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25 ぴーたんがヤマネコに超長い中二病名前をつける

 今日も今日とて、リタたち地図作成組は島内をマッピングしていく。


 地図作成をはじめて丸四日が経った。

 見晴らしの良い岩場を歩き続けて、海岸線に出た。


 今はちょうど干潮の時間帯。

 あたりには海藻や流木が打ち上げられていて、普段はここまで波が来ているのがわかる。


 エリオットが地図を広げ、額の汗をハンカチで拭う。


「ふぅ。今日はモンスターの襲撃もないし順調に進むな」


 隣を歩くフレイアは剣の柄に手をかけたままあたりを見回す。


「油断はするな。昨日は渓谷あたりでコカトリスが出たじゃないか」

「あ、ああ、そうだな」


 エリオットは注意されて気を引き締める。

 昨日はコカトリスが出て、シンディとフレイアの連携プレーで仕留めた。


 今日はまだ出没していないだけで、なにか出るかもしれない。

 スコップとバケツをさげたリタが、エリオットに言う。


「兄さんや。そこの潮が引いたあたりを探してみてもいいかね」

「何するんだ?」

「貝が取れるかもしれん。シンディ、手伝っとくれ」

「いいわよ」


 リタはここで潮干狩りができないかと考えた。


 リタたちが流されてきたのとは異なる海岸だ。

 砂の質が違って、砂の粒が粗めだ。


 砂を手でかいて、三センチくらいの貝を発見した。


「おお、やはり! みとくれ。いい大きさの貝らよ」

「まぁ。ほんと。見たことのない品種みたいだけど美味しそう。酒蒸しにしたいわねー」

「味噌汁もうめぇよ」


 ぴーたんは草食動物だから貝を食べることができないのでつまらなそうだ。


『人の子らよ。我が食える物も確保するのだ。毎日雑草ばかりではつまらぬ』

「雑草ばかり? あなたが昨日ニンジンを盗み食いしたのを知らないとでも思っているの?」

『うぐ……』


 シンディが笑顔で切り返すと、ぴーたんは視線をあさっての方に向けた。

 エリオットもリタが掘り起こした貝を一つつまんで日にかざしてみる。


 貝のスープに入っているような、粒の大きいものだ。


「これを食べてみて、問題ないようなら領主様にもこの地の産物として提出しようか」

「いいんじゃないかしら。販売できる品質なら、領主様の収入になるのだし」


 とりあえず今日食べる分だけとり、探索を続けた。

 ぴーたんが先頭を歩き、道なき道を行く。

 草木をかき分けていくと、崖の下に、リタたちが最初流されてきたあの砂浜が見えた。


「ふふふ。これで一周ったってわけね。これで大まかな地形は把握できたから、あとは領主様に島の開拓計画をたててもらいましょ」

「はぁ……やっと終わった……」

「頑張ったじゃないエリオット。二日目からは自分の足で歩いたし」


「リ、リタがずっと歩いているのに、僕がぴーたんに乗って移動してるんじゃ、カッコつかないじゃないか」

 

 兄の言葉を聞いたリタは、口角が上がるのを感じた。


(孫たちと一緒らわぁ。フレイアもおるし、女の子の前で背伸びしたいお年頃なんらな)


 フレイアはそんなエリオットの男心に気付かず、肩をすくめる。


「兵だって馬があれば馬で移動するし、その場にあった移動方法を取ればいいだけだ。無理をおして徒歩を選ぶことはないと思う」


 兵として効率重視の思考回路をしているのである。


「インドアでも頑張って歩くエリオット素敵」と思ってほしかった男心は届くはずもなかった。




「みゅー、みゅー」


 どこからかネコの鳴き声がする。

 茂みの中から茶色い子猫が現れた。

 子猫はぴーたんを母猫と思ったのか、ぴーたんによじ登りはじめた。



『ぎゃーー!! 爪を立てるでないネコ! いだだだだ!』

「ど、どこから来たんだこのネコ。足が短いし、ヤマネコか? しかし図鑑で見たことのない種類だな……。本国のネコにはこんな特徴のネコはいないし」

『悠長に言っている場合じゃない! 助けろ! 我はネコが嫌いなんだ!』


 カピバラはネズミの亜種である。

 そしてネコはネズミを捕食する生き物である。


 ぴーたんはネズミ族の本能でネコが苦手なのだ。


「選ばれし至高のカピバラでもネコはだめなんだな」


 エリオットがネコを抱えあげると、ぴーたんは速攻で逃げた。木陰からブルブル震えてネコを見ている。


『何なのだソイツは』


「親ネコとはぐれたのかもしれないな。人間を見たことがないはずなのに、全然警戒していない。生存本能みたいなもので、私たちに助けを求めたんだと思う」


 フレイアが周囲を見回ってきて言う。

 エリオットの手の中で暴れたりせず、親指を舐めて頭をすり寄せる。


「にぁー!」

「うわっ。こ、これはどうしたらいいんだ……? 僕はネコなんて飼ったことないぞ。噛まれたりしないよな。リタ、代わってくれ!」

「兄さんさっきまでの威勢はどこいったね。どれどれ」

「フシャーー!」


 ヤマネコはリタのことは好きじゃないらしく、リタが手を伸ばすと威嚇(いかく)してきた。


「あきゃーっ」


 危うく引っかかれるところだった。


「ネ、ネコとはなんて危険な生き物なんだ」


 エリオットがネコを地面におろしたら、ぴーたんによっていった。どうやらちょこまか走るぴーたんを獲物認定しているのか爪を出してぴーたんによじ登る。



『ぐぁー!! 寄るでないわニャンコ!』

「みゃ?」


 走り出すぴーたんをネコが追いかけていく。


「うーん……野に戻すも何も、ぴーたんから離れないわね」

「僕は、そのうち飽きて自分たちのナワバリに帰ると思うんだが」

「そう願いましょう。ぴーたんがうるさくて仕方ないもの」



 みんなで拠点まで戻ったが、ネコは忌避剤をまいた手前まできてウロウロしている。


「どうしましょうか。森に帰る様子がないわね……」


 エーデルフリートたちも合流して、ネコの様子をうかがう。

 一晩経ってもネコはその場を離れず、こちらの様子をみている。


「この様子だと、もう、おれたちで育てるしかないんじゃねえかな。例えば親ネコはなんかの理由で死んじまってて、自分で狩りをできなくて困っているのかもしれん」

「親ネコさんがいなくなってどうにもできないのは、かわいそうです……」


 話し合いの末、自分で狩りができるようになるまでは何か分けてあげる、ということになった。


「そうなると仮でも名前があったほうがいいんじゃないかい。ネコと呼ぶわけにもいかないだろう?」


 サラが提案すると、ぴーたんは得意げに叫んだ。



『フッ……我がコヤツに名を授けるとしよう! 覚えるのだネコよ。今日から貴様の名は——漆黒の爪を継ぎし覇王ナイトメア・オブ・デスサイズ・ヴォルフラム・グロリアスだ!!』


「……」


「……」


「…………は?」


 一同の間に沈黙が流れた。


「長っ!!!」


 エーデルフリートが思わず叫ぶ。


「今のはなにかの呪文か?」


 ゴードンが困惑する。


「ぴーたん、その名前は長すぎて覚えきれない。呼ぶのに困る。せめて五文字以内におさえてくれ」


 フレイアが真剣な顔でツッコむ。


「落語にあったのー。じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ……だったか、とにかく縁起よくしようとしてばか長い名前をつけられた子どもの話」


 リタは中二病発言に慣れすぎて、もはやツッコミすらしない。


「そうだな……最初の『ナイトメア』を取って、メア?」


 フレイアが考える。


「いやいや、後ろの『ヴォルフラム』から取って、ムーでいいんじゃない?」


 シンディも意見を出す。


『高貴なる名をそのような略し方してはならぬ……!』


 ぴーたんが怒るが、ヤマネコはどの名前で呼んでも鳴いて反応する。


『ふん……まぁよい、短く呼ぶことを許してやろう!』


 こうして、新たな仲間——漆黒の爪を継ぎし覇王以下略、略してムーが誕生したのだった。

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リタ(前世)のひ孫が悪役令嬢に転生している話
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リタ(前世)の娘が主人公の短編。うどんで異世界を救う勇者の話。
勇者召喚されたおばあちゃんが勘違いで異世界を平和にする話
― 新着の感想 ―
拒否反応したのに名前は付けてあげるんですね(ΦωΦ)フフフ… とにかくムーたんはこれからどんな活躍をするのかー!?
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