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act.74 銀の軍勢、公爵令嬢の不敵な一手

「やっぱり、あの銀色の肌って……さっきのだよね?」

「ああ、おそらくとな」


 水弾を生成・展開して戦いの準備を整えたモニカの問いに答える。入り口前の戦闘でオルトロスが纏っていた液状の銀だろう。いや、ニュアンスとしては「纏わりついていた」ほうが正しいかもしれない。


 獣とは思えないほど理路整然とした戦闘思考、そして分離して逃げ去った銀色の水。それを纏ったゴブリンたちの、本来の生態とはかけ離れた統率の取れた様子。


(これは、魔物に取り憑いて変化させるもの……あるいは、取り憑いた魔物を操るものか)


 オルトロスから受けた印象を含めると、後者が濃厚だとイグナールは考える。その推測が正しいのであれば、奴らの背後に控えているのはルイーネ遺跡――ひいては、あの研究所の守護者ガーディアンが絡んでいるはずだ。


「きっと奴らは、この遺跡の守護者に操られているんだ」

「厄介じゃな」


 ヴィクトリアの言う通りだ。現段階では、ゴブリンたちがどれほどの数、伏兵として潜んでいるかもわからない。無闇に突っ込んで囲まれれば、個体としては脆弱なゴブリンであっても、多勢に無勢。幾多の魔物を狩ってきたヴィクトリアも、それは重々承知しているはずだった。


 かといって、このまま睨み合いを続ければ精神を削られる。


「しかし、土が無ければゴーレムは作れんからのう。こんな場所であれば、一体くらいは連れてくるべきじゃったわ」


 一面を金属の壁で覆われているこの環境では、ヴィクトリアの得意とする土魔法に制限がかかる。あらかじめ想定できた事態であったにもかかわらず、先を急ぐことに固執して失念していた自分に、イグナールは歯噛みした。


 モニカの水弾であっても、あの遮蔽物だらけの瓦礫群の前では効果が薄いだろう。ここは危険を承知で紫電の力を使い、速攻を仕掛けるほかないのか。


「わ、私に任せていただけませんか」


 ゴブリン共をどう炙り出すか思案していた最中、意外なところから声が上がった。


「エルフリーデ、何か策があるのか?」

「はい、一応……。遺跡はなるべく現状を保存したいのですが……背に腹は代えられません!」


 エルフリーデの周囲に風が渦巻き始める。それはやがて、鋭い風切り音を放ついくつもの小さな竜巻となった。


「トルネイド!」


 エルフリーデが両手を前に突き出すと、停滞していた竜巻たちが一斉に牙を剥いた。遺跡内に散乱した瓦礫を巻き込み、破壊力を増しながらゴブリンたちへと襲いかかる。


 何匹かが巻き込まれ、ある者は風の刃に切り刻まれ、ある者は瓦礫に圧殺されて鮮血が舞い散った。身を隠していたはずの瓦礫の山が、彼らにとって最大の脅威となって襲いかかる。それを回避するため、奴らは表へ出ざるを得なくなった。


 銀色のゴブリンたちが瓦礫の影から次々と姿を現す。ざっと見たところ、三十匹前後は確認できる。血に濡れ、手入れもされていない盾と剣を構え、驚くべきことに隊列を組んで前進してきた。統率の取れたその動きは、やはり第六階層以降に潜む「影」の存在を強く予感させる。


 エルフリーデの竜巻が後方の弓持ちを牽制し、無力化してくれているのは助かる。ゴブリンは、特に群れの長となる個体ほど、自分たちが非力であることを自覚している。そのため、武器に糞尿や毒を塗布していることが多いのだ。モニカがいれば治療は可能だが、この乱戦で無駄に消耗するのは避けたい。毒矢の脅威を考えなくて済むだけで、随分と戦いやすくなる。


「アクアボール!」


 モニカが水弾を放ち、組織立って迫るゴブリンたちに先制攻撃を仕掛ける。先頭の一匹に命中して弾き飛ばすが、致命傷には至らない。奴はすぐさま立ち上がり、再び隊列の後方へと加わった。


 着実に、少しずつ距離を詰めてくる。不用意に斬りかかれば囲まれる。雑ではあるが、こちらにとっては極めて有効な戦略だった。


「どうにかあの隊列を崩さないと……」


(紫電の魔力放出を試すべきか?)


 出力を絞れば崩落は免れるかもしれないが、果たして銀色の表皮を貫けるのか。オルトロスの例を見る限り、あの銀は魔力を拡散させる性質がある。外側からの放出では決定打に欠ける可能性が高い。


 エルフリーデは後方の封じ込めに注力し、モニカの水弾では突破口が開けない。ならば、毒の心配がないマキナと協力し、一撃離脱で数を減らすしかないか。


「マキナ――」

「やれやれ。これは魔力の消費が激しくてな。疲れるからあまりやりたくないのじゃが……」


 マキナに指示を出そうとした瞬間、ヴィクトリアが静かに前に出た。


「ヴィクトリア! 下がれ!」

「心配するでない。わらわを誰だと思っておる」


 周囲に土がない今の彼女は、戦力的には心もとないはずだ。そう判断して制止したが、彼女は不敵な笑みを浮かべたまま、さらにもう一歩踏み出した。


 そして、無造作に、残骸となった金属製の檻へと手を伸ばした。


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