39 エーデルフリートとぴーたん、コタツムリになる。
よく晴れた冬の日に、クリティアの贈り物として、こたつが到着した。
船員たちが船から下ろすそれを見て、エリオットがおののいた。
「こ、これは! 寒い時期に人を捕らえて離さないと噂の魔性の家具、こたつ!! なぜこんな捕獲器をクシェル島に……!」
クリティアからの手紙によれば、冬の寒さをしのぎたいあまりに、前世の記憶を取り戻してすぐに開発に着手したとかしないとか。
「へぇ。これがこたつ。あたしも噂だけしか知らなかったけれど、これが現物なのね」
「エリオットさんが言うような怖いものではないですよぅ。フローレンスのお屋敷にはご当主さまのお部屋とクロム様のお部屋とクリティア様のお部屋と調理小屋と使用人部屋……十台くらいありますもの。冬になるとみんなこれであたたまるのです。このローテーブルの天板の裏側に炎魔法の魔導板が仕込んであって、程よいあたたかさに保たれているのです〜。やけどの心配もありません」
クリティアのところで働いていたルーシーが、えっへんと胸をはって解説する。
「クリティア様、ルーシーたちのためにこたつをくださるなんて。やはり女神様の啓示をさずかるだけあって、あたたかいお心の持ち主……神子様、いいえ、聖女様でしょうか。ルーシーは嬉しいです」
ひ孫が異世界で聖母のごとく崇められていて、リタは視線をそらした。
(生活が便利になるとはいえ、日本の文化を持ち込むたびに聖女扱いされたら疲れそうらなあ)
ともあれ、寒さをしのぐのに最適なアイテムが生活の中に取り入れられた。
エリオットの危惧は一部あたっていた。
エーデルフリートとぴーたんがコタツムリ化したのである。
「あったかー。出たくなーいー。このまま寝ちゃってもいーい?」
「ニャーあ」
腰まですっぽりもぐって上半身だけ出したエーデルフリート。反対側にはぴーたん。
『ちゃんと働こうよー!』と言いたげに、ミィがエーデルフリートの頭をバシバシ叩いている。
『くっ。何という魔力だ。魔族の王たる我がここまで囚われてしまうなど……ぐぬぅ』
「ぐぬぅじゃないわよ! 見回り交代の時間なんだから動きなさい! 主のあたしよりのんびりしてんじゃないわよ」
『ぎゃあ! やめ……やめろラシンド!』
シンディに叩かれて、ようやくぴーたんがのそのそ出てきた。
こたつがきてから二週間、二人はずっとこんな感じなのだ。シンディや他のメンバーだって外は寒い。けれどちゃんと働いている。だからカツを入れた。
「さっさとコートを着なさい。ぴーたんも、ほら。サラが編んでくれたあんた専用のセーターがあるでしょ」
『うぅ。使い魔づかいが荒いぞ』
「いってらっしゃーい」
「あんたも行くのよ」
「いだだっ!」
シンディが、エーデルフリートの両手を掴んで引っ張り出した。
「フローレンスのお嬢様が贈ってくれたのはありがたいけれど、男子部屋の分は封印しておいたほうがいいかもしれないわね」
「そんなぁ!!!! 俺のいこいの時間を奪わないで!!!!」
有無を言わさず、シンディがこたつに入っている魔導具部分に術をほどこした。
『な、何をしたのだラシンド!』
「デルとぴーたんが三十分以上入ったら、こたつ布団が噛み付いてくるようにしたわ」
「ヒィィ!」
シンディが指を鳴らすと、こたつの布団が持ち上がって、鋭いキバがシャキンと生えてきた。
「さぁ、見回りに行きましょうねー」
これ以後エーデルフリートとぴーたんがサボることはなくなった。





