表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/64

【終末】に関する隙間

『レジスタンスのイカれ野郎共、今日も生きてるフリしてっかー?真善美のクール担当、破壊系配信者のアスタリスクとー』


 褐色肌に長い黒髪の女が、超越者の権限で改造しまくったLITH端末の画面に映る。


 いかにも気の強そうな……完全に偏見だが、元不良っぽい雰囲気の女だ。


 引き篭もり時代の僕なら、避けて通るタイプの女。なのに、今となっては貴重な他者の存在に、安心感を覚えてしまう自分がいる。


『えいえい!真善美のキュート担当、暗殺系配信者のチルダよね!』


 くすんだ長い橙髪の女が、半分壊れたようなテンションで画角に滑り込む。


 片眼を眼帯で隠し、露出を増やした改造軍服を身に纏う小柄な女。


 まあ、外見なんかを観察しても意味がないか。どうせ義体だ。真名ですら摂理の崩壊前とは変わっているだろう。


 性別が変わっている可能性まである。義体は女性型の方が高性能な物が多いと聞くし、仮に知人が紛れていても分からないな。


『よく考えるとさー、破壊系と暗殺系って若干キャラ被ってねー?』


『そもそも、人類が滅びたせいで暗殺する相手もいないのよね!そこらをうろうろしてる彫刻は殺せるけど、世界を壊した親玉連中は殺しても死なないし!』


 そう。今の世界に、生身の人間はほとんどいない。


 生き残りの九割以上は、死者の残留思念が形を成した存在──直魂だ。


 レジスタンスの象徴である真善美も例外ではない。


『しっかし、最後に残った避難所が花蓮会議の本部とは意外だなー。ま、桜国の侵略が終わるのも時間の問題だろーけどー』


『花蓮会議の本部は、世界最高クラスの結界に守られてるって噂よね!』


『断章取義の障囲が設計したヤツなー。あーしもアレは破壊できんわー。敵さんでもアレには手こずるんかー。超越者やべー』


『私一人なら侵入はできるわよ!これでも生前は連盟の砂紋部隊で……摘……。……』


 そこで、配信は切れた。


 逃避の時間は終わりだ。現実を──親友のいなくなった世界を直視しなくては。




「馬鹿、アイン……!勝手に託して……い、いなくなる、なんて……!」


 僕──梧桐(アオギリ)詩凰(シオン)の慟哭を聞く者は誰もいない。


 異能者の扱う治癒・修復・蘇生の術式は、世界を正常な状態に戻そうとする摂理の働きを利用していた。


 摂理が完全に壊れた今、近代の異能者が忘れかけていた、寿命以外の不可逆な死と滅びが世界を満たしている。


 黙示録を名乗る侵略者に、四大組合の超越者が各個撃破された時点で、世界の命運は決まったようなものだった。


 治療や防衛に応用できるシグネットの持ち主が死に絶えてからは、黙示録による一方的な虐殺が更に加速した。


「天才の癖に、馬鹿……!なんで、僕なんかに……!僕なんか、よりも、アインが……!」


 そして、僕の唯一の親友──アイン・ディアーブルも亡くなった。


 最期に、命の次に大切にしていたコレクションの全てと、僕へのメッセージを遺して。




『奴らの目を盗んで、一つだけ黙示録を手に入れたぞ。絵札の形をした黙示録。無事、君に渡れば良いが……』


 僕は悪魔の宿る絵札を睨みながら、アインの声を静かに聴いていた。


『その黙示録をどう使うかは、君に任せる。天才の私が保証するが、君は自分で思っているよりも凄い奴だぞ、詩凰君』


 アインが最期に残したメッセージを、常に両耳に装着している祭具で、何度も再生する。


『君は自由に動けば良い。君にはハッピーエンドを掴み取る才能がある』


 そうして、僕は崩れそうな心を縫い留めていく。


『私も君に救われた。これは本当だぞ。君と出会って、初めて世界が美しいと……心から生きていたいと思えた』


 涙はもう流れない。


『天使を探せ。世界の隙間を埋めろ。99%の滅びを覆した先で』


 ただ、アインに恥じない自分である為に。


『──また会おう、親友』




 アイン・ディアーブルと梧桐詩凰、もしくは現ナーヌス・バレンシアが悪魔と呼ぶ存在は、絵札の中で契約者の記憶を鑑賞していた。


『さてさて』


 この記憶を共有したのは初めてではない。しかし、現在の状況を最低限コントロールする為には、繰り返し確認する必要がある。


『天使。守護者。女王。孤高の青。遺失支族。──我が母。この世界は本当に、予測できない要素が多いな』


 しかし、そうでなくては困る、と悪魔は就寝中の契約者──ナーヌス・バレンシアを見ながら考えた。


 彼女と契約してセカンドチャンスを与えたのは、決して気紛れなどではないのだから。


『我輩には我輩の計画があるのだから、余計な動きはしないで欲しいものだが……無理だろうね』


 普段の芝居がかった甲高い高音ではなく、落ち着いた高い声で苦笑した。


『まあ、仮に摂理が崩壊しても、自然発生した黙示録では、時間遡行のような真の反則技は使えないだろう。暫くは、天使の時間稼ぎに縋るべきだな』


 摂理が弱まるほど、反比例するように、黙示録が扱う世界改編の力は増す。


 だが、それでも長期間の時間遡行は、おそらく不可能だ。


 何故なら、黙示録の本質は道具。適合した人間の願いを利用しなければ、十全な力を振るえない。


 そして、人間には個々の独立した意識がある。


 偶然巡り合った黙示録と契約者の適合率が100%である可能性は、限りなく低いと言えるだろう。


 遺失支族のように、受肉によって契約者の意識を塗り潰す方法もあるが、その方法にも重大な欠陥がある。


『前の世界では、その欠陥が露呈する前に世界を制圧したようだがね。……おっと』


 契約者が目を覚ました様子を察知し、悪魔は思考を打ち切った。


『さて、孤高の青。君は、君達は、我輩の期待を越えてくれるかね?』


 彼女の想像する悪魔として、求められた役割を演じる為に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ