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【博物館】に関する閃き

 ミディアムの黒髪をサイドで捻った背の高い女が、鋭い目付きで虚空に爪を立てる。


『先手必勝、やけんね』


 邪竜のヴァニル・ラスティネイル。


 シグネットは創傷。彼女が空気に付けた引っ掻き傷が、あらゆる物体を介して伝播していく。


 その亀裂は、移動途中の白い短髪の女──受肉した黙示録をズタズタに引き裂いた。


『手応えあり。楽勝やけんね』


 更に、銀髪の貴公子然とした男が逆方向から近付くと、人間の残骸が足先から順に掻き消え、瞬く間に破片すら残さず消失する。


『いやいや、ヴァニルちゃん。しっかり肉片まで消し飛ばさないと駄目じゃん。その為にオレ達が呼ばれたわけだしさ』


 虚無のエーシル・スティンガー。


 シグネットは消滅。人体も術式も等しく無に帰す、最凶の超越者。


「ナーヌスが騒ぐから、どれほどの強敵かと思ったけんね。おい、尻を触るな、変態」


「揉むほどの胸ないから仕方ないじゃん。ああ、でも尻もナーヌスちゃんの方が……」


「お前、本気でぶち殺」


「──来店マナーがなってはりませんね」


 エーシルとヴァニルは、会話に挟まってきた声の主を見る。


 白い短髪の黙示録──ダン食品の最高経営責任者、エンテンデール。


 完全に葬ったはずの黙示録が、戦闘前と何も変わらない姿で立っていた。


 高級志向なブランドスーツには、皺一つできていない。


「そんなに慌てはらんでも、半額セールの時間やあらしませんが。ああ、それと」


 何かを言いかけたエンテンデールが、光の矢に貫かれて倒れる。


「もう一方、お客様がおりはったようどすね。ポイントカードは持ってはります?」


「やっぱり、シグネットじゃ無理か」


 再度、一瞬で元通りになったエンテンデールを見て、僕は舌打ちをした。


「エーシル、ヴァニル。撤退。これ以上やっても多分、収穫はない」


「いや、一つだけ気付いた事があるじゃん」


 意外にもエーシルが声を上げる。


 こんな奴でも、実力は本物。有益な発見があったなら聞きたい。


 というか、少しは役に立て。今回の協力の条件に散々際どい礼装を着せられて、嫌になるほどセクハラされたんだから。


「……言ってみて」


「あれさ、女じゃないって。しかも、男でもないじゃん。強いて言うなら、両性?オレの守備範囲外の気配がするじゃん」


 ……。……は?


「こいつ、本当に気持ちの悪い男やけんね」


「生理的に無理」


「言って損したじゃん……」


 エーシル(ごみ)が何か嘆いているが、とりあえず作戦は失敗だ。


「お客様。折角いらっしゃったさかい、お弁当なんて如何どすか?」


 何処から取り出したのか、エンテンデールが弁当を勧めてきた。敵は敵で緊張感がない。


「……買う」


 まあ、敵情視察の一環だ。

 

「お買い上げ、おおきに。割り箸もお付け致しましょか?」


「環境に悪いから、止めとく」


「その点は、安心しはって下さい」


 エンテンデールは事務的な笑顔で言った。


「この世界はもう、廃棄間近。値引きシールを貼っとる段階どすさかい」


 


「閃いた」


「何だ、志鳳君。我が骨董品サークルの活動案でも浮かんだか?どんな意見でも大歓迎だぞ」


 よく晴れた日の河原にて。


 ウェーブのかかった緑髪の女性──アイン・ディアーブルが、ノースリーブの私服姿で、梧桐志鳳に対して身を乗り出した。


「そもそも、こんな冗談みたいなサークルを創った理由は何なんですか?」


 白髪の小柄な女性──スフィア・ミルクパズルが、少し大きめの私服の袖を摘まんで、眠たげに目を擦る。


「……アイン?……スフィア?」


 志鳳は違和感を覚えて、首を傾げた。


「いや、私達の通う大学は偏差値の高さが売りだろう?骨董品に興味を持つ人間の1万や2万はいてもおかしくない。なのに、現状たった3人とは、不思議な事もあるものだぞ」


「今のところ、サークル長がこの大学に入れた事実が一番の不思議なんですが……。裏口とかじゃないですよね?」


「私は天才だからな!」


 アインは一片の迷いもなく言い切った。


「ところで、志鳳君。さっきから何を黙っているんだ?少しくらいは喋ってくれないと、君目当てで入った後輩が逃げてしまうぞ」


「ちょっ!変な冗談言わないで下さい!私は元から骨董品に興味があっただけですから!ね、志鳳先輩!?」


 周囲を見回していた志鳳は、二人から視線を向けられて、遂に口を開いた。


「──レテ。今すぐ術式を解いて。さもないと、敵対行為とみなす」


 沈黙は一瞬。


「どうやら失敗したらしい。降参だ」


 無機質な声と共に、濃紺の長い髪の女性が姿を現す。


 目にかかる程度の前髪の下から、感情を読み取れない視線を三人に向けた。


『失伝──束の間の記憶(ワーキング・メモリ)──解除』


 彼女が指を鳴らすと、スフィアとアインがびくりと小さく震えた。


「えっ、何?何が起きてるんですか……!?」


「私は何をやって……!?未能者の大学に通っているという、偽の記憶、か……?」


 大赦のレテ・ダーム。


 シグネットは記憶。彼女は息をするような気軽さで、他者に偽の記憶を植え付ける。


 その能力を気紛れに乱用して、大き過ぎる功罪を打ち立てており、連盟も扱いに困っている問題児。


 所属は破綻枢軸。だが、残体同盟ではない。チトラーチと同じくフリーの超越者だ。


「このシチュエーションは、お気に召さなかったらしい。壟断の機嫌を取ろうと……いや、純粋に喜ばせてやろうと思ったのだが」


「レテ、そういう問題じゃない」


 そんなレテの最大の天敵が、梧桐志鳳。


 過去を知覚できる彼は、偽物の記憶を植え付けられても直ぐに違和感に気付けるのだ。


 彼さえ味方に付ければ、レテはもっと好き放題に暴れられる。故に、レテは志鳳を懐柔しようと手を尽くしていた。


「壟断のコミック購入履歴から、好みそうな設定を抜き出してみた。これで駄目なら、作戦の方向性を見直す必要があるらしい。次は、ラブコメを検討してみるか……」


 レテはぶつぶつと呟きながら、挨拶もなしに去っていった。フリーの超越者に、協調性などない。


「……つまり、私はまた巻き込まれたわけですか。志鳳様の近くにいると退屈しませんね」


 スフィアが八つ当たりのように、河原の石を水面に向かって投げる。


 その石は数回跳ねたところで、アインの投げた石に撃墜された。


「サークル長、じゃなかった……アインさん。私に何か恨みでも?」


「何処かで聞いた真名だと思ったぞ。スフィア。スフィア・ミルクパズル。君、遺物強奪事件の首謀者だろう?」


 アインは長い緑髪を巻きながら、スフィアに向けて訊ねた。


「よく知ってますね。連盟は事件の詳細を公開していないはずですが」


「断片情報を見聞きすれば、事件の全貌を推理するくらいは容易いぞ。私は天才だからな。それで、志鳳君に何の用だ?」


 スフィアは作り笑いで答える。


「我が王からの指示で、志鳳様の様子を軽く視察に来ただけですよ。王に敵意はありませんし、私個人にも他意はありません」


「親衛隊入りしたか。要領の良い女だぞ」


「褒め言葉と受け取っておきましょう。では、志鳳様。お聞かせ頂けますか?──貴方の閃き。その内容を」


 スフィアの真剣な雰囲気に気圧されながらも、志鳳は自身の考えを口にする。


「博物館に行きたい」


「よし行こう!直ぐに行こう!私が案内するぞ!君に見せたい品が一杯あるんだ!ついでに後で、私のコレクションも見て行くと良いぞ。あ、スフィア君はどうする?」


「……お邪魔でなければ、付いていきます」


 術式の研究成果を自慢する時の王にそっくりですね、と辟易した気持ちを笑顔の裏に隠し、スフィアは頷く。


 実は、今回の彼女に与えられた指令は、志鳳の監視の他にもう一つある。


 スフィアが仕える王の友人であるアインの現況を、直接確認して報告する事。


(その為に、私の貴重な休日が潰れたわけですか。はあ……)


 スフィアは内心でむくれながら、拾った石を水面に向かって放る。


 今度は綺麗に跳ね続けて、向こう岸まで届いた。


  


「と言うわけで、来た。文化の豊かさに定評のあるフルールドリス」


「超越者になる前の幕楽君が拠点にしていた場所だぞ。この国は食だけではなく、芸術品も質が高いな」


「芸術品ですか?私も好きですよ。レプタで取り引きするよりも足が付かなくて」


「「価値観がアウトロー」」


 志鳳とアインの声が重なった。


「しかし、あれですね。何の目的もなく博物館を見て回るのも、少し退屈というか……」


「それなら、ちょうど良い品があるぞ。期間限定で、とある遺物が展示されているそうだ」


 アインがLITH端末の画面を見せる。


「遺物が、ですか?」


「勿論、普通に有益な遺物なら展示なんてしないぞ。この遺物はワケアリでな。なんでも、遥か太古に発見されてから現在に至るまで、適合した人間が一人もいないそうだぞ」


「それ、ただのガラクタじゃないですか」


 非常に希少な独立型の遺物でもない限り、適合する者が現れなければ、遺物は役に立たない。


「スフィア、浪漫がない」


 志鳳がやれやれと口を挟む。


 普段からアインの趣味に付き合っている彼は、初参加のスフィアに対して少しだけ先輩気分だった。


「資産家の異能者が寄贈したとか。博物館のパンフレットには、聖剣って書いてる。凄そうな名前」


「歴史と知名度はあるから、期待感だけが高騰したパターンだぞ」


「用途すら不明なのによく言いますよ。これで大した効果のないハズレ遺物だったら、冗談として完璧ですね」


 スフィアは呆れたように肩を竦める。


「でもまあ、曰く付きの遺物なら好事家には売れそうです。私が強奪した遺物よりも警備は緩そうですし、アウトロー時代なら狙っていたかもしれませんね」


 彼女は冗談めかして軽口を叩きながら、背の高いアインを追うようにして、博物館に踏み込む。


「ッ!何、この音!?」


 その時、建物が揺れるような爆発音と、けたたましい警報が鳴り響いた。


 暫くして、館内放送が流れる。


「せ、聖剣が盗まれました!!犯人は逃走中!!第5位階以上のお客様がいらっしゃいましたら、犯人確保に助力をお願いします!!」


 志鳳とアインは息の合った動きで、小柄なスフィアを見下ろした。


「「自首して」」


「私じゃありませんよ!?」


 


「先輩、俺……異能者になりたいです」


 警備員のような服装の若い男性が、血の滲むような言葉を絞り出す。


「無理だ。諦めろ」


 先輩と呼ばれた中年男性が、ペットボトルの水に口を付けてから、無情に切り捨てた。


「望んで異能に覚醒できたら、世話ないんだよ。そもそも、今の仕事の何が不満だ?」


 馬鹿な若者に言い聞かせるように続ける。


「こうして異能対策室にいりゃ、マナ充填済みの祭具も支給されて、異能関連の案件にも関われる。言っとくが、未能者にしては破格の特別待遇だぞ、俺らは」


 二人は異能が絡んだ事件を取り扱う、フルールドリスの異能対策室に所属していた。


「だって……だって、おかしいじゃないですか!異能対策室なのに、異能者が一人もいないなんて!」


「そりゃ、異能者は他に稼げる仕事がいくらでもあるからな。わざわざ未能社会の治安維持なんかに首突っ込むメリットないだろ」


 異能対策室とは言っても、実態はそんなものだ。


「てか、素の身体能力が違い過ぎて、祭具を使っても異能者には勝てないじゃないですか!俺らの仕事、ほとんど瘴気の採取調査か異能犯罪の目撃証言集めですよ!?」


「一応、外装鎧の祭具を上手く使えば、最下層の第9位階になら勝てるがな。一部のベテランは第8位階を囲んで制圧した事もあるそうだ」


「信じられますか!?俺ら未能者の上限が、異能者連中にとっては下限なんですよ!?」


「お前、色々言ってるが……」


 そこで先輩男性が溜め息を吐く。


「この前、怪我を治してくれた異能者の女医さんが美人だったから、異能者との接点が欲しいだけだろ」


「そ、そそそ、そんな事ないですよ!?」


「いや、動揺し過ぎだろ。……下手な真似だけはするなよ。あの人、第5位階だからな。俺らなんて指一本でバラバラにできる」


 中年男性は本気の声音で警告した。


「容姿が良いって事は、イコール位階が高いって事だ。深く関わるもんじゃない」


「でも、俺だって何かの拍子に異能に目覚めるかもしれないですよね……?」


「無理無理。大々的に公表はされてないが、異能に覚醒する人間は元からIQやEQが顕著に高いってのが通説だ。宝くじみたいに無作為に覚醒するわけじゃないんだよ」


 残念そうな表情を浮かべる若者の肩を叩いて、強引に会話を打ち切る。


「おい、あんまり気を抜くなよ。高い給料貰ってるんだ。警備くらいは真面目にやらないとな。何もないとは思うが、あの博物館は遺物も展示してるん……」


 そして、ペットボトルの底に残った水を口に含みながら、警備目標の建物を見て。


「ごふぁっ!?げほっ、げほっ……!!」


 盛大にむせた。


「なんだ、ありゃあ……!?馬鹿デカい……列車!?」




『失伝──悪戯な玩具箱(ジョーク・ボックス)


 アインは固有術式を発動させた。彼女の意識に様々な道具のイメージが浮かぶ。


『模型──暴走列車』


 巨大な列車を具現し、空中を飛びながら、広範囲を見渡す。


『失伝──|針の上で天使は何人踊れるか《シースレス・エンジェル》』


 志鳳も固有術式を発動する。彼の髪に光の糸が絡み付いた。


 生物の限界を超えた思考が、あらゆる過去を知覚し、正解を導き出す。


『アイン、犯人は24人。散開して撹乱しようとしてる。遺物持ちが複数いるから、聖剣以外も放置できない』


 志鳳が光のシグネットを応用し、アインの視界に座標情報を映す。

  

『了解だぞ。模型──分裂する蹴鞠』


 アインが蹴り飛ばした祭具が、分裂しながら跳弾して、逃走中の犯人達に向かう。


『ちっ、対処されたか。だが、数人の足を止める事はできたようだぞ』


『ああもう、超越者の人達って本当に無茶苦茶ですね!?』


 スフィアは目を回していた。


『手分けして犯人を追うぞ。模型──伸縮自在の跳び縄』


 小回りの利かない列車を消し、代わりに縄状の祭具を移動用に具現する。


 単なる偶然だが、アインの戦術は志鳳と似通っていた。


 多数の手札を持ち、その中から状況に適した一手を瞬時に選択する万能型。


『緑色の。余の術式もかけてやるかえ。失伝──溢れる程の目覚め(フル・アローザル)


 プレイスホルダーの精神強化がアインに付与される。


 すっかり志鳳のLITH端末が定位置になっている彼に、アインが礼を言った。


『助かるぞ。じゃあ、行ってくる』


『ああ、待って下さい、アインさん。王からのプレゼントです。有事の際に渡すように、と言付かっています』


 アインは怪訝な表情をしながら、スフィアが差し出した紙を瞬時に速読した。


『術式の改良案?他人の術式の改良なんて、そんなに簡単な話では……いや、待て。何だ、これは!?既存の理論に囚われない術式アレンジ……それも異常だが……!』


 アインは目を見張る。


『私のシグネットと性格を完璧に理解していないと、こんな助言は書けないぞ!?君の仕える超越者はストーカーか何かか!?』


『そうです!』


 スフィアは何らかの私怨を込めて、今日一番の笑顔で答えた。



  

『どうやら、こちらがハズレのようだぞ。それとも、アタリと言うべきか?』


 アインは斬られた傷口を押さえて、溜め息を溢す。


『一部の遺物には祝福と同じく、所有者を強化する副次効果がある。それを加味しても良い腕だぞ、聖剣使い』


 彼女の視線の先には、目を血走らせた大柄な男が立っていた。


 聖剣と仮称される遺物を握っているが、正気を感じさせない独り言を漏らすだけで、アインに対する返答はない。


『呑まれかけ、か。適合し過ぎるのも考えものだな』


 アインは気にせず言葉を続ける。


『聖剣。斬った対象の能力を一時的に激減させる効果があるとは。格上にも通じる良い遺物だぞ』


 彼女は元々、お喋りな人間なのだ。


 閑話は音による会話よりも遥かに速く、短時間で大量の思念を遣り取りできる。素晴らしい技術だと、アインは思っていた。


『ぶちころ、ぶちころ、ぶちころッ!』


 弱体化したアインに対して、聖剣使いが斬りかかる。


『お返しだ』


 そして、アインの手に握られていた二本目の聖剣に斬られた。


『ッ!?お、お前……!何、で……?』


『おお、正気に戻ったようだな。感謝して欲しいぞ』


 聖剣使いは慌てた様子で、自身の体に刃を突き立てる。


『なるほど。そうやって使うのか。もう一度斬ると元通りとは、シンプルで悪くないぞ』


 アインも自身の聖剣で自傷しながら、笑みを浮かべた。


『俄然、コレクションに加えたくなったぞ』

 

『そんな……あり得ない……』


 聖剣使いは呆然としていた。


『どうした、聖剣使い。私は対象を理解すれば、どんな道具でも具現できる。遺物だけが例外なんて道理はないだろう?』


 アインは聖剣を掲げて、堂々と宣言した。


『シグネットの産物に適合なんて必要ない。遺物だろうが何だろうが、私にとっては愉快な玩具に過ぎないぞ』


(まあ、実際はプレイスホルダー君の精神強化を受けて、やっと成せた技だがな。しかし、おかげで遺物を具現する感覚は掴めた。次は自力でやれるぞ)


 アイン・ディアーブルは天才である。


 祝福やマナによる思考力の強化など関係なく、何の変哲もない未能者の家庭に生まれた瞬間から、高過ぎる知性を有していた。


 彼女が異能に覚醒する前の話。


 アインは家に帰るのが苦痛で仕方なかった。


 天才ならではの視点と感性を、凡人である両親に理解して貰えなかったからだ。


 親は理解の及ばない言動を見せるアインを怒鳴り付け、彼女が言う事を聞かないと病気だ病気だとヒステリックに騒いだ。


 彼女が大切に集めたコレクションすら、何の断りもなく、軽々しく捨てられた。


(思い出すと、今でも苛立つぞ。あんな親の言う事に、黙って従っていた自分自身に)


 だから、同じ天才である梧桐志鳳と出会った時、彼女は救われたのだ。


 自由に真っ直ぐに生きる彼を見ていると、縮こまっていた自分が馬鹿らしくなり、彼女は心の底から笑えるようになった。


 そして、喫茶ウールーズに集う、気の置けない親友達。


 アインはようやく、帰る場所を見付けた。


『模型──陳列棚(ショーケース)

 

 アインは具現した様々な道具を全身から生やす。


 頭には角のように。背中には翼のように。腰には尾のように。

 

 アインは自らのコレクションを自慢するように、具現した全ての道具を広げて見せた。


 それは、まるで化け物のような姿。


『自分のコレクションに包まれるなんて、蒐集家の夢だな。ああ、あの馬鹿親が生きていたら、言ってやりたいところだったぞ』


 彼女は大切なものを抱き締めるように、聖剣を強く握り締めた。


「──これが、私だ」


 聖剣使い。


 彼の敗因は、幻像のアイン・ディアーブルに道具の扱いで挑んだ事。




『それで、我輩の同族は倒せたかね?』


「お前は本当に性格が悪い」


 僕はシビュラの淹れた茶を飲みながら、記録用の祭具を起動した。


 白髪の黙示録が致命傷を受け、蘇生する様子を眺める。


 いや、正確には蘇生ではない。


「世界の上書き。おそらく、攻撃自体をなかった事にしてる」


 まったく、反則にも程がある。


「だけど、摂理が健在な今の段階では、まだ能力も完全ではないはず」


 何の制限もなければ、直接世界を滅ぼせるだろう。遠回りな手を打つ理由がない。


『随分と前向きだな!』


「当然。僕を誰だと思ってる?」


 僕には自負がある。


「前の世界では、アインと共同で異能社会の術式理論を数百年は進めた」


 術式の解析と研究においては、誰にも負けない自信が。


「お前達の能力に法則性があるなら、僕が暴いて攻略法を探し出す」


 僕は思考を切り替える。ここからが、僕の本領だ。


「──僕達は天才だから」


 そうだろう、親友(アイン)

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