34 水路作りの話し合い
領主名代であるヨイがいるうちにと、今後の開拓について話し合いの場を設けることになった。
エリオットはリビングの大テーブルに島の地図を広げる。
「拠点から一番近い川はここ。ここから水路を作るのがいいと思う。途中、農業用水と生活用水で分岐させる。一つはこの家のそばへ、もう一つを畑を通って本流に戻るように掘る」
エリオットは、地図上で8を描くように家と畑の近くを通る。ということを想定している。
ヨイはざっと地図上の線をながめてうなずく。
「発想は悪くないと思います。ただ、これは紙の上だから可能なことであって、実際は地中の岩や高低差や水流の影響などもあるでしょう。それを考慮しながら調整してください」
「わかりました。調査した上で水路の幅などの計算を……」
そこに、リタが手を挙げて一つ提案する。
「兄さんや。あんま曲がりくねる水路はやめたほうがええ。大雨や嵐が来たとき、そこに強い負荷がかかるとぶっこわれちまう。そういうのを見たことがある。こちら側に流れてこないように、堤を作るのも必要らわ」
リタがまだ栗田ミズだったとき、大雨で新潟の河川の一つである刈谷田川が決壊したことがあった。
当時は川の堤防が曲がりくねった形をしていた。
異常なほどの大雨で耐えきれなくなった堤防は切れ、濁流となって切れた側の町を飲み込んだ。
ここに作るのがそんなに規模の大きくない水路であったとしても、本来なら流れ込まないはずの量の水が一気に押し寄せて沈むことになってしまう。
「まるで見てきたように言うんだな、リタ。監獄島のときもそうだが、誰に教わるでもなく、なぜそんなことを知っている?」
リタが年齢にそぐわないことを言うから、エリオットだけでなくフレイア、サラ、ゴードンも不思議そうだ。
リタは自分が転生者だと明かした相手は、同じ日に漂着したメンバーだけ。
実は前世百八のおばあちゃんで、水害を見たから知っている……なんて言って信じてもらえるかわからない。
ヨイはむしろ納得したようだ。
「クリティア様に食の女神の天啓があるように、リタには大地の神の天啓をきく力があるのかもしれませんね。クリティア様は女神様の声をきいて本を書き、ワショクという料理を広めているのですよ」
「あー、うん。おれも、似たようなもんらわ」
玲奈は、ひ孫の中でも特に食べることが好きだった子だ。貴族食が口に合わなくて和食作りに走る光景が目に浮かぶ。
なんやかんや説明すると大変そうだから、とりあえず天の声説に乗っかっておくリタだった。
 





