33 道の完成祝賀パーティーを開く!
道が完成した知らせを受けて、ヨイ・ユージーンが島を訪れた。軽装の騎士服姿で、海風に髪をなびかせ、しっかりとした足取りで村予定地の拠点に歩み寄る。
「これが完成した道か。……見事ですね」
かつてぬかるんでぐしゃぐしゃだった地は、今はしっかりと固められ、道のラインが美しく続いている。
リタたちが三ヶ月かけて手で作った道だ。
「よくやってくれました。……それで、祝いの品を持ってきたの」
ヨイの背後にいた側仕えの一人が、大きな魚を抱えていた。血のように赤い鱗、ぎらりと光る牙。
日本でいうところの鯛に似ている。サイズは鯛とは比べ物にならないくらい大きい。
「レッドファングです。たまたま途中で見かけて、仕留めました。白身の魚は焼くなら塩釜焼きが合うとクリティア様が仰っていました」
魚モンスターであるレッドファングは硬い鱗を持ち、骨も多いが、適切に調理すれば脂が乗って非常に美味である。なにより、祝宴にふさわしいサイズだった。
「うまそうな魚らなぁ。塩釜焼きなら、おれが作り方を知っとる。任してくれ。みんな手伝ってくれるか」
「もちろんだ」
リタはすぐに支度に取りかかった。
フレイアと協力してレッドファングの鱗を剥ぎ、内臓を取り除き、腹の中に島特産の香草を詰める。
「ルーシー、サラ。魔導冷蔵庫にコカトリスのたまごがあるろ? たまごの白身とたっぷりの塩を練り合わせて、それでこの魚を包んで蒸し焼きにするんらよ」
「たまごの白身と、塩を? 変わったことをするのね、リタ」
「とある国では割とよくある調理方法らよ?」
シンディが興味津々で調理工程を見守る。
「リタは面白いことを知っているんだね。あたしゃこんな料理は初めて見るよ」
「ねんどみたいですー!」
サラとルーシーが、リタに言われるまま塩とたまごの白身を練り合わせて、魚全体を塩生地で覆う。両手を広げたサイズの大皿を埋め尽くす塩釜魚。圧巻だ。
「じゃあ、焼くゾー」
石造りのかまどに皿ごと入れて、火加減を調整し、丁寧に蒸し焼きにすること約二時間――
釜から取り出した塩の殻を割ると、湯気とともにふっくら焼き上がったレッドファングが姿を見せた。芳ばしい香りが漂う。
「おおっ……。あんなものに包まれていても火が通るんだな。すごくいい香りがする」
ゴードンが拍手する。
「うわぁ! ごちそうだねー。酒が進みそう」
「だめよ、デル。仕事中でしょうが」
「今だけただのエーデルフリートに戻るから酒飲みたいよー!」
魚だけでは寂しいから、スープやうどん、サラダもテーブルに並べていく。
こうして、テーブルに料理が並び、村の広場――いや、拠点の広場は賑やかな祝宴の場となった。
メンバーの半分が未成年なので、乾杯は酒ではなくぶどうジュースだ。
それでもみんなワイワイとカップを掲げて喜びを分かち合う。
ぴーたんが宴の真ん中で陣取って、勝手に宣言する。
『クックック。とくと味わうが良いぞ人の子らよ。このゼルフェイン・フォーエングリン・ロッドハルトの活躍がなければ道は完成しておら……!」
「ミャーーー」
ぴーたんが言い終える前に、ぴーたんの背中にムーの爪がささった。
『ぬおおおおおおっ』
シンディが苦笑しながら取り分け、ルーシーが果物のジュースを並べていく。
「流れ着いた日には何もなかったけどさ、ずいぶん人の住む場所らしくなってきたよね。来年の今頃はきっともっと賑やかだよ。な、ミィ」
エーデルフリートがサラダのチーズをつまんでわらう。その肩では、流れ着いた日と同じように、うさぎのぬいぐるみミィが跳ねている。喋ることはできなくても、宴を楽しんでいるように見える。
ヨイは杯を掲げる。
「今後も頼りにしていますよ、みなさん。この島をもっといい島にしましょう!」
拍手と笑い声が、風に吹かれていった。





