act.4 これからの希望と問題
「なぁモニカ、もっと魔法の事について聞きたいんだが、俺の属性は結局何なんだ?」
「うーん、それはずっと考えてたのよね……さっきのはどう見ても雷。どう考えてもおかしい」
イグナールはモニカの言葉に大きく頷く。
「古い文献には雷魔法らしきものもあったらしいんだけど、今じゃ水と風の複合魔法じゃないかって言われてるわね」
「水魔法と、風魔法で嵐を創ったってことか?」
モニカは顎に手を当て首をひねる。
「そんなところじゃない? でも機械仕掛けの人形だとか、場所を瞬間的に移動する術だとか……書かれてることが荒唐無稽で、文献って言ってもすごく古い娯楽小説なんじゃないかと言われてるわね」
間を持たせるかのように、モニカはうーんと一度唸り続けた。
「私の勝手なイメージなんだけど、魔力と属性って水と絵具みたいなものだと思っているの。属性……絵具で水である魔力に色をつけるとその魔力の在り方が定義される。そこにイメージとして形と役割を与えてあげる……これが魔法」
「その考えだと俺が無属性ってのは単に絵具をもっていなかったってことか?」
「まぁ、私的にはね。それで昨日の雷が影響して、特別な絵具を得た……ってことかな? こんな特殊な事聞いたこともないから、私の憶測だけど……逆にそうとしか考えられないかな」
「つまり、前例が全くないから俺の魔法もわかんないってことなのか……」
両の手のひらを見つめながら深くため息をつくイグナール。
「確かに、わからないことだらけだけど打つ手がないわけじゃない……ないなら作ればいいのよ。新しい魔法を、ね!」
モニカは人差し指を口に当て、ウィンクして見せる。
「作る? そんな簡単に出来るものなのか?」
「さっき無詠唱の話をしたけど、魔法は結局のところはイメージなのよ――」
魔法と言うのは人の歴史の中で、日々進化し成長してきたもの。対象を排除するための攻撃魔法、身を守るための防御魔法、武具や体に属性を付与する補助魔法。魔物との戦い、他国との戦い、病気や怪我との戦い。様々な戦いで新しい魔法が生み出されてきた。
現代の人間の多くは、その先人達が築いてきた知識を借りているに過ぎない。
そうモニカは説明してくれた。
「魔法と言う鋳型に魔力を流し込み、形にする。これは誰でも簡単にある程度の魔法を使えるようにしたものなのよね。」
だけど、その鋳型を作るのは簡単な話ではないけどね。とモニカは続けた。
「でも他属性の魔法を模倣すれば、初級の攻撃魔法くらいはすぐ出来るんじゃないかな」
「そうか……それにはまず他の魔法について勉強する必要があるな」
「そうね。今すぐできるようなことじゃないし、一度バージスに戻らない? これからのことでいろいろと準備も必要だし……私お腹すいちゃった」
そうだな、とイグナールは返した。
二人はバージスに戻るべく、平原を歩き出す。
「み――みつけ――た」
「ん? モニカ何か言ったか?」
「え? 何も言ってないけど」
どうやらモニカには聞こえていないようだ。イグナールも聞こえたと言うよりも感じたと言うべきだろう。
そんな直感に近かった。
◇◇◇
バージスに戻り、食事をとったイグナールとモニカは小袋に入ったコインをを見て頭を抱えていた。
「少し心許ないな……」
ディルクは二人の帰路を考え、モニカに十分な路銀を持たせてくれていた。
だが、これはあくまで彼らが故郷に帰るためのものである。
性質上バージスは、武器防具の売買、モンスターの討伐依頼と素材の売買、そして各種サービスの異なる宿泊所と飯屋で経済が回っている。
魔王討伐の拠点で危険地帯であるバージスは討伐ギルドや商業ギルドの加入者も多く滞在しており、その多くが各人実力者でもある。
もちろん揃う武具も一級品ばかりで、宿屋や飯屋の類も全体的に質がいい。
つまり、バージスで留まるには帰路の路銀程度では全く足りないのだ。
既にイグナールの回復のため、宿での滞在費とそれに付随する食事代はコイン袋を十分に軽くしてくれた。
端的に言って金がいるのだ。イグナールとモニカの家は貴族であり、旅に出る際は十分な路銀を持たされてはいたが、それはもはや二年前……とうの昔に尽きている。
「これは早いとこギルド登録して依頼をこなさないと野宿のうえ、野草を貪ることになりそうだな」
「それはちょっと……ハハ」
言葉は控えめに軽い冗談を聞いたように微笑を浮かべるモニカ。
だが、その目は全くもって笑っていない。完全な拒絶の意志が体中からにじみ出ている。
豊かな国の裕福な貴族生まれのイグナールとモニカ。この二年間の旅は貴族としての暮らしに慣れた彼らとしては、我慢の連続だった。
長い道中に野宿を強いられることや、食料が底を尽き野生の動物や川の魚を口にしたことも何度かある。
初めは新鮮な環境を楽しんでいた二人だが、それが片手の指では数え切れない程度になったときには飽きと不便さと言う現実に辟易していた。
少しばかり慣れたとは言え、金の問題で目の前にやわらかなベッドと美味しい食事があると言うのを我慢しろと言うのは酷な話だ。
「これは死活問題だわ。せめて一日一食分と二人分の部屋を確保したいけど……あ、いやなんなら1人部屋でも全然、その……私は構わないこともないけど」
「野宿で一緒に寝たときはお前の寝相に苦労したからな出来るなら別室にしたいな」
真顔で言うイグナールに烈火の如く感情の炎を滾らせて睨み付けるモニカ。恥ずかしさと怒りが複雑に入り交じった表情を彼が察するのは難しい。
「うるさい!」
モニカが持っている皮製のカバンを横なぎに振り、イグナールの横っ面に迫る。それをいとも簡単に半身を捻って躱すイグナール。死角からの突発的な一撃だったものの難なくよけて見せる。
「そこは当たってよ!」
「俺だって伊達に勇者を師匠に修行してないんだ」
二年間で勇者を師として剣術を磨いたイグナールは、元々才能があったのか、みるみるうちに上達した。
だが、それだけではない。
彼は努力家でもあった。最強の魔法使いの間に生まれながらも周りの心無い者達に魔法の使えない無能と蔑まれた過去を糧に、剣術に打ち込んだ。
ディルクが隣にいると霞んでしまうかもしれないが、二年の歳月とイグナールのひたむきな努力を経て……彼自身、相当の実力者であることは間違いない。
ただそれは、あくまで剣術に限った話でしかない。
結果はこの通り。勇者ディルクからは認めてもらうことは出来なかった。いや、その才覚を認め、可能性を感じたからこその判断なのかもしれないが。
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