act.26 人工結晶に宿る力
マキナの提案とは研究所のエネルギーを補給することにより、この施設の秘匿性機能を継続させると言うものであった。それを行わずここを後にした場合、近日中にはバージスの人間に発見されるであろう。
そうなった場合、今だに当時の名残を残した非常に貴重な遺跡としておいそれと立ち入りが出来なくなる可能性がある。発見されずとも、魔物が迷い込んで巣にしてしますかもしれない。
再度訪れることを視野に入れるならば、避けたい事態ばかりだ。であるなら、イグナールとしてもこの研究所の糧として魔力を供給することに反対はない。
「ああ、そうしよう」
イグナールはマキナの提案に快諾を示す。
マキナがどうしてこの施設に保管されていたのかはわからないが、この場所は彼女にとって「家」にあたるのではないかと思えた。感情を見えない彼女だが、どこかでこの施設を大切に思っているのかもしれない。
マキナとしては主人となったイグナールにとって、将来的に利益をもたらす計算の上での提案であることは間違いない。
だが、彼女が口に出さないだけでこの研究所を大事にしたいと言う思いを秘めている。
そんな空想がよぎるほどには、彼女が人間である可能性を捨てていない。
「それじゃ行こう」
エネルギーの補給場所。
マキナがこの研究所の「動力室」と呼んで紹介してくれた部屋へ向かう。
動力室は他の部屋とは違った異質な空気が流れる場所だった。
全ての部屋を凹凸が極限までに無くしたような部屋に対し、動力室はもはや凸凹の迷路。隠すべきものを隠していない。他の部屋が秩序であるならばまさに混沌。
だが、そんな管や紐らしきものが乱雑に見え隠れする部屋にイグナールは少し興奮を覚えていた。決していやらしい方面の感情ではない。少年が未知に触れワクワクするような感情だ。
そんな高ぶった素直な気持ちを吐露しようとした寸前、モニカが怪訝そうな顔で「気持ち悪い」と言った。イグナールは今の自分を見て出た言葉かと思い狼狽するもそれは全くの勘違いであった。
モニカ曰く、まるで「何百匹のワームの群れの中にいるようで落ち着かない」と言うことである。そんな彼女の前で童心を露わにし、はしゃがなくてよかったと、イグナールは焦りの汗を額から流しつつ頷いていた。
「俺達が用事を済ませるまでモニカはここで待っていてくれ」
マキナを先頭に動力室へと足を踏み入れる。モニカには非常に不評であった動力室ではあるが、イグナール個人としてはこのごちゃごちゃした感じにロマンに似た何かを感じざるを得ない。
こんな事を口に出した場合、考えられるモニカの反応はこれだから男の子は……か、言葉なしに身心共に距離を置かれるかだろう。
縦横無尽に広がる管をワームと表現したモニカ。それを見てロマンと口走るイグナール。あらぬ趣味の疑いを掛けられてはこれからの友人関係にヒビを入れかねない。
そんなことを知ってか知らずか、遅々として進まないイグナールの歩に合わせてマキナが歩く。彼女は一切後ろを振り返る事なくスピードを合わせてくる。後ろに目があるのではないだろうか? と疑う程だ。
そして、ある程度堪能して満足したイグナールが前を向くとマキナがこちらを向いて待っている。彼女の背後に大きな箱が見える。
「マスターこちらでございます」
イグナールが側までやってくると、その箱に取り付けられている突起を迷いなく、軽やかに押し込んでいく。
ピー!
けたたましい警戒音とは正反対な静かな音と共に箱が開く。イグナールは興味津々でのぞき込む。
「なんだ……これ……」
そこには眩い程に輝く宝石が一つ鎮座していた。イグナ―ルの目から見てもそれは宝石だとわかるのだが、彼が驚いたのはそのサイズだ。
見た目は宝石でも、その巨大差がそれを光る岩なのではないかと誤認させる。
「こんな巨大な宝石は初めて見た」
今だ訪れたことのない国には、巨大な宝石を神体として崇めているところもあるとモニカから聞いたことがある。それがどれ程の物かはわからないが、その神体に匹敵するほどの代物ではないだろうか。
しかし、巨大さに面食らったもののこの宝石からは神々しさは感じない。宝石が持つ独特の魅力を発していない。
そう言った知識に乏しいイグナールではあるが、直感的にこれが宝石であることにふつふつと疑問が湧いてきた。
「なんか違うな……」
その疑問が言葉になって吐き出される。
「これは魔力を大量に貯蔵するための人工結晶でございます」
自然の神秘である宝石の真逆、人の技術の粋で生みだされた、まさに努力の結晶。イグナールが抱いた違和感の正体はそう言う事なのだろう。
「ではこちらに触れて頂き、魔力の放出をお願い致します」
マキナに促されるまま、人工結晶に触れ――
「『我に眠りし力よ、我が意思に従え』」
己の中にある魔の力を呼び起こし、放出を開始した。
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