異世界転移したら芋煮が最強職だった件
召喚の儀式が行われた荘厳な神殿の中に、異様な緊張感が漂っていた。クラス全員が突然異世界に転移させられたことをようやく理解し、困惑の表情を浮かべている。
「なんじらを召喚したのは我が国を救うためだ!」
白髪の壮年の男が声高に叫ぶ。どうやらこの国の王様らしい。高貴な衣装と威厳に満ちた姿だが、その台詞があまりにベタすぎて、正直なところ心の中では誰もが微妙な顔をしていた。
「では、召喚された者たちの職業を水晶玉で判定する!」
勇者、聖騎士、賢者…次々とクラスメートたちの職業が水晶玉によって判明していく。そのたびに歓声が上がり、教室は異様な盛り上がりを見せた。しかし、最後の一人に職業が告げられた瞬間、あたりは静寂に包まれた。
「…職業『芋煮』?」
最近東京から転校してきたばかりで、クラスの隅っこで目立たない存在だった佐藤拓也が、まさかの職業「芋煮」を手にすることになった。
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「芋煮とは…聞いたことのない職業ですね…」
召喚した異世界人たちが眉をひそめる中、クラスメートたちは目を見開いて驚愕していた。
「ちょっと待ってけろ! 芋煮とかヤバすぎじゃねが?」
「まじで…これ、神職そのものじゃねが!」
困惑する拓也をよそに、クラスメートたちは何やら興奮して騒ぎ始めた。
「おい、拓也! お前、マジで羨ましいんだげど!」
「いや…芋煮ってそんなにスゴいのか?」
「わがってねな! 芋煮ってのはの、山形民——いや、日本人の心そのものなんだず! 山形の芋煮会のスケール知ってるが? 世界最大の鍋料理だぞ!世界一の料理なんだぞ!!?」
「…いや、俺東京からの転校生だから、その凄さがいまいちピンと来ねえんだけど…」
「なにィ!? お前、それ本気で言ってんのが?」
生徒たちは一斉に驚きの声を上げた。どうやらこの男、芋煮の神髄を全く理解していないらしい。
「わがってねが? 芋煮ってのはな、ただの料理じゃねえんだず!」
「んだ! あれは山形の誇りだ!いや、日本の魂そのものだべ!」
「んだんだ! 世界最大の鍋料理だじぇ! あんなデカい鍋で一度に千人前とか作れるんだじぇえ! 想像してみろ! そんなスケールでみんなが笑顔になんだぞ!」
「お前、それが異世界で使えねえと思ってんのが?」
「それだけじゃねえ! 芋煮はの、味だけじゃなくて、体力回復や魔力増強、疲労回復まで全部叶えられる万能料理なんだぞ! 勇者だの賢者だのが霞んで見えるくらいスゲえことだべ!」
山形民たちは口々に芋煮の凄さを力説し、目を輝かせている。しかし東京出身の拓也には正直、何を言われているのか全く理解できなかった。
「…いや、なんでそんなに力説されんのか、俺マジでわかんないんだけど」
困惑した表情で拓也がぽつりと言うと、山形民たちはさらに熱を帯びた声で叫ぶ。
「お前、わがってねえな! そんなんじゃこの異世界で生き残れねえべ!」
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図らずしも職業「芋煮」 を手に入れてしまった東京出身の佐藤拓也。
果たして彼は、芋煮という究極の職業で異世界を救えるのか。それとも、ただただ異世界を芋煮会の会場にしてしまうのか。