act.18 生き物と作り物
三体の獣を模した金属の塊がイグナール、モニカ、マキナそれぞれに襲いかかる。
イグナールは紫電を纏った剣を握り直し、銀狼の強襲に備える。
モニカは大丈夫だろう。
確かに彼女が初手に放った水弾は奴らにとって大きなダメージにはならなかった。しかし防御に重きを置いた彼女の布陣を破るのは、容易いことではない。
ならばマキナ……武器らしい武器もなく、彼女の実力は未知数。初見時の動きは追えるものではなかったものの、それだけしか知らない。
イグナールは信頼しているモニカよりも先にマキナの助けを優先することを決めた。
だが、それもまずはイグナール自身が迫る守護者を捌かなければならない。
自嘲気味に笑い、こちらに飛び込んでくる銀狼を見やる。基本的な動きは狼型の魔物と大きく変わらない。水弾では大したダメージを与えることができなかったようだが、斬撃はどうだ。
銀狼達の正確な動きを見る限り、銀狼の着地位置は寸分違わずイグナールがいるところだろう。
イグナールは剣を振り上げ、そのまま大きく前進し、銀狼の通り道に紫色の雷光をまき散らす刃が置いて、出迎える。
最小限の動きで、相手の進む力を利用する。
一対多になりやすい魔物との戦闘において、スタミナの消費を抑えつつ戦うことはなによりも重要となる。
勇者ディルク直伝の多くの敵を相手取るための心得だ。
見上げ、頭上を通り過ぎる銀狼の経過を観察するイグナール。
刃と顏の部分が接触した瞬間、イグナールは剣に力を込めて斬撃の衝撃に備えた。
しかし、手ごたえが伝わってこない。
今まさに、銀色の体に刃が通っていく。それでも、吹き抜ける風程に手に伝わってくる感触がない。
イグナールが数瞬の間呆然としている間に、飛び掛かって来た銀狼は頭の先から尻尾の先まで綺麗に二つに分かれた。
断面からは、銀色の体からは想像できないくらい色とりどりの金属が見える。しかし、イグナールにはそれが何であるのかはわからない。ただ、奴らが生きた物ではないことがはっきりとした。
それだけだ。
左右に分かれた銀狼は、光沢を放つ床にドシャリと音を立て転がった。もちろん反撃の様子も、動き出す気配もない。
「なんて切れ味だ……」
ぶっつけ本番でやってのけた剣への属性付与は、イグナール本人も唖然とするほどの驚異的な切れ味を披露した。
「戦える……この力があれば!」
己が学んだ二年間とこの紫電の力があるならば。もっと高みを目指せる。憧れた背中を追うだけではない。その肩に並ぶことさえできる。イグナールはそう確信した。
イグナールはマキナの方に顔を向ける。無事でいてくれと願い彼女の様子を伺う。
「なっ……!」
マキナは自身に襲い掛かった銀狼の首を掴み、天高く振り上げている最中であった。それを勢いよく床に叩きつける。自ら頑丈だと言い放った実験室の床に大きな窪みを作った。
その人ならざる膂力は彼女が銀の狼同様、造り物の人形であることを如実に、雄弁に語っていた。
マキナの行動と膂力に驚きを隠せないイグナールは、しばらく彼女の姿に釘付けになっていた。
「きゃあ!」
やや真ん中後方で控えていたモニカの目も前まで銀狼が肉薄していた。
牙と爪を鋭く突き立て、彼女に襲い掛かっている。
モニカは魔力で生成した水槍で何とか凌いでいる状況だ。水弾は何発か残ってはいるが、いかんせん敵との距離が近い。
いくら魔力で身体強化を施しているといっても、単純な力の差で、彼女は徐々に床を滑るように後退している。
モニカは大丈夫だと思っていた……
彼女の守りならば問題ないと。
しかし、彼女の水弾を使った攻撃は唯一奴らに見られている。それを学習し、見切り、モニカの最も苦手とする間合いへと迫ったとしたら……
イグナールは数秒前の自分を殴りつけたいと思った。何が強くなったと言うのだ。大切な仲間を守れないで何の強さだと言うのか!
彼は自分を叱責しながらモニカの元へと駆けだす。
「モニカ!」
「イグナール!」
モニカはイグナールの駆け付ける姿を見て、表情を変える。苦しそうに歪んでいた顏が覚悟の顔へと変化する。
「アクアボール!」
彼女は漂っている水弾の一つを飛ばし、水槍に喰らいつき離さない銀狼の横っ面を殴りつける。
驚異の魔法制御である。
イグナールは水弾によって飛ばされるも、すかさず態勢を整えモニカに飛び掛かろうとする銀狼に切りかかる。
しかし、奴の死角と思われた攻撃は容易く躱されるる。一撃必殺の剣も、当たらばければただの棒切れと同じだ。
「大丈夫かモニカ」
「う、うん。ありがとうイグナール」
イグナールはモニカの前に立ち、銀狼に立ちはだかった。
奴らは生き物ではない。
先程銀狼の中を垣間見たイグナールは嫌でも思い知ったことだが、今だ理解はできていないようだ。
イグナールの放った死角からの攻撃を軽々しく避けた。
まるで見えていたようだった……しかし、モニカの放った横っ面を殴る水弾は避けてはいなかった。あれこそ視界の端には見えていたはずだ。
正面の一体にも意識を裂きながら、辺りを確認する。マキナが掴み、床に叩きつけていた一体は手足が無残にも折れ、生き物とはまた違ったグロテスクな内部が露出している。
後ろに控えていた四匹は……
「いない⁉」
イグナールは動揺で、目の前の一体の存在を忘れ辺りを見渡す。
「危ない!」
モニカの声と共にイグナールは横からの衝撃を感じた。スライドしながら振り向くと後先を考えず、イグナールへと突っ込むように突き飛ばしたモニカと、必死な様子の表情が見えた。
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