act.25 オレイカルコスの槍
「これはどんな金属でできているんだ?」
イグナールは金属の知識に精通しているわけではないが、この槍が現代の武器に使われるものでないことは一目でわかった。
なぜなら、人が扱うにはあまりにも重すぎるのだ。
槍の全長はおよそ二メートル。形状は投げ槍として使われるジャベリンに似た無骨な意匠だ。
まさか、この重さの武器を投擲するわけではないだろうが……マキナの力を考えると、あり得ないとは言えない戦法だ。
もしそんなことが可能なら、まるで鋭利な大砲だろう。
「とんでもない重さだが……なんの金属でできているんだ?」
「オレイカルコスでございます」
「聞いたことないな……」
「加工しやすくしたオリハルコンの模造品です」
「オリハルコン? すごい!」
興味なさげにこちらを観察していたモニカがいきなり割ってはいってくる。彼女は武器には興味を示さないが、オリハルコン――いや、マキナ曰くオレイカルコス――には興味を惹かれたらしい。
「模造品とはいえ、本物と遜色ない品質かと思います」
「どうやって加工したの?」
「申し訳ございません、私にはわかりかねます」
「そっかぁ、残念」
オリハルコンはこの世で最も硬く、腐食などの劣化もしないと言われる。
それでいて繊細で、加工が極めて難しい。特別な熱処理を施すことでさらに強度を高められるが、炎の魔法と鍛冶の技術が優れた者でなければ、まともに扱えない代物だ。
世界に一つとは言わないが、非常に希少であり、職人を育てるために消費できるほどの量は存在しない。
古代の遺跡で発見されるオリハルコンを再利用し、武器や道具に転化するのが一般的だと聞く。しかし、マキナの話を聞く限り、現代に流通している多くのものが、かつて生み出されたオレイカルコスである可能性が高い。
このような技術を持っていたのなら、オリハルコンの模造品を生み出し、武器として量産するのも不可能ではなかったのだろう。
マキナにしろ、この研究所にしろ、先に出会った守護者にしろ、それを裏付けるような高度な技術を目の当たりにしてきた。
「それにしても、重すぎるな。もしオレイカルコス製の剣があっても、俺には扱えないだろうな」
両手でようやく支えられるほどの重さだ。この武器を振るうことは、体を壊しかねない――自傷行為に等しい。やはり、この槍はマキナのようなオートマトン専用の武器だろう。
イグナールは黒い槍をマキナに返した。彼女は片手で軽々と持ち上げた。その瞬間、踏ん張っていた力が行き場を失い、倒れそうになったが、何とか踏みとどまった。
「マキナ、他に有用なアイテムはないか?」
彼女の武器だけが置かれた寂しい武器庫を後にし尋ねる。あの武器を量産できる技術を持った人々ならば他にも魔王討伐のために作成されたアイテムなどが存在するかもしれない。
ただ情報を探しに来ただけであったが、彼らの技術を目の当たりにすると他の物を期待してしまい、古くも新しい物との出会いは心躍る。
これが遺跡の研究を進める人々の気持ちなのだろうか。
「この武器庫を見る限り、他のオートマトンは全て出撃しているようです。あまり期待できませんが、探す価値はあるかと」
完全に脅威が去ったとは言えないので、三人で研究所内を探索する。モニカを気遣い、休憩を挟みながら進んだが、彼女は思ったよりも元気だった。負傷したことよりも。不用意な自分が招いた不用意な戦闘に気を病んでいたのかもしれない。
一通り探索を終えたが、目ぼしいものは見当たらなかった。
「それじゃあ、バージスに戻ろうか」
「マスター、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
最後の部屋を出た頃、マキナがイグナールを呼び止める。
無表情かつ、淡々とした彼女の言葉に。お願いを聞いて欲しいと言うような気持ちはこもっていないが、それが戦闘用オートマトンとしての彼女の個性だと、イグナールは次第に理解し始めていた。
「ああ、俺ができる範囲で――内容を聞いてからでいいか?」
モニカへの軽率な発言――「俺にできることなら何でもする」――を思い出し、少し躊躇したが、今回は慎重に返答することにした。過激な補給を要求されると困るからだ。
「この研究所に、マスターの魔力を注いでほしいのです」
エネルギー不足で喘ぐ研究所。守護者たちの重要なエネルギーまで維持運用に回さざるを得ない状況だった。そういえば、マキナがイグナールを追ってきたのもエネルギーを得るためだったことを彼は思い出した。
「そうか、情報があるって言うからすっかり忘れていたな」
「私は戦闘用オートマトンですので、この研究所の維持には直接関係ありません。マスターを得た私には、ここを守る義務もありません。ですが――」
マキナの言葉にはまだ続きがある。
「ここには、マスターにとって重要な情報が保管されています。今後、他の施設を訪れる際にアクセスが可能になるかもしれません。エネルギーを供給しておく価値はあるかと存じます」
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