38 かんじきがクシェル島の名産品になる!?
翌週、ヨイが島で作った雑貨を取りに来た。
その時、たまたまゴードンがはいていた“かんじき”を目にした。
「何をはいているのです? 見たことがないものですが」
「ああ、“かんじき”という雪の上を歩くための器具です。このように、積もった雪の上を歩きやすくなるんです。リタが提案して、みんなで作りました」
それを耳にしたとたんヨイの顔色が変わった。
「素晴らしい! さすがクリティア様が見込んだ娘。これも、大地の神の知恵ですか」
「あー、うん、そんなもんらな」
前世の知識だなんて言えるわけもなく。今回も神様のお告げということにした。
「これと同じものを何組かもらってもいいかな。オーキナに持ち帰って各領主に導入を打診してみます。雪深い地域で流通させれば人々の生活を向上させてくれそうです」
若いと言っても次期領主。ヨイは常に島のことだけでなく、他の領主のことも考えていた。
いつかはこの島に住人を呼ぶなら、少しでも外部との取引が多いほうがいい。
「バンブー製品を多く作っている島だな。自然豊からしいな」と認知されるのは大事だ。
シンディが予備のかんじきを一揃い持ってくる。
「領主さまのおめがねに適ったら、あたしたちもうれしいわ」
「ありがとう。きっと、いや、必ず気に入ってもらえると思う。その時は数を作ってもらうことになるが、かまわないですか?」
「みんなで手分けすりゃそれなりに作れるとは思う。な?」
リタがみんなの方をふりかえると、フレイアぎとくに大きくうなずいている。
「私は手先の器用さを求められる細工物を彫るよりはこちらの方を作るのが楽だからむしろ助かります」
フレイアが細工を彫りこむとき、力を入れすぎて割った竹の数は三桁に届く勢いだ。
職業が兵士だからというだけでなく、本人が根っからパワー型なのである。
竹同士を縛り固定する作業のときにいかんなく才能を発揮してくれている。
「承知しました。では、結果は近いうちに伝令に書面で届けさせるので、その時はよろしく頼みます」
「おまかせください!」
みんなそろっていい返事をした。
そんな話をしてから一週間が過ぎ、島に見慣れない来訪者があらわれた。
「ここがクシェル島で合ってるかな? オイラはジャン。ヨイ様に雇われてこことユージーン家の伝令をすることになったんだ。よろしくな」
伝令としてやってきたのは、翼を持った少年だった。
翼人と呼ばれる種族だ。人によって翼の形や色は様々。
ジャンの場合、カラスのようの艶のある黒翼だった。
まるで天狗のよう、と思ったリタだが、この世界の者に天狗なんて通じるわけもないから心にしまっておいた。
「これがヨイ様からの手紙だよ。ゴードンさん、読んでくれ」
「ああ」
ゴードンが伝書を開いて読み上げる。
「先日島で作ってもらったかんじきにつきまして。フローレンス領とチョコザイナー領から、取引したいというお話をいただいたので、まず二十ずつ用意して欲しいです」
「わー! すっごいな! 本当におれたちでこれをたくさん作って売るのか。伝統工芸品ってやつ? 村にいたとき木彫り工芸品作ってるじいさんがいたけど、俺がそういうのする日が来るとはねぇ。こんなに若いのに伝説の人?」
エーデルフリートがノリノリだ。
ミィも伝説という響きが気に入ったのか、エーデルフリートの肩の上で跳びはねている。
『クックック。伝説の新たなる伝導者とは、このゼルフェインにふさわしい……』
「あんたは作ってないでしょうが!」
『ぐふ!』
シンディのチョップでぴーたんが倒れた。
みんなが喜んでハイタッチなんかしている中、ジャンがリタにそっと一通の封筒を差し出した。
「あんたがリタか。島の代表宛とは別に、あんた宛にクリティア様から手紙を預かっているよ。オイラ、フローレンス領の移民でクリティア様がぜひオイラに頼みたいって、こことの伝令の仕事を振ってくれたんだ」
「クリティア様が?」
ジャンは声を小さくして言う。
「お嬢様がな、リタには特別に頼みたいことがあるからって言っとった」
「おれに頼み事?」
言われて、こっそり部屋に戻って手紙を開いてみる。
『おばあちゃん、玲奈です。かんじきを作ってくれてありがとう。うちのフローレンス領は雪深いから、冬は大変だったの。これで今年から楽になるわ。お礼にコタツとはんてん、食料もろもろを送るのでヨイ様の部隊が今度届けてくれる手はずになっています。
ここからが大事なのだけど
竹がとれるということは、春先にはタケノコが出るはずよね。タケノコを掘って送ってほしいわ。あとタケノコレシピを思い出せるたけ書いてちょうだい。タケノコを、山菜を食べたいの。よろしくね!!』
「この世界でコタツとはんてんを使えるなんてな。贈り物はありがてぇが、……求める見返りがタケノコかぁ。食べるのが大好きなところは変わっとらんなぁ玲奈のやつ」
なんともふくざつな気持ちで、リタは笑ってしまった。





