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act.32 実直

 その光景を目の当たりにした盗賊達は、蜘蛛の子を散らすように各々が走り出した。情けなく悲鳴を撒き散らしながら、生存本能の赴くままに森の中へと消えてゆく。あれだけの力の差を見せつけられたのだ。彼らの行動を情けないと、誰が揶揄することができるであろうか。


「ふむ、情けない限りじゃな。ん? そちらは奴らの仲間かえ?」


 ゴーレムに向きを変えさせ、イグナール一行に目をやる。あの圧倒的な力を見せつけたゴーレムと生みの親である彼女と対峙する。正面に立つ魔力を通わせた土塊のなんと威圧的なことであろうか。男を屠った一撃は強烈な印象を植え付けたが、それ以上に一人の魔法使いとして興味も湧く。


 土属性魔法のゴーレム生成は、その魔法使いのイメージで大きく形を変えるが、それよりも生まれ持ったセンスと練度、そして注ぎ込む魔力量がものを言う。


 どれだけゴーレムとのタイムラグを短縮できるか、どれだけ高度なルールで稼働させられるか、どれ程の量を生み出し操ることができるか。これは経験と練度、そしてもって生まれたセンスが大きい。


 そしてその耐久と物理的な単純な強さには、その魔力量が大きく関わってくる。どれだけ高密度の魔力で生成するかがゴーレムの強さに直結するのだ。


 彼女が生み出し、使役するゴーレムは膂力、速さ、強度のどれをとっても一級品と言えるだろう。イグナールと大きく年齢も変わらないように見える彼女がこれ程のゴーレムを生成できるのが興味深い。


 おいおい、忠告する相手を間違えてるぜ。


 イグナールは圧殺された盗賊の亡骸を見ながら先程の商人の男を思い出す。


「俺達は盗賊と無関係だ。逆に商人の男から君――」

「ヴィクトーリア・フォン・クレヴァリーじゃ。ヴィクトリアと呼んでくれても構わんよ」

「あ、ああ。俺はイグナール・フォン・バッハシュタイン。こっちは旅の仲間のモーニカ・フォン・ハイデンライヒとマキナだ」


 俺の紹介に頭を下げるモニカとマキナ。


「それで、ヴィクトリア。俺達もルイーネに向かう道中なんだが、それで、商人の男から、良ければ君をルイーネに送り届けてくれと頼まれたんだ」

「ふむ、アノおせっかい商人か。どうにも商人と言うのは腹に一物抱えた者ばかりで信用ならん。まぁ今度会う機会があったならその考えを改めようかのう」


 ヴィクトリアはゴーレムをただの道に戻した。まるでこの場ではなにも起こらなかったかのようだ。木にもたれ掛かる盗賊の死体を除けばであるが。


「そなたらの申し出、ありがたく受けよう」


 ヴィクトリアは金髪に映える青い目をこちらに向けて笑顔を見せた。しかし、それは見る人の幸福を運んでくるような純粋なものではない。まるでこちらの腹を探るような、圧倒的な強者からもたらされる余裕のある忠告のような……


 彼女は決してこちらに信頼を寄せているわけではない。ヴィクトリアが信じているのは己の強さだ。もしもイグナール一行が彼女に悪意で近付いてきた者ならば、アレと同じ目に合うだけだと言いたそうな、そんな含みを感じられる笑顔。


「あぁ、短い間だけどよろしく」


 イグナール一行からすれば心外だ。とんだ疑いを掛けられていることに違いないが、まだ話が出来る相手でよかった。問答無用であの土塊の暴君がこちらに向かわなくてよかったと今は安堵すべきである。


 ヴィクトリアが近づき、イグナールに手を差し出す。


「こちらこそ、良しなに」


 彼女の独特で古臭い言葉使いには少々困惑するが、ニュアンスからして友好的――イグナール達が不審な動きをしない限り――な『よろしく』と受け取り、ヴィクトリアの手を取るイグナール。


「出発の前に」


 ヴィクトリアは木にもたれ掛かる無残な死体を見た。


「小悪党に堕ちたと言っても、あのままでは浮かばれん」


 そう言いながら死体に近付き、しゃがんで地面に触れる。すると死体の真下――地面が沈み、盗賊の男だったものが呑み込まれた。


「大地から生まれたのなら、最後は大地に返すのが道理じゃ」


 ヴィクトリアがゆっくりと立ち上がりイグナール達の方に向き直る。


「それでは先を行こうかのう」


 そういうとすたすたと先を歩き出した。林道を大きく外れて森の中へだ。


「ちょ、ちょっと! ヴィクトリア!」


 ヴィクトリアの行動に呆然とするイグナール。ただ無表情で彼女の動きを観察していたマキナの代わりにモニカがヴィクトリアを制止する。


「なんじゃ? んーモニカと申したか。ルイーネはこちらじゃろう?」


 林道を外れ、森の中へ入っていこうとしているヴィクトリアから冗談の気配はない。彼女の確信に似た自信はどこからくるのであろうか。まさかこれが……


「もしかしてヴィクトリアは方向音痴ってやつなのか?」

「ふむ、たまにそう言った心無い中傷を言われることはあるのじゃが……方角はあっておるはずじゃ」


 モニカはカバンからコンパスを取り出し、ルイーネの方角を確認する。


「た、確かにあってるけど……」


 ヴィクトリアの言う通り方角はあっているらしい。その時、直線距離を素直に突き進むマキナを思い出したイグナールであった。


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