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第7話「お礼」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「……大丈夫か?」

 ミナリエは尻もちをついてあんぐりと口を開けているポポルに向かって手を差し出した。

「あ、うん。ポポルは大丈夫なんだけど……」

 ポポルはミナリエの手を取って立ち上がると、ぽんぽんと服についた土を払った。


「ミナには命を助けてもらったわけだから、何かお礼をしなきゃと思って……」

 せっかく立ち上がったのに、ポポルは頭を抱えてしゃがんでしまった。


「それなら、道案内を頼めないか? この大森林には初めて来たから慣れていないんだ」

 それを聞いた途端、ポポルは飛び跳ねた。

「……! 道案内くらい、ポポルに任せてよ! どこまでミナを連れて行けばいいの?」

 さっきまで悩んでいたかと思えば、いつの間にか笑顔に変わっている。

 ポポルという少女は元気で可愛らしい印象だった。


「ゆくゆくは森の北西を目指しているのだが、とりあえず近くに集落はあるか?」

「北西って何かあったけ? 何か探し物してるの? それとも他に目的があって? っていうか、ミナはどこから来たの!? 水を生み出してたわけだから、もしかして海の中から来たってこと!?」

 ミナリエに興味を持ち始めた途端、ポポルが止まらなくなってしまった。


「ポポル、落ち着いてくれ。私の話なら後で必ずするから……!」

 ミナリエはポポルを両肩を押さえて、なんとか落ち着かせようとする。

「う~ん、わかった! じゃあ、近くの村を目指してレッツゴー! だね。ミナ、こっちこっち!」

 静かになったと思ったのもつかの間、はしゃぎ始めたポポルがミナリエの手を取って走り出した。


「おいポポル。走るな。転んでしまうかもしれないだろ」

「えー。ミナのケチー」

 ぶーぶーと頬を膨らまして、ポポルが不満を露わにしている。

 まるで自分に妹ができたような気分だった。

 妹のいる者が言っていたわがままを聞いてあげたくなる気持ちが少しだけわかったような気がする。


「じゃあさ、あの霊術は何? 水を使ってぐるぐるぐるー! ってポポルに巻きついたやつ! あとあと槍を使った技も霊術を使ってたの? あれってポポルにもできる? ポポルにミナのこと、いっぱい教えてよー!」

 ミナリエのことに興味津々というポポルの勢いに面食らってしまったものの、またビスティアが出るかもしれない危険な場所で立ち話をするわけにはいかないだろう。


「ああ、それも村に着いたらな?」

「そうやって、何も教えてくれないつもりなんでしょ! ポポルにはわかるんだからね!」

「そうじゃない。話をするなら、まずは安全な場所へだな――」

「そんなこと言うんなら……」


 とポポルは精神を研ぎ澄ませて、右手を上に伸ばした。

 ちょうどそこに木々の枝からツタが落ちてくる。

 ポポルはそれを掴んで、思いっきり大地を蹴った。


「ポポルの草術、見せたげる!」

 その拍子で手を(つな)いでいたミナリエの体も宙に浮き上がった。

「おお……!」

 ミナリエはその光景に感動した。

 自分の体が空を舞い、次々に木々の間を通り抜けていく。


「ポポルの手、絶対に離しちゃダメだよ!」

 ある程度進むと、ポポルは掴むツタを交換して次のツタが伸びている大木に向かって再加速する。

 非常に面白い移動方法だと思うのだが、このような移動方法を持ちながら、アラネアに捕まることがあるのだろうか……。

 もしかすると、その時は不意を突かれてしまったのかもしれない。


 ミナリエがポポルのことを考えている間に、集落らしき構造物の上に到着していた。

 アラネアの巣と村までの距離は、そこまで遠くなかったらしい。


「到着したよ~」

 ポポルが掴んでいたツタから手を離して、落下しようとする。

「いやいやいや、さすがにこの高さは――」

 と焦るミナリエに構うことなく、ポポルは地面に向かって急降下を始めた。


「……!」

「みんな~。受け止めてー」

 ミナリエは置いてけぼりを食らったまま、ポポルの声に反応した大地の植物がもさもさと(うごめ)き始めた。

 そして、二人が地面に着地する直前、そこに大量の葉が差し出され、二人の体を受け止めていたのだった。


「痛く、ない……」

 衝撃は全くと言っていいほどなかった。

「どう? ポポル、すごいでしょー?」


「……確かにすごいかもしれないが、最後のは、事前に説明してくれないと危ないだろ」

 ミナリエはジッとポポルの目を見て言った。

「ごめんなさい。ポポル、ミナが喜んでくれるって、思ったから……」

 ポポルはミナリエが怒ったと思っているのか、目を潤ませている。


「いや、怒っているわけではないからな。ただ何かする前にはちゃんと言ってほしいだけなんだ」

「ミナ、ホントに怒ってない?」

「ああ、驚きはしたがな」

「よかったー! ミナの顔、怖いんだもん!」

 とすぐに元気を取り戻したポポルが村の中を案内してくれることになった。


「ここはポポルも暮らしてる村なんだけど、アグテカっていう村なんだよー」

 ミナリエの手を取ってポポルが歩き出すと、村の中から二人の男がやって来た。

「ポポル! どごさ行ってだべ!」

 ポポルの名前を呼んだ男の前にポポルが駆け寄っていく。


「ラカントおじさん、聞いてよー。ポポルさ、アラネアに捕まっちゃったんだー」

「やっばし、ポポルはアホだったなや~」

 ラカントと呼ばれたその男は頭を抱えている。

 その気持ちは、まだ少ししか時間を共にしていないミナリエにも理解できた。


「でもねでもね、ポポルがアラネアに食われそうになる直前にミナが助けてくれたんだ!」

 ポポルがミナリエのことを紹介すると、ラカントがジッと見つめてくる。

「おめえ、よそもんだべ? 女子(おなご)一人でこの森さ入って来て、相当腕に自信あんだな」

 ラカントはミナの槍を指差して言った。


「そりゃそうだよ! ミナは一人で黄色いアラネアを倒しちゃうくらい、とっても強いんだから!」

「黄色だど!? (うそ)こくでねえ。黄色いビスティアなんてめったなことで見ねえし、大人が寄ってたかってやっと倒せるかどうかなんだぞ?」

 ラカントは信じられるわけがないという様子でポポルを見ていたが、ポポルのほうも真剣に見つめ返していた。


「ポポル嘘つかないし。ミナがアラネアを倒す瞬間もちゃんとこの目で見たもん」

「一応これが証拠にはなるだろうか……」

 ミナはアラネアから切り取っていた脚部をラカントに見せた。

 その脚部の模様は黄色くなっている。


「おったまげだぁ」

 とラカントの口は、開いたまま(ふさ)がらなくなってしまうのだった。


 その後、落ち着きを取り戻したラカントが村長のもとに案内してくれた。

 ポポルの命の恩人として村に温かく迎え入れてもらったミナリエは、普段はポポルが生活しているという小屋に泊めてもらうことになった。


 ポポルは十分に煮込んで柔らかくしたゼア(トウモロコシのような翠杜の民にとっての主食となる植物)をすり潰して、生地を薄く伸ばしてから陶器のコマルで焼き始めた。

 十分に焼いた後は、保存してあったという木の実やチーズに巻いて食べるのだ。

 それが二人の夕食になった。


 蒼海の民ではあり得ない火を使った料理は、ミナリエにとってかなり新鮮なものだった。

 翠杜の民の料理も自分の舌に合う味付けでよかったが、アクティムに戻る頃にはきっと海の食事が恋しくなっているかもしれない。


「ごちそうさまでした」

「じゃあ、ミナのこと教えて」

 ご飯を食べ終わったばかりにも関わらず、ポポルは森の中で中断した話の続きをしろと急かしてきた。


「いきなりだな……。こうして食事も頂いてしまったからには話さないわけにもいくまい。ポポルは蒼海の民のことを聞いたことはあるか?」

「そうかい? 爽快……? あ! 蒼海ね! もちろん、知ってるよー。海の中で暮らしてるんでしょ~。でも、それくらいしか知らないけどね!」

 えっへんと言わんばかりにポポルは胸を張っている。


「私がその蒼海の民なんだ」

「ほぉへぇ~。あ、だから水を操って攻撃してたんだ!」

「ああ、詳しい事情までは話せないんだが、私は菫砂(きんさ)の民が暮らすヴァリアスを目指しているんだ」


「そっかそっか! ヴァリアスに行きたいから、北西を目指してるってことなんだぁ。それなら西に真っすぐ行っちゃダメなの?」

 ミナリエはポポルのその反応を見て、彼女が蒼海の民と菫砂の民の確執を知らないことを理解した。


「南の海に近ければ近いほど、ヴァリアス側の警戒心が強くなっていてな、蒼海の民が入国することはできないんだ。どうしてもやるべきことがあってヴァリアスには行かなければならないのだが、私は極力騒ぎを起こしたくないんだ」

「んー? ポポルにはよくわかんないけど~、北西を目指せばいいってのはわかった! カラクリュム辺りに向かえばいいと思うー」


「カラクリュムというのは村か? そこまで案内を頼める者はいるか?」

「どうだろう? みんなそんなに遠くまで行ったことあるのかなー。じゃなくて! ポポルがそこまで案内するってば!」

 ポポルの表情はふざけているわけではなく、真剣そのものだった。

 正直言うと、ポポルにそこまでしてもらうつもりではなかった。


「本当にいいのか? これは危険な旅になるかもしれないんだぞ? また危険なビスティアが襲いかかってくるかもしれないし……」

「なんてったって、これくらいしないとポポルの気が収まらないからね! たぶん何かあっても、ミナが守ってくれるから問題ないよー」


 真剣なのか、能天気なのかよくわからないポポルの顔を見て、ミナリエはハアとため息をついた。

「私が信頼されているのか、ポポルがバカ正直なだけなのか……」

「えへへへー。ポポル、褒められるのはあんまり慣れてないんだよね~」

 とポポルは恥ずかしそうに体をくねくねさせている。


「いや、褒めてないからな?」

「…………え?」

 そして二人は、目的地であるヴァリアスへと向かう前にしっかりと休息をとるのだった――。

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