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act.69 黒槍の投擲、空駆ける雷光の姫君(?)

ヴィクトリアの重い一撃を喰らったオルトロスの左頭は昏倒した様子で、ぐったりと下を向いた。斬撃は意味がないとヴィクトリアに忠告しようかと思ったイグナールであったが、どうやら杞憂に終わったようだ。


 ゴーレムを使わない彼女の直接戦闘は、今まで見たことがなかった。クルトが襲撃してきた際にもう一人の男、ラウレンツと戦っていたが、あの時のイグナールには二人の戦いを観察する余裕などなかったのだ。


 ヴィクトリアは、彼女が扱うゴーレム同様、なんと力任せな戦い方をするのだろう。蒼いドレスに身を包んだ可憐なお嬢様が、自分自身よりも巨大な土塊を手に魔物を殴りつける光景は、あまりにも非現実的だった。


 しかし、魔界を闊歩するという魔物オルトロスはそれくらいでは倒れない。片方の頭がやられたとしても、もう一方が機能している限り奴は動き続ける。垂れ下がった頭など意に介していないと言わんばかりに地面を蹴って跳躍し、太く強靭な前足を振り上げヴィクトリアへと襲いかかった。


 彼女はその攻撃を避ける素振りも見せず、土塊の大剣で真正面から受け止めて見せた。足元に急激な負荷がかかり、彼女の足が地面へと食い込む。オルトロスから放たれた一撃は、間違いなく魔物の常軌を逸した威力だ。しかし、それを受け止めて見せたヴィクトリアもまた、尋常ならざる存在だった。


 土属性の魔力を用いた身体強化は、主に膂力を向上させると聞く。だが、並の土属性魔法使いならば、今の一撃で押しつぶされていただろう。さらにヴィクトリアは、オルトロスの足元から蛇の形をしたゴーレムを作り出し、奴の身体へと巻き付かせた。


 ヴィクトリアが奴を足止めしてくれている間に、身体の機能が少しずつ回復し、ようやく動けるまでになったイグナール。頭の中でオルトロスを倒す術を模索する。巨体に見合う膂力と、それに似つかわしくないスピード。さらには鉄壁の毛皮。奴に有効だったのはマキナの槍、イグナールの刺突、そしてヴィクトリアの殴打。


 そして――。


「賭けてみるか……」


 不確定要素は大きいが、あの電撃は奴にも十分通じたはずだ。ならば出力を上げれば、倒せる可能性は十分にある。刺さった剣に魔力を集約させれば、周囲への被害も抑えられるはずだ。そう算段を立てていた最中、イグナールはあることに気が付いた。


「なっ……!?」


 深々と刺さっていたはずの自分の剣を、今、大蛇が咥えていた。


 オルトロスの尻尾である大蛇が、イグナールの剣を抜き取っていたのだ。体内の異物を排除しようとしただけなのか、それとも紫電を流し込む媒体だと見抜かれたのか。ここでもやはり、ただの獣ではない片鱗を覗かせる。


 あれほど深く刺さった剣を抜いたのなら、おびただしい血が流れるはずだ。致命傷には至らずとも、体力を削ることはできる。しかしオルトロスの傷口を注視しても、血が流れている様子はなかった。これでは振り出しだ。


「いや、まだだ!」


 イグナールは先程と同程度の出力で紫電を放つ。雷光は見事に命中したが、魔力は銀色の体毛に受け流されるようにして外側へと霧散してしまった。やはり、何かを通じて体内へ流し込まなければダメージは期待できない。


「マスター」


 唐突な声に驚き振り返ると、そこにはマキナが立っていた。


「このオリハルコンでできた槍は、紫電の魔力を通します」


 簡潔な言葉だったが、マキナが言わんとすることは瞬時に理解できた。この槍を突き立て、そこに紫電を注げということだ。イグナールは力強く頷いた。


「頼むぞ、マキナ!」

「了解いたしました。……それでは、失礼いたします」


 マキナは素早くイグナールの横へ移動すると、左手を彼の腰に回した。


「しっかり掴まっていてください」


 困惑する間もなく、彼女は地面を強く蹴り上げた。イグナールを抱えたまま、空高く跳躍する。重力から解き放たれ、ふわりと浮き上がる感覚に混乱しながらも、イグナールは必死にマキナの身体にしがみついた。まるで颯爽と現れた勇者に助けられるお姫様のようだ。


 イグナールの重さなど微塵も感じさせず、オルトロスの頭上高くに達したマキナ。彼女は朝の光さえ吸収するような漆黒の槍を逆手に構え、振りかざす。浮遊感が重力に変わり、身体が落下を始めた瞬間。彼女はオルトロスの胴体目掛けて、渾身の力で槍を投擲した。


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