act.22 封じられた情報
「えっと……降りようか? ごめんね、イグナールも疲れてるのに無理言って……」
モニカはイグナールの異変に気づき、申し訳なさそうに声をかけた。
「いや、大丈夫だ! 男に二言はない。ちょっと緊張が解けて力が抜けただけだから」
決して名残惜しいわけではない。モニカを背負うと決めた以上、責任を全うしなければならない。
ただ、それだけだ――断じてやましい気持ちではない。イグナールはそう自分に言い聞かせ、再びしっかりとモニカを支え直した。
「マキナ、もう守護者に襲われる心配はないんだよな?」
「はい、現在周囲の動きはありません」
「そうか、俺達にとっては幸いだが魔界を目の前にした重要施設にしては……その……」
「拍子抜けでしょうか?」
彼女にとってこの施設をどう思うかを考え、言葉を選んでいる最中に図星を突かれてしまった。
「あ、ああ……」
「この研究所には身を隠すための魔法が幾重にも張り巡らされておりました。今までその魔力を守護者から補っていたのです。ですので、出撃できず眠っている機体も多く、少数になったのです」
確かに現在に至るまでこの研究所は現代の人間の目から完全に隠れていた。地下だからという理由だけではなかったのだ。現代でも一定の空間に立ち寄らせないよう意識を逸らす魔法や物理的に侵入ができないよう壁を作る魔法がある。恐らく、この研究所に施されているのは前者に似た魔法だろう。
彼女の案内が無ければ辿り着けない……マキナは必要最低限以外のことはあまり語らない。もしかすると道なき道を辿って森を歩いたのはその魔法に関係があるのかもしれない。
「どっちにしろこっちは助かったわけだがな。マキナ、改めて案内を頼む」
「承知致しました」
モニカを背負ったまま、イグナールはマキナの後を追う。赤い照明に照らされた廊下を進むが、警報音も明滅する光もない。ただ静かに赤に染まる空間が広がっている。かつてここで銀狼と対峙したことを思い出し、ゾッとする。
「ここか……」
スライムもとい、モニカをおぶる俺の前を歩き始める。広い実験場の扉を抜けると今だ赤く点灯している廊下にでる。警戒音も明滅もなく、ただ赤に染まった廊下を戻る。少々目に痛い光景ではあるものの、安全が保障されている道ならば文句もない。
人がすれ違う程度の幅しかない廊下。こんなところで先の銀狼と対峙していたと考えると恐ろしい。マキナの判断と案内に救われたとイグナールは思った。
しばらく歩くとあの部屋に辿り着いた。モニカが魔法で扉を破壊し、事の発端となった部屋だ。マキナがいうにはこの部屋に研究所の記録が保管されているらしい。マキナを先頭に一行がその部屋に踏み入る。
「マキナ、本当にここが情報の保管場所なのか?」
イグナールはモニカを下ろし、周囲を見渡した。
情報を得るための場所と聞いていたので巨大な書庫を想像していた。しかし、この部屋にはそういった書物の影はない。物を置くスペースがほとんどない、奇抜な形の机だけが並べられているだけに見える。
「はい、間違いございません。ただいまアーカイブを参照いたします」
マキナは手近にあった歪な机に手を伸ばす。すると机の上に出っ張った箱のような部分が黒から白に変わり、文字が浮かび上がる。
「それは見たものを記録するアーティファクトなのか?」
記憶を魔力と共に宝石に閉じ込め、記録する類の魔法。それと似たような役割を果たすアーティファクトがあると聞いたことがある。
「いえ、これは記録を参照する道具でございます。用途としましては劣化しづらい書物とお考え頂ければと思います」
「なるほど」
イグナールはあまり興味を示さなかったが、モニカはその仕組みに興味深そうに観察していた。
「お探しの情報は、雷魔法に関するものですね?」
「そうだ。どんな些細なことでもいい。手掛かりになるのなら大歓迎だ」
マキナが机の突起を操作し、次々と浮かび上がる文字を確認していく。
すると突然、白く光っていた部分が赤に変わり、警告音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
イグナールとモニカは即座に警戒態勢を取る。この音には聞き覚えがあった。先ほどモニカが扉を破壊した際と同じ音だ。イグナールは腰に手をかけ、剣を引き抜く準備を整えた。
「申し訳ございません」
「どうした、マキナ! 何か問題が起きたのか?」
なんの問題もないよ言うような無表情をイグナールに向け、マキナが口を開く。
「どうやら私には、この情報へのアクセス権限がないようです」
少しの間、イグナールはマキナの言葉を咀嚼してみるも、よくわからなかった。
「それは……どういうことだ?」
「つまり――」
そこにモニカが割って入って来た。
「マキナにはこの情報を見る権利がないってことじゃない? 魔法限らず貴重な文献って、閲覧制限が設けられることも多いよね」
「モニカ様のおっしゃる通りです。お手数をおかけして申し訳ございません」
感情のこもらない声で淡々と詫びるマキナ。彼女に罪はないが、イグナールは落胆の色を隠せなかった。
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