23 クシェル島の朝。サラの事情。
クシェル島二日目の朝が来た。
リタは日が昇らないうちにベッドを出た。
長年の癖でもう早起きが染み付いている。
「朝らわー。ラジオ体操してぇなあ」
外に出て大きく伸びをして、耳をすませば、鳥の鳴き声や風で揺れる木々のさざめきが聞こえてくる。
「おはよう。朝早いのね、リタは」
「おはようさん、サラ。起こしちまったか」
「いいや。アタシも早起きが習慣なのさ。旦那と食品店やってたときは、日の出の時間に開けていたからね」
サラはからからと笑う。真面目に刑務にあたるし、性格は快活で面倒みがいい。こんな善良な人がなぜ虜囚なのか不思議でならない。
きっとリタのように家族の罪を一緒にかぶった形なのだろう。
「朝食はあたしとルーシーで作るからね。何かリクエストはあるかい?」
「そうさなぁ。今ある材料で作れる、サラの得意な料理食べてみてぇな」
「はいよ。任せとくれ。ふふふ。うちの人も良く言っていたわ。お前の得意料理が良いって。懐かしいわ」
サラはどこか遠くを見て寂しそうに笑う。
「旦那さん、どうしとるんだ?」
「死んでしまったよ。店があった場所に、領主様が別荘を建てるから出て行けって言われちまってね。立ち退きに抵抗して、そんときに領地の兵にね」
「……サラは何も悪くねぇじゃねえか」
グレアス王国で領主の権限は強い。領民に対しては絶対的な力を持つ。
領主が領地の法を決めて、領主が立ち退けと言ったら出ていかないと罪になる。
「そうだね。アタシもそう思う。あんたも、エリオットも悪いことしちゃいないだろう。旦那に守られた命、せめて理不尽な目に遭うあんたたちを支えるために使いたいと思ってここに来たのさ」
「ありがとうねぇ。女神様がいるならサラみたいなしょ、なんだろうね」
投獄されても腐らず、リタとエリオットのためになればと思って一緒にクシェルに来てくれた。
第一印象の通り、サラは優しく芯の強い女性だった。
リタは朝のうちに川の水を汲んで来て、畑の水やりをすませる。
ひと通り水やりや雑草抜きを終える頃、みんなが続々と起きてきた。
「おっはよー。あれ? リタ一人で終わらせちゃったの?」
「おはようデル。早起きして時間があったすけな」
「片手間で今日の農作業終わらせるのかー。さすがばあちゃん」
ゴードンも起きてきて驚いている。
「何もこんなに早いうちにしなくても」
「朝露で土がやわらけえうちのほうが雑草抜きやすいんらよぉ。ひと仕事して腹減ったわー。はっはっはっ」
リタは服も顔も泥だらけにして胸を張る。
リビングには朝食の準備が整っていた。
今朝はサラとルーシーの特製、芋のスープとパニーニだ。
フライパンで平らに焼いたパニーニを薄く切って、焼き立てベーコンを挟んである。
カリカリ香ばしくて、程よい塩気。噛めば噛むほどよだれがでてくる。
「スープもうんめぇわあ。芋と玉ねぎとベーコンは相性がええなぁ」
「喜んでもらえて良かったよ。おかわりあるからね」
「スープもう一杯くれるかね」
「はいよー」
リタは両手でパニーニを掴み、大口を開けてほおばる。
若い体だから歯も顎も丈夫で、ガッツリ食べられる。前世は三割が入れ歯になっていたし、大好きなモチも危ないからと禁止されていた。
記憶を取り戻してから、食事が楽しみで仕方ないリタであった。
もりもり食べているリタを見て、ぴーたんが言う。
『このゼルフェイン・フォーレ・ティアマットは予言しよう。小娘は近い未来で肥える』
「若いからええんらよー。背を伸ばさにゃ」
「……リタ。ぴーたんの家名が毎回変わっているのは何なんだ?」
エリオットがぴーたんの痛いところを無自覚に狙い撃ちした。
『クキュルル…………。小僧、いいところに気づいたな。我は選ばれしカピバラ。真名を他者に知られてはなら……』
「大丈夫ですようエリオット。ぴーたんが名乗る名前はぜんぶデタラメだから覚えなくていいって、シンディさんが言ってました!!!!」
ルーシーから善意という名の追撃を食らい、ぴーたんは沈黙した。





