act.14 獣道?
「それで今後の方針なんだが、取りあえず封書を確認してみよう」
中には彼女の知り合いである古代魔法の研究者の居場所の地図と紹介状が入っているはずだ。
モニカがカバンを漁り、封書を取り出す。
そして封蝋を切って中身を確認している。
「うーん、ルイーネかぁ」
「ルイーネって確かまだ解明されていない遺跡があるところだよな」
「そうね、作りも頑丈で入り口は閉じたままだからなんの調査もされてないのよね」
バージスからルイーネは途中にある町を経由していくならば、人の脚で約五日の旅だろう。
「マキナがいう研究所はここから近いのか?」
「はい、平原近くの森の中でございます」
「そんなに近いのか……何故今まで発見されなかったんだ……」
「この付近は魔界と隣接しておりますので、魔王軍から発見されぬよう地の下に建設されており、入り口には特別な認証が必要となっております。それが今まで発見に至らなかった要因かと推測致します」
古代技術で作られ、隠した重要拠点。それが今までに発見されなかった理由ではないかとマキナは言う。
「なら先にマキナの言う研究所だな。その後ルイーネへの旅支度を整えよう」
「そうね、少し遠回りになっちゃうけど……」
モニカがイグナールの顔を心配そうに観察している。それに気が付いたイグナールは表情を和らげ彼女の目を見て言う。
「大丈夫だモニカ。焦っても何もならない。今は自分のことを知って、強くなる。ちゃんとディルクと肩を並べられるくらいに」
イグナールの言葉に安心したのか、モニカは彼に笑顔を返した。
「さぁ飯を食ったら、風呂だったな」
◇◇◇
食事を終えた後、モニカの要望通り大衆浴場に寄る。
イグナールもモニカも、貴族の出のため屋敷に浴室と呼べるものがあった。
だが旅の中で浴室着きの宿泊施設は少ないことを経験した。人の行き来の多いバージスにはそう言った宿屋もあるが、今の彼らには高級品であり、一泊でも今の路銀では足りないくらいに高価だ。
イグナールとしては水と布で体を拭くぐらいで十分なのだが、モニカはそうもいかないらしい。
野宿の鬱憤を晴らすように、長湯をしていたモニカがようやく出てきた。上った太陽と同じような晴れやかな表情を浮かべた彼女は上機嫌である。
そんな彼女を連れてイグナールは早速バージスを出た。
向かう先は平原の先にある森の中だ。しばらく歩いてからイグナールは一つの疑問を口にした。
「なぁマキナ」
「はい」
「今までマキナがいた研究所はどういう状況だったんだ? どうして最近になって……」
マキナが目覚めて理由である。先日も疑問を持っていたことだが、優先される疑問が多すぎてほったらかしにされていた。
「それは、強い雷属性の魔力を感知し、その余波を吸収したからでございます。研究所が無人になって以降、メモリー、情報を保存するため低電力で稼働しておりました。研究所はその強い魔力の回収を私に命じたのです」
強い雷属性魔力……それはイグナールが平原で試し撃ちした一発に違いない。あれが引き金となって活発的に研究所が動き出したのだと言う。
「俺の放出した魔力が原因だったのか」
「はい。そして私はマスターとモーニカ様を観察しておりました。協力を仰いでもいいものかと」
「それがあの事態になったわけだが……」
「申し訳ございません。何分緊急でございましたので。それとあまりにもお二人が――」
「マキナ!」
イグナールとマキナの会話にモニカが割って入る。特に興味を示していないように見えていたが、ちゃっかり聞き耳を立てていたようだ。
「おっとこれはモーニカ様から内密にと言われておりました」
「絶対ダメだからね!」
「なんなんだよモニカ……」
一人頭を捻り、なんの事かと考えてみるが検討がつかない。
モニカも知られたくない様子だし、深く考えるのも野暮と言うものだろう。
研究所の場所を知っているのはマキナのみなので、森に着いてからはマキナが先頭になって進む。
しかし、彼女の道案内は道を案内してくれない。ただただ、目的地に向かってずんずんと突き進んで行く。立ちふさがる茂みをものともしないのだ。
先頭のマキナが道を切り開いていくので、あとに続くイグナール達は多少マシとはいえ、それでもかなり進みにくい。
舗装された道を歩くように何事もなく進むマキナと、茂みや木の枝、地面から覗く根にも気をやり進むイグナールとモニカ。
両者の距離が少しづつだが、開いていく。
「マキナ。少し待ってくれ、こっちはかなり進みにくいんだ」
「配慮が足らず申し訳ございません」
後ろに付いて来ているモニカが徐々に遅れ始めたので、マキナを止めるイグナール。
かき分けられた茂みに服が引っかからないよう、むき出しの白い太ももに傷がつかぬよう慎重に進むモニカ。
「マキナもそんな服でこんなところを進むと破れるぞ」
彼女の詳細はわからない。マキナ曰く、オートマトン、人形とのことだ。この程度で肌は傷つかないのだろうが、服は別ものではなかろうかとイグナールは考えた。
「問題ございません。これは防刃防弾仕様となっております」
軽くスカート部分を持ち上げ優雅な会釈を見せるマキナ。その仕草は洗練された使用人の所作のそれだ。とても人形が真似できるようなものではないとイグナールは感じた。
「そういえば、どうしてそんな服装なんだ? 戦いとなればもっと動きやすそうなものがありそうなもんだが……」
これは彼の素朴な疑問である。
「マスターへの奉仕の精神を表すためと言われています。これが私共の戦闘装束なのです」
古代の研究者が何を考えてそう定めたかはわからないが、私共……マキナと同じオートマトンの事を言っているのだろう。
「研究所にはマキナの仲間がいるのか?」
「いえ、私以外の機体は確認出来ませんでした」
「一人……なのか」
「そうとは限りません。ほかにも研究所はございます。私のように保管されているオートマトンが他に存在するやもしれません」
人間らしい所作と人間らしからなぬ感情の動き。イグナールはまだ、マキナと言う存在を掴めていないとはいえ、これだけは思った。
この世界でたった一人というのはきっと寂しいだろう……と。
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