心意気。けれども無意味。改編──可能世界(ライクリフッド)C19』


 モナルキーアが指を鳴らすと、床から無数の鉄柱が迫り上がり、プレイスホルダーを襲った。




『来て、即即(ヂィヂィ)!』


 津波のように押し寄せる偽典を捌きながら、志鳳は隷獣を召喚する。


『ヂィ、ヂィ!』


 美しい翼を持つ優美な巨鳥の背に乗り、目的地へと一直線に飛ぶ。


玉兎(ユートゥ)!』


『待ちくたびれたでありんす』


 黒髪で片目を隠した眷属が、志鳳の隣に現れる。


『分析完了でありんすか?』


『ん。この空間は迷宮と似た仕組みで成立してる。つまり、あり得たかもしれない可能性を世界の上に貼り付けて、それを自身が楔になる事で……』


『細かい解説は、無事に帰ってからで良いでありんしょう。私の役割を教えておくんなんし』


 志鳳は端的に答えた。


『黙示録を巻き込む形で、御園を展開して。そうすれば、この異空間は崩壊する』


『主様の御心のままに』


 眷属だけが有する、幻界の自領──御園を現実世界に展開する能力。


 それこそが、この場を切り抜ける為に天使が導き出した最適解。


『ッ、天使!?』


 モナルキーアが志鳳の接近に気付く。だが、もう遅い。


 プレイスホルダーのシグネットで意識を強引に惹き付けられていた黙示録には、その突撃を回避する猶予が残されていなかった。


『ヂィッ!』


『……今っ!』


『御園【盤古(パングー)】──完全展開』


 それは、梧桐志鳳を語る上で必ず挙げられる功績である。


 梅国の都市部で発生し、大量の未能者を巻き込んで出現した迷宮の攻略。


 その迷宮の核を守護し、志鳳が瀕死の重傷を負いながら辛うじて討伐した怪異こそが、後に彼の眷属となる玉兎の複製体だった。


『そんなっ!私の空間が、塗り替えられる……!?』


 志鳳を陰から支える眷属──玉兎が展開する御園の強度は、黙示録にも通用する。


『プレイスホルダー、掴まって!この空間を脱出する!』


『ははっ!流石は同志かえ!』


 プレイスホルダーが志鳳の伸ばした手を握る。


『ッ!改編──可能(ライク)……』


『失伝──深き眠りの果て(ディープ・スリープ)!』


 プレイスホルダーの固有術式が、動揺して隙ができたモナルキーアの意識を奪う。


『この術式をわざわざ防いだという事は、当たったら不味いと白状しているようなものかえ!』


 それは、志鳳達が異空間の綻びから脱出するまでの時間稼ぎには充分だった。


 


「どうにか、逃げ切れたでありんすな」

 

「死ぬかと思った」


 玉兎が溜め息を漏らすと、志鳳は珍しく疲れた様子で即即の背中に寝転ぶ。


「プレイスホルダーも大丈夫?」


「……ああ、一応は無事かえ」


 プレイスホルダーは曖昧に頷く。


 義体はボロボロだが、致命的な損傷はない。あの状況から考えれば、上々の結果だろう。


(しかし、覚悟はしていたが、受肉した黙示録が暴れると、ここまで摂理に響くかえ。ようやく摂理の修復が完了したというのに……)


 プレイスホルダーは意識のシグネットを使って、摂理の状態を確認する。


(現時点での摂理破損度──5%)




「ひぃっ!巨大ロボットまで出てきちまいましたよ!流石にやべぇですって!死ぬ、死ぬ、死ぬぅ!」


 僕は人相の悪い大柄な男を引き摺り、全力で疾走していた。


「五月蝿い、デクラン。あんまり手間を掛けるなら、置いて行く」


「うぅ、とんでもねぇ世界に迷い込んじまった……!」


 デクラン・ギャグノン。


 彼は、摂理が人口調整の為に異界から連れてきた別世界の人間──渡界者だ。


 そう、博物館の一件で聖剣使いとして暴れ回り、アインに傷を負わせた男である。


 アインに傷を負わせた男である。


「やっぱり、置いて行こうか」


「酷ぇ!」


 対抗神話に捕まり、実験台になりかけていたところを成り行きで助けたが、別に捨てて行っても問題ないような気がしてきた。


「ナーヌス!追っ手はヤザタとミリアムが食い止めていますわ!わたくし達は室長を探しますわよ!」


 神聖喜劇のボスであるラミナが、僕の元に走ってきた。


「あくまで話し合いで協力を求めるんですのよ!?誘拐は禁止!良いですわね!」


「はいはい」


「適当に聞き流している時のサラートと同じ反応をしてますわ!」


 それにしても、神聖喜劇のメンバーを護衛に雇っておいて正解だったな。


 対抗神話の侵入者迎撃システムは明らかに過剰だ。防衛の名目で様々な兵器の実証試験をしたいという本音が透けて見える。


「ともかく、経路に関しては貴女が頼りなのですから、しっかりして下さいまし」


「分かってる」


 僕は光のシグネットで視界を拡張し、曲がり角の先を見て……足を止めた。


「ちょっ!急に止まって、どうしたんですかい!?」


「向こうから来てくれたみたい」


「どういう事ですの?」


 僕達の視線の先。曲がり角の奥から、片眼鏡を装着した金髪の男が姿を現す。


「ようこそ、ナーヌス女史」


「まさか、対抗神話のトップが直々に出てくるとは思わなかった」


 対抗神話・第1室長──ロムバス博士。


「対抗神話にトップなんていないよ。優秀な研究者ほど好奇心に殺されるからね。僕だって明日には死んでるかもしれない。どうせなら、面白い死に方をしたいけどね」


「どうでも良い」


 ロムバスのペースに付き合うつもりはない。僕は無言でLITH端末を投げ付けた。


「……これは?」


 受け取って直ぐにデータを速読し始める辺り、本当に知的好奇心の塊だな。


「僕の考えた、摂理の破壊を目論む存在──悪魔を倒す方法。専門家としての忌憚のない意見が欲しい」


 天使の時間稼ぎによって、遺失支族を倒す算段は整いつつある。


 スムーズに各個撃破していくのが理想なのだが、そう何度も同じ攻略法は使い回せないだろう。複数の策が必要だ。


 実現性の高い手段は、3つ。


 1つ目。多数の超越者を集結させて、リソース切れまで押し切る。


 2つ目。何らかの方法で仲間割れを誘導し、黙示録と黙示録をぶつける。


 3つ目。受肉した肉体ではなく──何処かに隠された黙示録の本体を、破壊する。


 例えば、僕と契約した悪魔なら絵札だ。契約者の僕が直接破壊する事はできなかったが、第三者が破壊できる可能性は高いと踏んでいる。


「……面白い。とても面白いよ、ナーヌス女史。このテーマは研究しがいがありそうだ」


 対抗神話の頂点に座る男は、少年のように無邪気な笑顔を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ