12 畑作り編② コカトリス襲来。シンディとエーデルフリート、タッグで戦う!
堆肥は一日ではできないため、食材を得るため島の探索に出ようという話をしていたところ。森の方から、ゴゲーーー! と、大きな鳴き声が聞こえてきた。
森から鳥たちが一斉に飛び立っていく。
ネズミやリスなども拠点の近くまで逃げてきた。
「な、なんの声だ、今の」
『猛き獣だ』
ぴーたんが震えながらシンディの後ろに隠れる。
「ちょっと、使い魔が主を盾にしてんじゃないわよ! なにか来るわ!」
ネズミたちを追って、巨大な鶏が現れた。
一メートルはある体。
深緑の羽に金色の眼、漆黒の脚。尾羽があるべき場所は紫色の蛇になっている。
「コカトリス!? 何でこんな厄介なモンスターが! リタ、ルーシー。下がっていなさい! あいつの目を見ちゃだめよ!。石になっちゃうわよ!」
「は、はいです!」
シンディに言われて、ルーシーはぴーたんの後ろにくっついてきつく目を閉じる。リタはスコップを握ったまま、直接コカトリスの目を見ないよう斜め右に視線をそらす。
「シンディ、シンディ。もしかしてさ。ここが無人島な理由ってコイツじゃない? 貴族の領地の範囲内だったとしても、モンスターがいる島に住むメリットってないから放置しているってパターンかも」
モンスターが現れたのに、エーデルフリートはとくに慌てる風もない。
「のんびりしてる場合じゃないわ。来るわ! 大地の精霊よ、我に応えよ。ラシンドの名の下に、契約を結ぶ。ひととき其の力を貸し与え給え!」
「クケェエエエエ!」
コカトリスがけたたましく鳴いてゴーレムにとっしんする。
シンディは拠点近くに控えさせていたゴーレムを目覚めさせ、盾にする。
「ゴーレムちゃんは元々石だもの。石化が通じないわ。さぁ、コカトリスを足止めして!」
ゴーレムの拳がコカトリスの胴に叩き込まれる。
ふらふらになりながらも、コカトリスはまだ立ち上がる。
ゴーレムがコカトリスを地面に押しつけ、シンディが魔法でとどめを刺そうとするが、コカトリスが暴れて拘束を抜けた。
鳴きながらリタに向かってくる。ここでやられるわけにはいかない。リタはスコップを構えて迎え撃とうとするが、エーデルフリートが止めた。
「リタ。戦う力のない女の子がやることじゃない。ここは俺が行く。みんな、耳を塞いで! 」
エーデルフリートがリタの手を取る。
『ギィアアアァアアオーーー!!!!』
呪いが発動して青年の姿からマンドラゴラへと変化する。
目が合ったものを石化させる力を持つモンスターとはいえ、生き物であることにはかわりない。
コカトリスはマンドラゴラの放つ超音波を受けて気絶する。
シンディは親指を立てて笑い、エーデルフリートの健闘を称える。
「大地よ、鋭き刃となりて我が敵を穿て! グランド・スパイク!」
ゴーレムの右腕が魔法陣に包まれ、長い槍状に変形し、コカトリスに突き刺さる。
今度こそ、コカトリスは力尽きた。
目の光は失われ、尾の蛇もくたりと垂れ下がる。
本体が死ねば体が繋がっている蛇も終わるようだ。
シンディは仲間たちの方を振り返る。
「ふぅ、みんな無事?」
「ああ。お陰でなんともねぇわ」
「こ、怖かったです……」
リタとルーシーも安堵の息をつく。
リタはこの世界にモンスターが存在することを聞いて知ってはいたものの、実際目にしたのは初めてだった。
ひ孫がやっていたテレビゲームには、モンスターと戦うRPGがあった。
いろんな武器や防具を揃えて戦いを挑んで素材を集めて、さらなる高みを目指すのがいいんだとか。
熊を見たことは数あれど、モンスターと直接対面することになるなんて考えたこともなかった。
もしもゲーム大好きな子どもたちがこの世界に来たら、大喜びするのだろう。
「ヤッタァ。俺、大活躍!」
「たしかに。今回は助かったわ。あえてマンドラゴラ化して足止めするなんてね」
人間に戻ったエーデルフリートが満面の笑みでシンディとハイタッチする。
リタはコカトリスに興味津々だ。
「それにしても、でっけぇ鳥らなぁ。食えるんだろっか」
「きちんと処理すれば美味しいわよ」
「なら食おう。久々の肉らわー。この羽も防寒に使えそうらし」
「鳥の死体見ても動じないんだね、リタ……。俺、ちょっと背筋がゾクゾクしてるのに」
「ニワトリをシメるのも戦時はようやったすけな」
なんでもいいから食わなきゃ死ぬ、という状況において、鶏さんかわいそうなどと言っていたら生きてはいけない。
なのでたまごを産まなくなった老鶏をシメて食卓に出すのは当たり前だった。
「ルーシーにゃ刺激がつえぇすけ、離れていてくれなぁ」
リタがシメると言った時点でルーシーは遠くに逃げていた。
例にもれず、ぴーたんはマンドラゴラ超音波を浴びて気絶していた。
お子様には見せられない血抜き・解体処理のあと。
リタとシンディは食べられる部分を切り出した。
「今ある調味料を考えると、作るのは焼き鳥が妥当かの。食べ切れん分は、香りのいい木を取って来て燻製にすりゃ保つな」
「あらいいわねぇ」
一口大に切ったコカトリス肉を串に刺して、塩と胡椒をしっかりと振る。
焚き火でじっくりと焼き上げて、焼き鳥の出来上がりだ。
「焼き鳥の完成だて!」
こんがりきつね色になり、肉汁が滴る。
エーデルフリートが大口を開け、焼きたてにかぶりつく。
「うんまぁ! コカトリスって初めて食べたけど、こんなに脂のノリがいいんだ。噛めば噛むほど肉汁が出てくるし、ぷりぷりしてる」
口のまわりを脂でベトベトにしてほおばる姿は子どものようだ。
「シンディも、なじら? 一応味見もしてみたんらが」
「美味しい! 大自然の中で生きているからかしら。農場の小屋で繁殖されている鶏より風味が濃厚な気がするわ」
「そりゃえがったわ」
リタも串にかぶりついて口の中に広がる旨味を堪能する。
飲み込むのがもったいないくらい、いい味だ。
ルーシーはオリーブで焼き上げたニンジンを食べる。
「ニンジン美味しいのです!」
コカトリス襲来は大変だったが、ちょうどいい食料となったので結果オーライである。





