10 みんなで温泉を楽しむ。
リタは、さっそく天然温泉を楽しんでいた。
湯温は最適。泉質も上場。木々の合間から海がみえる。
「はー。いい湯らなぁ。ルーシーも、入ってみんか?」
「ルーシーは、濡らした布で毛を拭くのでいいのです。ウサギ獣人にお風呂の習慣はないです」
風習や体の違いは、これまでウサギ獣人と暮らしたことのないリタには新鮮だ。
「あっはっはっ。そういがー。ルーシーの目には、湯に浸かりたがる人間は不思議に映るろな」
「はい、おもしろいです! 食べ物もルーシーたちとだいぶ違うから、異文化の勉強になるってお姉ちゃんは言ってました」
ルーシーは布で自分の毛皮をふきふきしながら答える。
「リタ、リタ。ルーシー、『ご主人さまのお背中お流しします』っていうのをやってみたいです。メイドのお仕事の一つらしいのです」
「あー…………。おれは屋敷では断ってたなぁ」
前世の記憶が無い状態のリタでも、自分のことは自分でするという気質が残っていたため、入浴は一人で行っていた。
両親と兄には入浴補助の使用人がいた。
勉強は家庭教師がいたし、土いじりが趣味のリタは家族から変人扱いされていたため、「我が家の恥だから他家の貴族の前に出せない」とカトレアに言われて領地から出たことがなかった。
生まれ変わっても自分は自分でしかなかったなとしみじみ思う。
「そうですか、必要ありませんか……」
お背中流しをさくっと断られて、ルーシーはちょっとしょげた。
男性陣……エーデルフリートは触れられないから無理だし、シンディもさり気なく断りそうだ。
「なら、ここにいる間はルーシーにたのもうかの」
「はいです!」
リタが湯から上がると、ルーシーは拾い物の小さいバケツでリタの背を流す。
孫と風呂に入ったときも背中を流したがっていたななんてことを思い出した。やはりルーシー相手には、おばあちゃん目線になってしまうリタだった。
リタとルーシーの湯浴みが済んでから、エーデルフリートとシンディが湯を使う。
「いえーい! おっふろー!」
勢いよく飛び込もうとするエーデルフリートの後ろ髪を、シンディが掴んだ。
「こーら! 飛び込むんじゃないわよ。子どもじゃないんだから」
「はーい。なんかお母さんみたいなことを言うね、シンディ」
「子どもがいてもおかしくない年だけど、あなたみたいなでかい息子を持った覚えはないわねぇ」
エーデルフリートは母に怒られた子どもよろしく、おとなしく湯に浸かる。
シンディも服を脱いで、髪をほどき湯に入った。
ぴーたんがお風呂に飛び込んで水しぶきが上がる。
『ふふふふふ。我のために神がこの大地に創りあげた湯だ!!』
「はいはいそうねぇ」
「シンディ、ぴーたんの扱いが雑ぅ」
エーデルフリートはケラケラと笑い、両手と足を伸ばす。
「うーん! 広くていいね。俺の故郷にも大衆浴場はあるけどさ、こんな秘境みたいなのはなかなかないよ。空もキレイだし、叶うなら酒を飲みながら浸かりたいなあ。あとオツマミにサラミなんて付けてさ」
「のんきねぇ。あたし、これまで呪われた人間を何人か見てきたけど、デルみたいに笑っていられる人には初めて会ったわ。みんな呪いをかけてきた相手のことを憎んでいたけど、あなたそういう性格じゃなさそうね」
異性に触れるとマンドラゴラになるなんていう、面倒くさい呪いをかけられた。その上に漂流して無人島生活に突入したというのに、運命を呪うでもない。
エーデルフリートはあっけらかんとして空を仰ぐ。
「むしろ恨まれることしたのは俺だからねぇ。でもさ、俺、誰か一人だけを特別にしろっていうの、よくわかんないんだ。好いてくれる人みんな好きじゃ駄目なのかな」
エーデルフリートに言い寄った女性はみんな、自分だけを愛して欲しかった。エーデルフリートは、その熱量で思うほどの相手がいない。
シンディは元彼女たちのことが気の毒になる。
「そ。あなたはまだ本当の恋をしたことがないのかもしれないわね。本気で、誰にも譲れないくらい好きな人ができたら彼女たちの気持ち理解できるようになると思うわ」
「さすが俺より長く生きているだけはあるね。重みが違うや」
エーデルフリートは肩をすくめる。
「ねえ、シンディは魔法に詳しそうだし、この呪い解けないかな? 俺の旅の目的って呪いを解くことだからさ、呪いさえ解ければいいんだ」
「一番確実なのは『故郷に帰って彼女たちに誠心誠意謝罪して解いてもらうこと』よ。島から出られたら真っ直ぐ故郷に帰りなさい」
「無理だねぇ。この術をかけてきた魔女……リリスっていうんだけど、リリスに『二度とその面見せるな、もし見せたら同性相手でもマンドラゴラになる呪いをかけてやる』っていわれたんだ」
『フハハハ。女は怒らせると怖いとはよく言ったものよ』
ミィがぴーたんの頭の上でぴょこぴょこ跳ねる。
「仕方ないわねぇ。救助が来るのに何日かかるかわからないし、ここにいる間でよかったら、呪いを解く方法を研究してあげるわよ。でもあまり期待しないでね。魔法には相性があるの。あたし、呪術とは相性良くないのよ」
「研究してくれるだけでもありがたいよー」
エーデルフリートにすがられて、シンディは解呪の研究をすることになった。





