11 畑作り編① リタ、ぴーたんのうんこを集める。
無人島生活三日目。
ふかし芋と焼き魚という簡易の朝食をとったあと、リタは拠点近くの土に十メートル四方にクワで線を引き、みんなに説明する。
長期間救助隊が来なかった場合に備えての食料生産だ。
「今日はここに芋植えるわ。畑作りにいっちゃんでえじなんは、ぴーたんらよ!」
『クックックッ。よくわからんが、ついに我の偉大さを知ったか人の子よ! 刮目せよ!』
唐突に指名されてぴーたんが、悪役じみた高笑いをする。
斥候以外特にすることもなかったため、ここぞとばかりにはしゃいでいる。
「リター。ぴーたんはどのあたりで役に立つんだ?」
イマイチぴんと来ないエーデルフリートが首を傾げる。
エーデルフリートは街暮らしだったため、農村の暮らしには疎い。ぴーたんの活用ポイントが見いだせなかった。
リタは畑用地の近くに深い穴を掘って、焚き火で出た灰と、森で拾った落ち葉を入れた。その穴を手で示して力説する。
「このあたりの土はかてぇからな。ええ野菜が育つには堆肥が要る。堆肥を作るにゃ草食動物のうんこが最適。さぁぴーたん! ここにおめの専用のトイレを作ったから存分に出してくんなせや!」
『はぁああああーーーー!? なぜだ! なぜなのだ! 畑の要というから、もっとこう! 外敵から守るとかそういう英霊っぽいことを期待していたのに!』
「いやあ、来た日から思っとったんよ。質のええうんこらなぁって。役に立ててそんなに嬉しいか、ぴーたん。おれがいい堆肥にしてやるすけなぁ」
『我が排泄物を褒められて喜ぶと思っておるのか! ぬぁぁああ!!』
泣いて転がるぴーたん。シンディが目に涙をためて大笑いする。
「あはははっ。よかったじゃない、ぴーたん。あなたにしかできないお役目よ。ぷっ、ふふ、あー、おかしい」
『笑うなラシンドおぉおおお!』
ここはずっと人の手が加わることのなかった土地だ。
栄養も特にない硬い土に野生種の芋を植えたところで、実りは期待できない。
収穫量を増やすなら、まず土壌改良が必要だ。
堆肥に向いているのは草食動物の糞だ。
前世では知人の酪農家から自家製堆肥を買っていた。
そんなわけで、手作りの堆肥というのはリタにはとても身近なものなのだ。
今あるもので堆肥作りに使えそうなもので抜擢されたのがぴーたんの糞だった。
リタはそこらに転がっていた糞も丁寧に集めて、ぴーたん用トイレに放り込む。
「ためらいなくぴーたんの糞を使うなんて、本当に元農家なのねぇ」
「わー。動物のうんこを集める令嬢なんて初めて見た」
「ぴーたん子お陰でお野菜がおおきくなるんですか。よかったですね〜」
三者三様の反応に、リタはかっかと笑う。
棒でトイレをよくかき混ぜる。
回収してきた落ち葉は、ミミズもいるような、触るだけで朽ちる葉だ。灰と糞とよく混ぜる。
発酵を促すには少々温度が足りない。
「シンディ。魔法は火を出す以外もできるかね。この中をあったかくしてーんらが」
「魔力を注げばできるわ。あたしのいた村でもおじいさんたちがそうやって堆肥作りをしていたから。毎日混ぜて魔力を注いで七日ってところかしら」
「そいつぁありがてぇな」
シンディの力を借りでトイレを混ぜ混ぜ。
あとは堆肥ができるまでの数日間に土を耕しておく。
「小石を取って雑草を抜いて、クワで耕して畝をつくる」
「はい! 草取りはルーシーがします!」
「俺もー。ミィは小石を取るって」
ルーシーとエーデルフリート、ミィがさっそく区画内の整備に取りかかる。
「それじゃ、あたしは耕す方を手伝いましょう。リタはどういう感じで畝を作る予定なの?」
「八列くらいできればええな」
「わかったわ」
小石や草を取って土を掘り返し、出てきた小石をまた取り除く。
リタは鼻歌交じりにクワを動かす。
やはり畑仕事をしているとき、生きているという実感がわいてくる。
青い空、あたたかな日差し、土のにおい、吹き付けてくる風。
日本とは全く違う世界に来てしまったのに、大地の息吹は同じだ。
「ふぅ。さすがにたくさん動くとあっちぇーな」
額から滴ってくる汗を袖で拭って、またクワを握る。
「あらあら。そんなことしたら泥が目に入るわよ。ほら、これ使いなさい」
シンディが大判のハンカチでリタの汗を拭う。泥だらけの袖で拭ったせいで、顔に泥をこすりつけたようになっている。
「ありーがとうねぇ」
「本当に元おばあちゃんなのねぇ。年頃のご令嬢が全身泥だらけにして笑ってるなんて」
「前世と合わせたら百二十一になるすけな。いまさら土がつくくらいなんてこたぁねぇ」
「頼もしいわね。いっそあたしやデルより勇ましいわ」
一日かけて作った畑は、いい出来栄えだった。
「ええうんこがほしいすけ、ぴーたんも毎日トイレを使っておくれな」
『……よく考えたら排泄物すらも大地を潤す源となる我は、やはりカピバラ界の帝王に相応しいのでは。我が排泄物はさしずめ畑のアダマンタイト、それとも黒曜石……』
リタに良質なうんこを期待されて、ぴーたんは新しい脳内設定を開花させるのだった。





