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act.3 覚醒の紫電


「さすがの私も別属性魔法についてはよくわからないわ。

 まぁでも取りあえず、単純な属性魔力の放出を試してみましょう。魔力が手のひらから流れ出るイメージを浮かべてみて」


 イグナールはモニカの言う通りにイメージを開始する。しかし、すぐ疑問が浮かび、それをモニカ先生に尋ねてみることにした。


「詠唱とか魔法名はいらないのか?」

「それはイメージを補助するためにあるものだからね。

 自分の力の形や効果を明確にして効率よく魔法を行使するためのものなのよ。

 だから反復練習で頭にイメージを定着させれば、無詠唱で魔法を使うことも難しくないし、逆に詠唱で気持ちを高ぶらせて威力を底上げしたり、精度を上げる人もいるわ。

 そもそも、イグナールの属性がなんなのかがわからないしね……」


 イグナールはそうかと呟きながら目を閉じイメージを膨らませる。

 それと同時にゆっくりと右手を何もない平地へと向ける。


 イグナールの中で雷に打たれたときの記憶が鮮明に蘇った。自分に特大の雷が落ちる。そして自ら噴出するような感覚。


「あ、明確なイメージなしに力を垂れ流しにすると、暴走する危険があるから少しづつ流れ出るような――」


 モニカが助言を言い終わる前に、イグナールの右手から轟音と共に閃光が飛び出す。


 極大の太さの紫を纏って雷が、並び立つものが無いほどの速さで地を抉り突き進む。

 それは辺りを蹂躙して道となった。


 巨大な蛇が這いずったような痕跡を目の当たりにし、それを放った本人であるイグナールとモニカは、ポカンと間抜け面を晒していた。


 間違ってもバージスの方向へと放っていれば大参事は免れなかったであろう。


「ちょ、ちょっとイグナール! 貴方どんな強いイメージで放ったの!」

「いや、えっと……」


 先程のはただの想像と言うよりも、あの日の夜の再現のようでもあった。


 こんな威力……普通個人が出せるような出力ではない。間違いなく対城レベルの破壊力だ。


 数人程魔法使いが集ってようやく放てるかどうか……


 それでも、魔力切れで何人かはしばらくの間使い物にならないだろう。しかし、あれだけの魔力を放った後だと言うのにイグナールは平然としている。


 魔力切れどころか、疲れた様子はない。

 そんな彼をモニカは目を見開き見つめていた。


「それにしても今のは……雷? まさか雷に打たれた影響? それにしても――」


 モニカは手を顎に当てて、ブツブツと呟きながら考え込んでいる。イグナール自身も今起きたことに考えが全く追いついていない。

 しかし、そんな思考を置き去りにするように、心だけが逸っていた。


「なぁモニカ……これで俺も魔界で戦えるか?」


 イグナールは両の手のひらを見つめ、嬉しさに体を震わせながらモニカに問う。


「……これだけの魔法を使いこなすことが出来たらね。兎に角、今はわからないことだらけだからいろいろ整理してみましょう」


 彼女の提案に渋い顔を見せるイグナール。


「でも、今出発すればディルク達に追いつけるかもしれな――」

「ダーメ! そもそもイグナールは雷の魔法なんて聞いたことあるの?」


 モニカは興奮状態のイグナールを嗜めるように、彼の言葉を止める。


「え? いや……聞いたこともないな」


 イグナールは彼女の言葉に今ここで起きた事の重大さに気が付いた。

 威力は確かに比類なき程に、道となってまざまざと見せつけられた。


 だが、魔界と言うのはそんな甘い場所ではない。


 今までイグナールとモニカは二年間の旅で強くなった。イグナールは新しい力を身につけた。

 しかし、その力の事もろくに知らず、あまつさえ、大した準備もせず魔界へと進むのは危険だ。


「焦る気持ちはわかる。けど準備も必要だし、私たち二人だけじゃ厳しいわ」


 モニカは諭すように彼の目を見つめ、ゆっくりと話した。興奮状態から戻りつつあるイグナールは冷静さを取り戻す。


「そうだな」

「それにギルドの認定も受けなきゃいけないしね」


 モニカが言っているのは討伐ギルドのことである。


 魔王討伐の大義のもと、多くの人間が魔界へと乗り込んだ。そして、その大多数が帰らぬ人となった。


 それでも身の程知らずのならず者は後を絶たず、無謀と勇気をはき違えた愚か者が、勇み足にならぬようにと設立されたのが討伐ギルドである。


「ディルクみたいな勇者じゃない私たちは、ギルドの依頼をこなして魔界で戦える証を立てないと」


 ギルドでは魔王出現に伴う魔物の異常繁殖や凶暴化で起こる問題の依頼を受け付けている。魔王討伐を目指した人材育成と、ギルドの運営資金の調達。

 そして依頼報酬と言う形で、旅の装備や路銀を支給するのだ。


 ギルドの設立以降、身に余る蛮行で死亡する者は減少し、魔物に困らされる町々も少なくなった。


 そんな組織の中でも勇者は特別だ。


 一国がその強さを認め、国の威信を示すために送り出される特別な人間。それが勇者である。


 そして勇者は、個人の裁量が討伐ギルドの認定と同程度の価値を同行者に付与する権利を持つ。

 つまり勇者が認め、同行を許可すれば魔界へと乗り込むことが許されるのだ。


 ディルクさえ許せば、今頃はイグナールとモニカも魔界の只中であっただろう。


「ディルクはすぐに魔王討伐に出向くことが出来たんだ……でも俺の成長を二年も待ってくれた。だけど俺はその期待に応えることが出来なかった……」


「あまり気に病まないで」


「俺に期待して勇者パーティに迎え入れてくれたこと、魔法が使えない俺に剣術を教えてくれたこと、そして俺の身を案じて置いていったこと……俺はまだディルクに何も返していない……だから、俺は強くなる!」


「そうやって常に上を向いて走り出していけるイグナールのこと、私好きよ――ち、ちが! そういうのじゃなくて! 仲間として頼りにしてるって意味で……特別な意味なんてこれっぽっちも……ないこともないけど……」


 モニカは大きく手を振り、顏を赤らめる。

 モニカの声はだんだんと萎んでいき、最後はなんて言ったのかは聞こえなかった。しかし、これは彼女からの一種の好意なのだと受け取る。


「俺だってモニカのことは好きだ!」


 気持ちを込め、イグナールはモニカにはっきりとした口調でそう言った。

 モニカは打ち上げられ、酸欠状態の魚のように口をパクパクとしながら顔をより紅潮させる。


「ディルク、それにデボラも、俺のかけがえのない仲間だ。魔界に連れて行ってもらえなかったのは悔しいけど、それもディルクが俺を大事に思ってくれての決断だったって、今じゃちゃんとわかっている」


 モニカの気持ちに真摯に答えたはずなのだが、なぜか彼女は半目で睨み付ける。


「あ、うん……そうよね。よろしくね」


 イグナールはなぜか、彼女の言葉に冬のような寒さと、触れる者全てを傷つける棘を感じた。


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