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act.77 禁忌の工廠、深淵へ続く足音


 魔物の製造プラント……馴染みのない言葉の連続に、それが何を意味するのか全く理解が及ばないイグナール。先程エルフリーデが口をつぐんだ「魔水」と関係しているのではないか、と当たりをつける程度のことしかできなかった。


「ごめんなさい、エルフリーデ……ここが動物の飼育施設ではないって、どういうこと? 魔物の製造プラントって、どういう意味なの?」


 動揺するエルフリーデに、モニカが優しい声色で尋ねる。


「そ、それは……」


 しばらくの沈黙の後、彼女は重い口を開いた。


「ここは魔物を製造……文字通り、人工的に生み出す施設だということです。おそらく、上の階層にあった檻は、ここで生まれた魔物を閉じ込めておくためのものだったのでしょう」


「なるほどのう」


 ここで意外な人物が言葉を挟んだ。ヴィクトリアだ。イグナールもモニカも、そしてエルフリーデさえもが彼女を振り返る。


「先程、檻の破片を剣へと作り直したじゃろう? 今まで触ったことのない金属じゃったから少々困惑したが、それと同時に『そこらの獣を入れておくには随分と頑丈すぎる作りじゃ』と疑問に思っておったんじゃ」


 魔物を閉じ込めておくための檻だというのなら、その異常な強固さにも納得がいく――それが彼女の言い分だった。


「それにしても、どうして魔物なんて作る必要があるの? ここは魔王を倒すための研究が行われていた施設じゃないの?」


 モニカの疑問はもっともだ。魔物への対策として捕らえて研究するならまだしも、自ら生み出すことに何の意味があるのか。


 いくら考えても、自分たちの常識の範疇では答えが出る気がしない。かつてこの施設で研究を行っていた者たちが何を考え、何を求めて魔物を生み出していたのか。イグナールは、その思考を早々に放棄した。


 モニカの発言以降、誰も口を開かない。彼女の疑問に答えられる者は、ここにはいなかった。

 マキナはいつも通りの無表情で押し黙り、ヴィクトリアはイグナール同様、考えても無駄だと悟ったようだ。肝心のエルフリーデは、恐怖に支配されたかのように青ざめた顔で小刻みに震えている。


 彼女は何かに思い至っているのかもしれない。しかし、それを話せるような心理状態にないのは誰の目にも明らかだった。だからこその、重苦しい沈黙。


「……この先に、まだ何かあるかもしれない。それに、あの銀色の水もまだ見つかっていないんだ。探索を続けよう」


 耐えきれなくなったイグナールは、目先の目標をあえて言葉にして動き出した。


「マキナはエルフリーデの側にいてやってくれ」

「畏まりました」


 精神的に追い詰められているエルフリーデを一人にはできない。いざとなったとき、彼女を抱えて即座に離脱できるマキナが最適だろう。


「俺たちも離れずに探索しよう」


 手分けした方が効率はいいが、未知の危険と遭遇するリスクが高すぎる。イグナール、モニカ、ヴィクトリアの三人は、付かず離れずの距離を保ちながら、成長した魔物が内包された第七階層の探索を開始した。


「こいつらが、もし一斉に動き出したら……」


 あまり考えたくない事態だが、先刻のオルトロスの幼体を見る限り、この容器の中に浮かぶ魔物たちはすべて「生きている」と考えるべきだ。それが一斉に解放されでもしたら。


「ちょっと、怖いこと言わないでよ」

「ほれそこの二人、こんなところでイチャつくでない」

「い、イチャついてなんかないわよ!」


 二人のやり取りのおかげで、重苦しい空気がわずかに緩和される。


 しかし、問題はやはりエルフリーデだ。彼女のことを思えば一度引き上げるべきかもしれないが、あの「銀色の水」が魔物を操る性質を持っているなら、ここに並ぶ個体群を放置するのはあまりに危険すぎる。


「もし次の階層があるなら、そろそろだと思うけど……」


 モニカが前方を指差す。この遺跡の構造は単純で、降りてきた階段のほぼ真反対に次の階層への道がある。


「ふむ、この遺跡はどこまで続いておるのじゃろうな」


 しばらく進むと、三人の前に第八階層への入り口が現れた。


「……エルフリーデとマキナを呼んでこよう」


◇◇◇


 少し落ち着きを取り戻した様子のエルフリーデとマキナを連れ、一行は次の階層へと降りる。その階段は今までのものよりも遥かに長く、地下深くの深淵へといざなうようだった。


 おそらく、次が最後の階層。

 そう確信させる冷たい空気が、下層から這い上がってくる。


 ようやく終わるのかという安堵と、何が待ち受けているのかという不安。複雑な感情が入り混じり、イグナールたちの階段を下りる速度は、無意識のうちに上がっていった。


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