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act.8 森、炎、水


「それじゃあ、次は武器のエンチャントね。そのままのイメージを保ったまま剣を持ってみて」


 イグナールは左手に魔石を移し、細身の直剣を鞘から引き抜く。


「剣が自分の手足の延長だと思って……その延長した手足に魔力を流し込んで魔力を纏わせるイメージ。基本的なとこはライセンスなんかに魔力を流し込むのと同じだから比較的簡単だと思うわ」


 彼女が言ってしばらくするとイグナールを覆っていた蒼の魔力が剣をも、包み込む。


「うん! 私が手伝ったのもあるけど、これだけできれば十分だね!」


 イグナールは拳を握りしめ、静かに喜びをかみしめる。


「モニカ、ありがとう!」

「でも、まだまだこれからだよ。いつもディルクを見てきたイグナールならわかると思うけど、今のはただ纏わせただけ。剣も体もそこまで強化されただけだからね。ただそのイメージはちゃんと覚えててね!」

「あぁ頑張るよ!」


 左手を開けるとイグナールの体と剣に纏っていた蒼のオーラが無くなった。


「だけど、今のままじゃ時間がかかってしょうがないな……」

「そのための詠唱よ。剣術でも一連の動作に名前を付けたりするでしょう? さっき覚えた魔石から魔力が流れ込むイメージと『魔石に眠りし力よ、我が意思に従え』って詠唱を結び付けて覚えるの」


 なるほど、とイグナールは魔石を握り唱える。


「よし、『魔石に眠りし力よ、我が意思に従え』……おぉ! さっきみたいに魔力を感じるぞ!」


 再び蒼オーラがイグナールを包んだ。

 彼自身、魔法の属性が発現しないと言うこと以外は、優秀な人間だ。ディルクの剣術修行も相当なスピードで習得していった。


 だがこの世の中で、属性がない。詰まるところ魔法が使えないと言うのはとんでもないディスアドバンテージなのだ。


「身体強化の詠唱と武器エンチャントの詠唱も教えてくれ」

「はいはい。まぁ自分の好きなように考えてもいいんだけどね。ただ今のイグナールなら型通りに覚えた方が習得は早いかもね」


◇◇◇


 イグナールとモニカはスライムの異常繁殖が発見されたと言うバージス近郊の森までやってきた。


 既に二人は依頼達成のため、スライムを追い回し奔走していた。森に入るやいなや、スライムを発見。追い回し討伐をしていると更なるスライムに遭遇すると言った具合だ。


 繁殖力の高い魔物ではあるが、この数は確かに異常繁殖と言ってもいいだろう。それに思考力の低いスライムと言えど、人間に見つかる危険性も顧みず森の浅いところまでやって来ると言うのは生まれて間もない証でもある。


「くそ! ちょこまかと!」


 スライムを追いかけるイグナールの剣は炎を纏って煌々と燃え上がる。

 しかし、文字通り付け焼刃で身につけたエンチャントで、炎を纏った剣は中々その威力を発揮することができず燻っている。


 人の膝下に満たないゼリー状の魔物は近接主体のイグナールには骨の折れるもとい、腰の折れる相手である。


 そしてスライムの形状や大きさなど個体によって差は出るが、彼らが相手をしている種類は小さく逃げ回ることが得意だ。


 液状の体を持つスライムからすれば、木々の立ち並ぶ森はどんな場所でも逃走ルートになり得る。


「ちょっとイグナール! 火事にならないように気をつけてよね!」

「その時は消化を頼む! よしモニカ、そっち行ったぞ!」

「もう! どっちもわかった、任せて! 『魔石に眠りし力よ、我が意思に従え』『燃え盛る炎よ、形を成し顕現せよ』」


 彼女の周りに人の頭と同じ程度の球状の炎が三個浮かびあがる。


「『フレイムボール』」


 イグナールが追い立て集め、モニカが一掃する。彼らが小一時間程スライムを追い回した結果、考え出した作戦だった。


 炎の球は計画的に追い立てられ、集まった五匹程のスライムを蒸発せしめた。


「ハァハァ……よし、ここら辺の奴らは一通り倒しただろ」

「そうね。それにしてもバージスの近くに生息してるスライムだから警戒してたけど、それほど強くはなかったわね。すばしっこくて苦労したけど……」


 息をついて汗を拭うモニカ。足場の悪い森のなか、相手の有利な場所での追いかけっこはずいぶんと体力を消耗させた。


「ちょっと休憩にバージスに戻りましょう」


 二年間、前衛として剣術と体力づくりに尽力してきたイグナールにはまだ余裕はありそうだが、後衛のモニカは限界が近いようだ。


 木にもたれ掛かり、ズルズルと座り込むモニカは疲労困憊と言った感じだ。

 服が汚れることも、短めのスカートが捲れ、白い太股が露わになるもそれどころではないモニカは、気にする様子もない。


 イグナールは素早く目を離して何も見ていませんとアピールする。


「貴様ら、よくも我が愛しい子らを……」

「ん? モニカなんか言ったか?」

「許さんぞ!」

「いや! 俺はなんも見てないぞ!」


 弁明のためモニカの方を向いたイグナールの目の前へ、水の固まりが迫りくる。


「待てって!」


 イグナールは上半身を大きく捻り、水弾を避ける。標的を見失った水弾はそのまま直進を続け、木を三本程粉砕し弾けた。


「おいモニカ! いくらなんでもやりす――」

「私じゃないわよ!」


 素早く立ち上がり駆け寄ってくるモニカ。


「じゃぁ何だって言うんだ……」


 森の中、二人で警戒態勢をとる。鬱蒼と生い茂る木々が邪魔をして、遠くまで見通すことは出来ない。この森の中でイグナールを狙い、水弾を放った何者かの気配を探る。


「どこに居やがる……モニカ、魔石をくれ」

「ごめん、もう品切れなの」


 先のスライム討伐のために購入した魔石は全て使ってしまっていた。どうやら先のモニカの提案はそれを含めてのことだったようだ。


 イグナールは目を閉じ、集中する。

 現在役に立たない視覚を遮断し、その他の感覚で敵の方向を割り出す。


「憎き(かたき)を粉砕しろ! アクアボール!」

「伏せろモニカ!」


 そう言ってモニカの頭を手で押さえ、共にしゃがむ。先程まで頭のあった所を水弾が勢いよく通過する。


「あっちね! 『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『揺蕩う水よ、形を成し顕現せよ』」


 モニカは自身の魔力を使い、人を二人は軽く飲み込みだろう巨大な水弾を形成した。


「吹き飛ばせ! アクアボール!」


 先程水弾が飛来した方向に向けて放つ。

 立ち並ぶ木々を飲み込むように勢いよく突き進む。


 しかし、ある所で水弾の勢いが死に、止まる。


「この程度では我に傷一つ付ける事叶わんぞ」


 水弾は一点に吸い込まれるように収縮していき、しばらくすると彼女の放ったアクアボールは消え去り、彼らを襲う声の主が現れた。


「な、なんだアレは……」


 人の形をしたナニか、遠目でもその体は半透明な蒼いゼリー状であることが分かる。


「ヒューマン・スライム!?」


 イグナールの横でモニカが声を荒らげた。



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