36 雪深いクシェル島の冬
クシェル島に雪が降り積もった。
さすがに雪を掘り起こして水路作りなんてできないから、次の春までは屋内でできる作業が中心だ。
雪が積もる前に回収してきた竹で皿やランタンを作っている。これはヨイが来てくれたときに、ユージーン領の工芸品として出荷することになっている。
雑貨制作はリタとサラが主導だ。
ルーシーとシンディ、エーデルフリートは楽しくランタンを作っているが、ゴードンとフレイアは四苦八苦している。
「うう。剣を振り回すならこんなに苦戦しないのに。モンスターより厄介だ」
「ゴードンさんに同意です。私もこういうのは苦手だ……」
唸っている二人の横で、エリオットは最後の仕上げをしてランタンを一つ完成させた。
「良し。こんなもんかな……って、ムー、危ないから邪魔をするな。僕はナイフを持ってるんだぞ」
ムーはずっとエリオットの膝の上で丸くなっていた。ようやく相手をしてもらえるのだと思ってエリオットのシャツにのぼってエリマキのようになっている。
いつの間にやらムーはすっかりエリオットになつき、毎日エリオットの布団にもぐって寝ているらしい。
エリオットの手から魚をもらうのが好きなようで、食事の時間になるとエリオットの後ろをついて歩く。
いつも引っかかれていたぴーたんはふくざつそうである。
『ぐぬぬぬ。このゼルフェイン・ル・レインツリーが浮気されるなど……』
「勝手によくわからないことに巻き込まないでくれよ、ぴーたん。ほら、ムー、ごはんがほしかったんだろ。食べな」
エリオットが苦笑いで、竹の小皿にほぐした焼き魚を乗せる。朝のうちに焼いておいたものだから、程よく冷めていく。
「ニャ」
ムーはいい声でないて魚を食べる。
リタも作業を終えてムーの様子を見に来た。
子どもや孫にせがまれて、家で猫を飼ったことがあるから懐かしい。
「兄さんすっかりムーの親みたいらなぁ」
「……いまさら山に返せないだろ」
この数カ月ずっと時間を見ては山を散策してムーの家族を探していたけれど、見つけることはできなかった。
山猫がいるにはいるが、ぴーたん訳では『知らない子ですね』という猫しかいない。
人間を警戒して出てこないのか、それとも人の目の届かないところで暮らしているのか、あるいは。
「もう家族みたいなものなんだから、最後まで面倒見るさ」
他人に興味を示さなかった兄が笑顔でこんなことを言うから、リタもなんだか嬉しい。
サラも作業を終えて、リタを呼びに来た。リタとサラの二人でキッチンに立つ。
「ふっふっふ。今日はいちだんと寒いすけ、体が温まるもん作ろうねぇ」
「あたしの故郷のスープなんていいと思うんだけど、どうだいリタ。そこにうどんを入れよう」
「ええのう」
クシェル島の冬はゆっくり過ぎていく。





