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act.27 揺れる思い

「ん? 待てよ」


 魔力の放出を始めて数秒、イグナールは一つの疑問――いや、問題点に気がついた。


「魔力を充填するのはいいんだが、それで守護者(ガーディアン)がまた動き出したりしないのか?」


 マキナの話では、研究所のエネルギー不足により一部の守護者が起動していないとのことだった。探索中に見た倉庫には、まだ十数体の銀狼型守護者が保管されていたのを思い出す。


 守護者たちは、施設内を縦横無尽に駆け巡り、侵入者を排除する四足歩行の獣。先の戦いでは、マキナの機転で広い実験場で対峙できたため、なんとか対処できた。しかし、狭い廊下で再び彼らと相対するとなれば、こちらに圧倒的不利だ。


「問題ありません。侵入者アラートは解除しています」

「そうか。それなら安心だな」


 余計な心配だったが、もっと早く気づいて対処すべきだったと反省する。戦いの高揚感が抜け切らず、危機意識が少し薄れていたのだ。


◇◇◇


「はぁ……」


 イグナールとマキナの帰りを待つモーニカ・フォン・ハイデンライヒは深い溜息をついた。先の戦闘で背中に立派な勲章を背負い、それがキチンと治るか否かを悩んでいる。


 わけではない。


 モニカの回復水魔法は優秀である。即効性はないが、明日には傷跡なく完治するだろう。


 溜息に込めたのは、自分の空回りに対する苛立ちだ。


 イグナールに良いところを見せようと焦りすぎた結果、研究所の入口を破壊し、施設内の扉も壊してしまった。それが原因で余計な戦闘を招いたのだ。


 その戦いで負った傷を口実に、イグナールと距離を縮めようとしたが、うまくいかなかった。彼の中での自分は、ただの幼馴染兼仲間に過ぎない。この立場からどう脱却するかが今の最大の課題なのだが、どうにも難しい。


「こんなの、どんな魔導書を読むよりも難しいよ……」


 一人、研究所の廊下で愚痴を漏らす。彼女の焦りの一因は、マキナの存在だ。


 戦闘人形を自称するマキナはあまりにも人間らしく、さらにイグナールとのあの「キスシーン」が鮮明に頭に焼き付いている。マキナにとってはただの業務上の行動だったのだろうが、イグナールには刺激が強すぎたに違いない。


 しかも、マキナには「男女の営みをする機能」まで備わっているという。これは由々しき事態だ。イグナールが欲望を抑えきれず、マキナと行為に及ぶ可能性も否定できない。


 思春期真っただ中の男子なんてものは亜人であろうが、魔物であろうが、スライムであろうとも欲求のはけ口を求めていると、以前旅を共にしたデボラ・イッテンバッハの言葉が頭をよぎる。


「あのデボラが言っていたんだから、きっと間違いない……」


 彼女が語った男子の生態、特に思春期の男子が求める欲望の対象に亜人や魔物、果てはスライムまで含まれるという話は、いまだにモーニカの心に引っかかっている。


 だが、モーニカの悩みはそれだけではない。イグナールの「覚醒」――今まで例を見ない特殊なケース――が最大の懸念だ。彼の膨大な魔力は確認されているものの、属性が発現していない。


 選ばれし勇者ディルク・バーデンから直接剣術を学び、イグナールは相応の実力を身につけた。


 彼は確かに強くなった。


 しかしそれは魔法を抜きにした人間基準での話だ。バージス付近に現れる、上級の魔物どころか、中級の魔物にも太刀打ち出来ない。


 純粋な身体能力や近接戦闘ではイグナールの方が優れているが、魔法の面ではモーニカには遠く及ばない。


 もちろん、彼を貶したいわけではない。むしろ、彼のひたむきな努力には強く惹かれる。


「いやもう、好き」


 そう、いつの間にか彼のすべてが気になり始めていた。守るべき対象だった彼が、旅の途中でどんどん魅力的に見えてきたのだ。


 いや、それよりもっと前……彼と初めて会ったその時から……魔法に打ち込み、恋など愛などを意識する時間すらなかったモニカ。


 だが、胸の中で大きくなりつつ感情についてデボラに相談したとき、彼女はこう断言した。「モニカちゃん、それは完全に恋よ」と、それ以来モニカの中でイグナールを見る目が変わり、熱を帯びていった。


 ディルクとの稽古に打ち込むイグナール。自分よりも強い魔物に必死に立ち向かうイグナール。いつまでも属性が発現しないことに焦りながらも、それを表に出さないよう努めるイグナール。


 彼のその姿に、モニカはますます惹かれていく。


「いやもう、大好き」


 二年間の旅でイグナールは確かに強くなった。だがそれも魔法を抜きにした場合の話であり、到底魔界で通じるようなものではない。


 彼の頑張りをずっと見ていたディルクは属性の発現を期待し、イグナールを魔界に連れて行くつもりだった。


 だが、モニカはそんな危険なところへ彼を行かせることに断固反対した。


 人間界で遭遇する戦いならば、モニカが守ればいい。それに人間でも屈指の強さを誇る魔法剣士、勇者ディルクと自然災害の二つ名を持ち、最高峰と謳われる風属性魔法使いデボラがいるのだ、敗北はありえない。


 だが、魔界と言う未知の領域ではどうだろうか?


 彼らが勝てない魔物に遭遇したならば、勿論モニカも彼を守ることは出来ない。二年もの間良くしてくれた彼らにも、イグナールにも悪いが、魔界への同行は断念して貰った。


 こんな事がイグナールにばれたら嫌われちゃうかな?

 あんなに落ち込んでたもんね……


 だが、彼女の心配事はそう言ったことではない。


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