第二章 婚約破棄
ある日、エリザベートは、アランに呼び出された。豪華な邸宅の庭で、アランは冷たく無表情に彼女を見下ろしていた。
「エリザベート、話がある」
「はい、アラン様。どうかされましたか?」
エリザベートはいつも通り穏やかに答えたが、彼の視線に何か違和感を感じていた。アランはため息をつきながら続けた。
「お前との婚約を破棄したい」
その言葉はまるで刃物のようにエリザベートの心を貫いた。だが、彼女は驚きの表情を見せず、ただ冷静に問い返す。
「……理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「理由だと? お前はわかっているだろう。お前は退屈なんだ、エリザベート。お前は名門の娘でありながら、輝きがない。常に影に隠れ、何の刺激もない」
アランの言葉は無情だった。彼は彼女の目を見ず、遠くを見つめながら続けた。
「私は令嬢カトリーナと結婚するつもりだ。彼女こそ、私にふさわしい。彼女は社交界でも目立つ存在で、美しく、華やかだ。お前とは違う」
エリザベートの心は、次第に冷たくなっていくのを感じた。長い間彼を愛し、彼のために尽くしてきた自分が、こんな言葉で切り捨てられるとは夢にも思わなかった。
「わかりました、アラン様。婚約破棄を承諾いたします」
その瞬間、エリザベートの中で何かが弾けた。今まで控えめで、彼に従うだけだった自分を捨て去り、新たな決意が生まれた瞬間だった。彼女は静かに頭を下げ、優雅にその場を立ち去った。