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act.9 紫電の射手


「ヒューマン・スライム?」


 モニカの言葉を繰り返し尋ねるイグナール。


「スライムが人間を取り込んで進化した魔物よ。知能もそれ相応にね……厄介ね。ここは一端体勢を立て直したいけど」


 人の形をしたスライムはモニカの言葉を理解し、逃げる算段を立てていることに気が付いたようだ。


「逃がすものか! 『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『燃え盛る炎よ、形を成し顕現せよ』」


 ヒューマン・スライムの背後に巨大な炎の球が形成される。先程モニカが作り出した水弾よりも1回り大きい。


「あれ炎魔法だぞ! 何でスライムは水属性だけじゃないのか?」

「今はそれどころじゃないわ! 『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『揺蕩う水よ、形を成し顕現せよ』」


 モニカはヒューマン・スライムが作り出した炎球と違わぬ程巨大な水弾を作り出す。


「フレイムボール!」

「アクアボール!」


 ヒューマン・スライムが炎球を放つのに合わせ、モニカも水弾を放つ。それらはぶつかり合いせめぎ合う。


 煌々と燃え上がる炎は水を蒸発させ、水の固まりは炎の勢いを削ぎ落としていく。


 やがて大量の水蒸気をまき散らし文字通り霧散した。

 そして辺り一帯を白い霧が包み、森と合わさりお互いの姿を(くら)ませた。


「イグナール逃げるわよ!」


 モニカはイグナールの手首を掴み、ヒューマン・スライムとは逆の方向へと走り出す。


 どうやら彼女はこれを狙って先の魔法を放ったらしい。そのため、目の前の霧に驚かず、いち早く行動することが出来る。


 しばらく森の中を我武者羅に走る二人。


「はぁ、はぁ――取りあ――逃げ切れたかな」

「……そうみたいだな」


 激しく肩を上下させながら喘ぐように言うモニカ。まだ体力に余裕のあるイグナールは辺りを警戒しながら彼女の背中を優しく擦ってやった。


「それでアイツ、ヒューマン・スライムだっけか? 確か、人間を捕食して知能を付けたスライムだよな。それはわかる。だがなぜ水と炎の魔法が使えるんだ」

「本来はスライムの属性って水がなんだけど……きっと魔石店に飼われてたスライムだわ」

「魔石店?」


 モニカはカバンを漁って使い終わった魔石を取り出した。使用済みとなった魔石は黒ずみ、元の鮮やかな色を失っている。


 だが、その奥にはまだ魔力の残滓を感じられた。


「使用済みの魔石をスライムに捕食させて、残った魔力を吸い出すの。すると元の何もないガラス玉や宝石に戻って再使用できる。だから魔石店の多くは弱いスライムを飼っているのよ」


 モニカは使い終わった魔石の処理についてイグナールに話した。


「それじゃぁ……その吸った魔力で魔法を使ってるってことなのか」

「そうね。たぶん複数属性の魔力を大量に取り込んで強くなったスライムが、魔石店から逃げ出して、人を襲い進化した。そしてこの森で仲間を増やしてたってことね」

「繁殖してるってことは、あんな魔物がもう一体いるのか?」

「たぶん……それはない。スライムは分裂を繰り返して増えるの。自分の魔力を小さく分ける感覚かな。だからあの一体だけどうにかすればいいんだけど……」


 どうしたものかと顎に手をやり考えるモニカ。

 一時的にスライムから逃げ切ることはできたが、奴の逆方向へ来たため、森の奥へと入ってきてしまった。


 最早Bランクメンバーの二人に手のおえるような事態ではない。


 だからと言って、バージスへと向かうと鉢合わせになる可能性も高い。そうなれば今度は簡単に逃がしてはくれないだろう。


 先程と同じ手が通じるとも考え難い。


 戦闘をするにしても、モニカの水魔法は吸収されるし、魔石は品切れ。イグナールは腰に下げた剣を見る。

 炎のエンチャントをしているならば効果はあったが、ただの剣では意味はない。


 なら……

 イグナールは自分の手を見つめ、とある可能性を考えていた。


「イグナール、お願いしたいことがあるの」


 覚悟を決めたと言うようなモニカの表情から、イグナールは自分とモニカが同じことを考えていると察した。


◇◇◇


「憎き人間め、どこに消えおった……」


 我が子の(かたき)であるイグナールとモニカを探し求め、森の中を歩くヒューマン・スライム。身体の周りに水弾を五発浮遊させ、臨戦態勢を整えている。


 ガサッ


「そこか! アクアボール!」


 茂みが揺れる音を素早く察知。

 一発の水弾を放つ。


 茂みが弾け飛びその向こう側にモニカの姿が露わになる。彼女は体を震わせ、怯えているように見える。


「見つけたぞ。小癪な小娘め。どうした? 連れの男はいないのか」

「い、いや! やめて、許して……イグナール、どうして来てくれないの!」

「はははっ、どうやら見捨てられたようだな! 心配するな、あの男にもきっちり償いをさせてやる」


 ヒューマン・スライムは右手を高らかに上げる。


「さぁ死ね。押しつぶせアクアボ――」

「今よ!」


 ヒューマン・スライムの左側の茂みが揺れ、イグナールが飛び出す。


 エンチャントも施されていない剣を振り、ヒューマンス・スライムの首を切り裂いた。

 しかしイグナールは初動に全てを掛けたのか、着地に失敗しヒューマン・スライムの足元に転がる。


「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『揺蕩う水よ、形を成し顕現せよ』」


 すかさずモニカは巨大な水弾を生成する。


「無駄だ!」


 完全に頭と胴を切り離したはずが、空中に浮く首は切断面から植物のツルのような触手を胴体へ伸ばし、繋がる。


「アクアボール!」


 完全に再生し、体勢を立て直すのを阻止するためモニカが巨大な水弾を飛ばした。


 しかし先程の二の舞、ヒューマン・スライムは片手で水弾を受け止め吸収し始める。


「愚かな奴らだ。これで万策尽きたか!」

「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』」


 イグナールは転がったままの体勢で右の掌をヒューマン・スライムへ向ける。


 彼の言葉に呼応するように、右腕全体がバチバチと紫電をまき散らし、光を放つ。


「吹き、飛べ‼」


 果てしない空、虚空へ向けて極大のエネルギーが放たれる。雷鳴を轟かせ、行く道を全て無に帰す加減を知らぬ無慈悲の一撃。


 地から空へと降り注ぐ紫電は、進路上にあったヒューマン・スライムを蒸発させ、空の彼方へと消え去った。


 紫電の()ち手は加減を知らぬ出力に、その膨大な魔力を消費して地に転がったまま青い空を見上げ微笑んだ。



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