13 畑作り編③ コカトリスを活用して獣害対策をする。
食後、コカトリスの残骸の処理に取りかかる。
「ほっぽっとくと腐って虫がわくすけな。火にくべようて」
「焼く前に目玉と尻尾の蛇はもらうわね。使い道があるから」
シンディが拾ってきた瓶に金の目と蛇を詰めて、栓をする。なんとも不気味な光景だ。
エーデルフリートが笑って、棒で鍋をかき回す動作をしてみせる。
「モンスターの目玉と蛇を集めるって……もしかして、シンディも絵本に出てくる魔女みたいに、大きい鍋でカエルや蛇を煮込んでイーヒッヒッてやるの?」
こういう冗談を言われ慣れているのか、シンディは呆れている。
「デル、絵本の魔女と現実を混同しないでよね。魔法士はそんなことしないわよ。コカトリスの目と尾蛇を干せば薬の材料になるの。石化の治療薬や、怪我をしたとき回復力を補う薬ね」
「ほうほう。ニホンで言うなら漢方薬らろっかね。コカトリスの目玉なんてのはねぇけどな、蛇を酒に漬け込んだ薬や干物があってなぁ。解毒だとか胃腸の回復に使われとったな」
「あらま。あたしたち魔法使いも同じ用途よ。リタの前世の国でも、魔法と呼ばないだけでそれに近いことをしているのね。面白いわ」
日本で言うところの薬学は魔法に通じている。科学が発展していない分、魔法学や医学、それらが合わさった魔法薬学が発展している。
「魔法だけでなく薬の知識もほうふなんて、すごいですー!」
「ふふふ。あたしは魔法薬を作って生計を立てていたのよ。医者に頼まれて調薬の手伝いもしていたし」
「そらえらいなぁ」
ルーシーは瓶詰めになった目玉を見て、リタの背に隠れる。
「目が合いそうで怖いです……。これ、お薬になるんですか」
「原型を知っていたら飲むのに勇気がいるわよねぇ。すりつぶして使うから目の形はなくなるわよ。コカトリスの目は石化魔法にまつわる魔力が宿っているから、尾蛇の毒と混ぜて使うことで石化の治療薬になるのよ。鳥である以上卵から生まれてくるし、少なく見てもこの個体の卵を産んだ親コカトリス二羽がいるはずよ。もしものときのことを考えると薬を作っておく必要があるわ」
「そら、助かるわぁ」
他にもまだコカトリスがいるかもしれないと知って、ルーシー身震いする。
「怖いですね。他のコカトリスが来てしまうかもしれないんでしょう」
「大丈夫よ。拠点周辺に入ってこれないよう結界を張っておくわ」
「そうですか。良かった……」
戦う力のない者にとってモンスターは脅威。
結界があれば襲撃されることはないとわかって、ルーシーは胸をなでおろす。
「この骨、ついでに忌避剤にも使えねろっかね。ほれ、動物たちがコカトリスから逃げていたろ? この骨を砕いて拠点と畑のまわりにまけば、動物はよってこなくなるんでねかな」
予測が間違っていなければ、動物が恐れるコカトリスの骨をまくことでコカトリスがいると誤認して畑に立ち入らなくなる。
効果がないなら柵を作るなり別の方法を考える。
「今日のところは骨粉をまいて数日様子見して、よってこなければ良し。効果がないときは、柵を作ったり、ハーブでも探して植えよて」
「モンスター骨を砕いてばらまく……? 農業ってなんか怖い。俺が知らなかっただけで、普段食ってた野菜そういう感じで育てられてたの?」
リタがハンマー片手に焼いた骨をくだき始めるから、栄えた街で生まれ育ったエーデルフリートは若干引いている。
獣害対策をして何ヶ月もかけて野菜を育てて、ようやく街に出荷される。
大型トラックや収穫の機械なんてないから、日本よりもずっと大変だし高価だ。
「はっはっはっ。都会んしょにゃ馴染みねぇかもな。動物の糞だけでなく、骨も肥料にもなる。捨てるとこねぇがーよ。モンスターが出るようなとこでも野菜育てて出荷してくれるんは、えらいことなんよ」
「そっかー。ここに来てから勉強になることばっかりだ」
リタが作った骨粉をみんなで手分けをしてまき、シンディがモンスターの侵入を阻止する結界を張る。
地面に大きく魔法陣を描き、真ん中に立って唱える。
「大地の精霊よ、ラシンドの名の元に希う。この地を聖域となし、邪悪なるものを拒め。守護の壁」
白い光がほとばしり、拠点一帯を包み込む。
「ふぅ。しばらくはこれでモンスターが近寄らなくなるわ」
「すごー! シンディ、シンディ。この術が使えるならさ、俺たちが獣よけまかなくてもいいんじゃないの?」
「そう都合よくはいかないわよ。タヌキやキツネは邪悪なものじゃないでしょう? この結界魔法はモンスターにしか効かないのよ。何者をも拒む術にしてしまうと、あたし以外が結界内に入れなくなるわよ」
今日何度も魔法を使ったため、魔力を大きく消耗してシンディは疲れ気味だ。額から大粒の汗が流れる。
エルフの血を持っても、無限に魔法を使えるわけではないから、モンスターがまた現れたらひとたまりもない。
「はぁー。今日はもうさっさと休みましょ。あたし、先に寝るわ」
「みんなのために、ありーがとうねぇシンディ。おれもなにかできればええんらが」
「大丈夫よ。しばらく休めば回復するから。みんなはお風呂につかってゆっくりしなさいな」
他の三人が魔法を使えないから仕方ないとはいえ、シンディの負担は大きい。
日が暮れないうちに、シンディはテントで横になった。





