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act.7 魔石


 二人は魔石店に入り、品物を物色する。


「うーんスライム討伐のことを考えるとやっぱり炎の魔石が欲しいかな」

「デボラみたいに風属性じゃダメなのか?」


 モニカは大きく頭と手を振り、無理無理と連呼する。


「スライムがいくら初級レベルの魔物とは言っても、その体を無理やり引き裂くようなデボラレベルの風魔法なんて、どんな高価な魔石を使っても無理よ。やっぱり無難なのは炎魔法で蒸発させることかな」


 モニカは赤く輝く小ぶりの魔石を摘まみ上げて睨めっこしている。

 彼女が見ているのは丸く加工された小石程度のガラス玉だ。


 粗悪であったり、小ぶりな宝石類を砕いて、ガラスに混ぜ込むことで魔石の元になる。一応広義ではこれも魔石ではあるが、もちろん本物の宝石と比べるまでもなく品質は落ちる。


 それが故に非常に安価な代物でもある。


 主な用途としては、戦闘などではなく、水源が近くにない場所で水を生んだり、野営のために火を準備するなど日常生活や旅での活用である。


 そのため、炎と水の魔石が大量に売られている。


 店内に並べられている品物も、大半はガラス玉の魔石であり、高価な魔石はカウンター裏のガラスケース内で、強面のボディガードを伴って鎮座している。


 生活用品としての魔石を買いに来た一般客と、高級な魔石を買い求めにきたVIPな客と入交、他店では味わえない独特な雰囲気を作り出している。


「イグナールも魔法の方は実戦で使うのは恐いし、剣の属性付与(エンチャント)を準備しておいたら?」

「あぁ、そうだな」


 モニカは魔石を手に取り品定めをしているイグナールの横顔を見つめる。


「どうしたのよ。いつもなら『俺は魔石なんかに頼らない』って言って出てっちゃうくせに」

「ん? あぁ……確かに今までの俺なら言ってたな。実際俺は魔石に頼って魔法を使うのはなんて言うか……自分に負けたような気がしてたんだよ」


 イグナールは過去の自分を思い出してシニカルに笑った。


「でも自分で魔法が使えるようになって気にならなくなった?」

「まぁそれもあるが。一番はディルクに置いて行かれたことだな。俺はもっと前からそんなちっぽけなプライドを捨てて、なりふり構っている暇なんてなかったんだ。俺は弱い……」


 イグナールの真剣な眼差しに優しい笑みを零しながらモニカは言う。


「イグナールは強いよ。そうやって前に進んでるんだから」


 二人はスライム討伐に向けて、いくつか安価な魔石を見繕い魔石店を後にした。


「ねぇ、イグナール。剣は新調しないの?」


 メインストリートを練り歩ている最中、モニカが武具店の方を見ながらそう言った。


「新しくしたいのは山々だが、今日中に依頼の達成が出来るとは限らないし、金には少し余裕を持たせておきたいしな」


 魔石店を出て向かいの武具店と金の入った袋を交互に見ながら悩むイグナール。


「見るだけでもいいんじゃない?」

「それもそうだな。見るだけならタダだ」


 そう言って二人は武具店に入り、すぐさま出てきた。


「さすがバージス。一番安いのでも手が届かないぜ……」

「まぁ場所が場所だしね。別のお店も見てみる?」

「いや、また依頼料が入ってから考えるよ」


 今まで行き過ぎた贅沢はしてこなかったにしろ、装備や準備には妥協していなかった。金がないとはこんなにも不自由なのかと痛感する二人であった。


◇◇◇


 依頼に書かれていたスライムの目撃情報のある場所へ移動中。


「スライム討伐の前に、俺に魔石の使い方を教えてくれないか?」

「うん、そうね。ちょっと待って――」


 一度立ち止まり、彼女は凶器のカバンから小さな蒼の魔石を取り出して、イグナールに手渡した。


「これで一回練習して見ようよ。目を瞑って集中して、それから魔石から魔力が流れてくるのを感じるの」


 イグナールは言われた通り視覚を遮断し、自分の体に集中する。


「魔石から魔力が流れ込むイメージか……」


 しかし、しばらくしてもイグナールに変化が訪れない。


「うーん、ダメだ」

「最初はそんなものよ。ちょっと手伝ってあげる。そのままでいてね」


 モニカはイグナールが魔石を握りしめている右手を手に取り、自身の魔力を流し込む。


「どんな感じ?」

「なんだか力が流れ込んで来て、自分の体が薄い膜に包まれてる感じがする」

「そうそう、その感覚。ちゃんと覚えておいてね。じゃぁ手を離すわよ」


 モニカが手を離してもイグナールはイメージを継続する。彼の体を淡い蒼色の魔力が巡っているのが感覚で視認できる。


「いい感じ! 今イグナール自身に属性付与(エンチャント)してる状態なの。どんな気分?」

「そうだな、なんだか温かくて守られてる様な感じだな。安心する」


 モニカは自身の魔力で武具に施すように、彼へと属性付与(エンチャント)したのだ。


 イグナールに感覚を掴ませる行為のため、明確な役割を持たない。それ故、彼が感じた温かく守られる感覚はモニカのイグナールへの思いが作用したとも言える。



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