8 エーデルフリートとルーシーは温泉を発見する。
リタとシンディが森の探索に向かった頃、エーデルフリートとルーシーは海辺の探索をしていた。
流れ着いた船の残骸は、備品倉庫部分だろう。中に布団やシーツが散らばっていた。
海水を吸ってしまっているが、乾かせば使えるはずだ。多少破けているのは目を瞑る。
「おふとんです!」
「昨日は草のベッドだったから、ふかふかの布団で寝られたら、リタとシンディも喜ぶね。俺、背中がバッキバキだもん」
ミィも嬉しそうに、布団の上でぴょこぴょこ跳ねる。
二人で浜にひっぱりあげた。あとでシンディが合流したらゴーレムで拠点まで運んでもらうことにする。
「デルさん、デルさん。あれはなんでしょう? 拠点の後ろの丘のところにモワモワしたものが見えます」
ルーシーが指した先はなだらかな丘の上だ。空に向かって立ち上る蒸気の様な何かがある。
「あ、ホントだ。なんだろ。あんまり拠点から遠くないし、あそこも調べてみようか」
「はいです!」
布団を発見した地点が遠目にもわかるように、そこら辺に落ちていた木を立てて布切れの旗を結びつける。
「こんな状況なのにこういうことを言うのは不謹慎かもしれないけどさ、俺なんかワクワクしてんだよね。秘密基地作ってるみたいじゃん? 昔庭の花壇の横に秘密基地を作ったらばあちゃんにすっごく怒られたなぁ。花を台無しにしよって!! っさ」
「お花がつぶれちゃいますよ」
「あはは。今になって振り返れば、悪かったと思うよ」
エーデルフリートは漂流したのに、この状況を楽しんでいる。
ルーシーは冗談言って笑っていられるなんてすごいなぁと感心する。同時に、子どもの自分ではあまり力になれないことに落ち込む。
「ルーシーは、みなさんがいてくれてよかったです。ルーシーだけだと泣いて何もできなかったです。助けられてばかりで申し訳ないです」
「別に申し訳ないなんて思う必要ないよ。みんなそれぞれ得意分野が違うだけ。俺はシンディみたいな魔法使えないし、リタみたいに料理もできない。でもこうやって、使えそうなもの見つけてくるくらいならできる」
エーデルフリートのフォローで、ルーシーは笑顔を取り戻す。
「……そうですね。ルーシーは、ルーシーにできることをします!」
二人で丘を登り、拠点から徒歩十五分ほど。木々に囲まれた岩場に小さな泉を見つけた。
岩と岩の隙間からこんこんと乳白色の水が湧いて、泉に流れ込んでいる。
泉から湯気がのぼっていて、指を突っ込んでみると人肌よりやや熱いくらいだ。鉄に似たにおいがして、すこしぬめりのある泉質。
「これ、ぴーたんが言っていた温泉?」
「お外にあるのにお風呂なんです?」
「そうだよ。やったじゃん! 汗でベトベトだったからこれで回復できるぞー!」
「はい! はやくリタたちにも知らせるです!」
拠点に戻ると、リタとシンディも帰ってきたところだった。
「デル。ルーシー。ほれ、野菜見っけたすけ、食べる分以外は畑に植えようて」
リタがニット笑い、葉付きの細くて白いニンジン、小さなマル芋を見せる。
「わぁい! ニンジンです!」
『クックックッ、ハハハッ、グワーッハッハッハ。ニンジンは我が見つけたのだ。このゼルフェイン・フォン・ローゼンハイムがな! ゼルフェイン様に感謝するが良い!』
「俺たちもいい知らせがあるよ。布団と温泉を見つけたんだ」
「まあ! いいわねぇ温泉!」
『我に感謝するがよい』
「あー、はいはい、ぴーたんも頑張ったわねぇ。イイコだからしばらく静かにしててねぇ」
『ぬおおおお、そのように投げやりな感じでなく! もっと! 心を込めるのだ!』
温泉好きな元ばあちゃん、リタもご機嫌だ。
「ええのう。温泉! おれも温泉は久しぶりらて。ルーシーも大活躍らねっか」
「はいです! ルーシーもがんばりました!」
『我が一番風呂をーーーー!!』
もう誰もぴーたんの中二発言にツッコまない。
ひとまず食事を取ったあと布団を回収してきて、温泉に入り、明日から畑作りをすることにした。