7 リタとシンディは原生野菜を発見する。
無人島生活二日目。リタたちは二チームに分かれて行動していた。
リタとシンディチームは食料を求めて森へ。
エーデルフリートとルーシーチームは他に使えそうな漂着物を探すため浜辺へ。救助船が近くに来た場合、浜辺にいれば見つけることができる。
リタとシンディは、ゴーレムの手のひらに乗って川を渡っていた。
昨日は川魚をとってそのまま折り返した。川の向こうはまだ未踏の地だ。
石造りの手の上に立って、リタは遠くを眺める。
手付かずの自然が視界いっぱいに広がっている。
「ばかええ景色らなぁ。おれ、ゴーレムに乗ったんは初めてらわ。昔話に出てくるだいだらぼっちがこんげらろかな」
「だいだらぼっちって何?」
「ニホンっつぅ国に伝わる昔話らよ。山のようにでっけぇ精霊がいたって言い伝えでな。魔法はないんらろも、不思議なことは起こるんよ」
「へぇ。魔法がない国なのに精霊の伝承があるの? ゴーレムなしにどうやって重い物を運ぶのかしら?」
「クレーンっちゅうもんがあってな。十階超えるくらいのでっけえ鉄製の塔も作れるんらよ」
シンディは好奇心旺盛で、身を乗り出してリタの話に食いつく。
川を越えた先でゴーレムは屈んで手を低くする。
シンディが先に地面に降りて、リタに手を差し伸べる。
「お手をどうぞ。足元滑るから気をつけて」
「ありーがとうねぇ。中身はばあちゃんでも、体は若いからでぇじょぶらよ」
お年寄り扱いされたと勘違いしているリタに、シンディは笑いかける。
「年寄り扱いじゃなくて、女性に対する礼儀よ」
「あっはっは。そうかぃ。何年ぶりだろうねぇ」
お言葉に甘えて、シンディの手を借りて地面に降りた。
言葉遣いは女性のようでも、その手は確かに男性のもの。大きくて骨ばった手のひらだ。余裕でリタを支えた。
リタが降りたあと、ぴーたんがズドンと音を立てて落ちてきた。
『ぐえ! なぜ我は受け止めてもらえないのだ!』
「あなたは動物なんだから、あたしの手を借りなくても自分で降りられるでしょ。使い魔が主の手を煩わせるんじゃないわよ」
『ぬぅ』
もう見慣れた主従のやり取りを見て、リタは笑ってしまう。
あたりを見回して見ると、草のはびこる平地の一部に見慣れた形の葉を見つけた。
「これは……」
スコップを刺して掘り起こして見ると、やはりそれは日本でありふれた野菜。ジャガイモだった。こちらではマル芋と呼ばれる。
と言っても、スーパーに並ぶ形のいいものでなく、品種改良されていない原種。小ぶりだが、食べられないことはなさそうだ。
「まぁ! 畑もないのにマル芋が取れるの?」
「農家で育てているがんも、元々は野生種を品種改良したものだすけな。助けがすぐ来るとは限らんすけ、拠点の近くに畑を作ってこれを育ててみるかね。こっちにゃ警察も自衛隊もいねぇからな」
日本なら災害時に自衛隊が派遣されて救援物資を届けてくれる。
けれどここはどこの国の領地とも知れない無人島。
携帯電話のような、外部との連絡手段もない。
リタは、数日で助けが来るとは考えていなかった。
助けが来ないままここで暮らすことになる可能性もある。
ならば食料を少しでも増やさないといけない。
「じえいたいっていうのは、リタが前世でいた国の救助隊みたいなもの?」
「国が組織した、災害時なんかに国民を助けてくれる部隊らよ。被災地のために食べ物やテントを届けてくれる。おれがいた、ナガオカってとこも昔でっけえ地震があって、そんときに自衛隊んしょに世話んなったんよ」
自宅半壊で倉庫もぐちゃぐちゃになって、もとの生活に戻るまでに一年以上かかった。あのときもみんなで力を合わせてどうにか生き抜いた。だから今回も、みんなでがんばれば乗り切れると踏んでいる。
「長く生きてりゃ戦争や災害、いろんなことがあらぁな。でも生きてさえいりゃ何でもできる」
「強いのね。あたし、そういう前向きな考え方、すごく好きよ」
シンディは目を細めてリタを見る。
「大人が不安がってたら、誰が一番辛くなる。ルーシーだ。あの子が不安にならねぇよう、しっかりしてなきゃならねぇ」
「そうね。あたしも気合いを入れなきゃ。……あ、あれはオリーブじゃない!」
低木に、緑の実が成っている。こちらも品種改良されていないものだから、小ぶりで数は少なめだ。
「これで油を取りましょ。食料は少しでも多いほうがいいもの」
「そうらな」
麻袋にマル芋とオリーブをつめて、ぴーたんの背にくくりつける。
『ククク。人の子らよ。これも取っていくが良い。葉がうまい』
「おお、ニンジンらな! ルーシーが喜ぶわ」
ぴーたんが食んでいたのはニンジンの葉だった。引き抜いてみると、白いけれど確かにニンジンだ。
「葉があれば再生できるすけな。これも畑で栽培しよう」
マル芋、ニンジン、オリーブ。充分に食料を採取して拠点に戻ることにした。