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第4話「変装」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 翌日、ミナリエとエレティナは第6地区にある店に向かった。

 この辺りは普段のミナリエなら決して近寄らない地区だった。

 常に若者が多く、面倒事を極力避けていたミナリエにとっては、近づきにくいという印象が強かったのだ。


 活発に帝亀便(ていきびん)が行き交う中、二人は繁華街を抜けて目的の店を見つける。

 その店の背後には、街中では珍しくひと際大きな海樹が生えていた。


 中に入ると、そこには未知の空間が広がっていた。

 海樹の根元部分が店の壁になっており、その表皮から稀に気泡が発生している。

 いざ髪を切ろうとすると、波に揺れて切りにくいため、シャボンを発生させて頭を覆うためなのだとか。

 その中で髪をカットすることで波の影響を受けることがないのだ。


 ちなみに、美容師の女性スタッフはエレティナのお気に入りで、いつのまにか予約を済ませていたらしい。

「戦姫さまはなんで髪を切ることにしたんですか~? そのままでも十分にお美しいのに……」

「それは、私が髪を切ってはいけないということか?」


「いえいえいえ! 決してそんなことはありませんよ! でもー、何か心境の変化でもあったんですー? たとえば、失恋……とか?」

 とミナリエの顔色を(うかが)いながらも、興味を抑えることができないのか少し興奮しているように見える。


「違いますよ~。ミナがアクティム軍を辞めたから、オシャレさせようと思ったんです~」

 とエレティナがフォローしてくれる。

 別にオシャレがしたいわけではないので訂正したいとは思いつつ、話がややこしくなりそうなので、今はそれでいいと思うことにした。


「えええっ!? そうだったんですね、全然知りませんでしたぁ……」

「昨日のことだから、知らなくても仕方ない」

 彼女はブリジットというらしい。

 特にミナリエにしたい髪型があるわけではないので、すべて彼女に任せることにした。


  *   *   *


「じゃじゃ~ん。短めにしてみましたけど、いかがですー?」

 自信満々といった様子のブリジットが鏡を持って、仕上げた髪の具合を見せてくれる。


「いいよブリジットさん! 素晴らしい仕事を、ありがとう!」

「いえ、光栄の至りです」

 偉ぶった様子のエレティナとブリジットが非常に満足そうな笑顔で握手を交わしている。


「急に短くなると、なんだか落ち着かないな」

 今までは伸ばすだけ伸ばして、邪魔になれば結んでいたというのに、そんな自身の髪の毛が短くなってしまったことが不思議で仕方なかった。

 気になりすぎて、つい(いじ)ってしまう。


「そんなの少しの間だけだって~。気にしなければ、すぐに慣れるからね」

 終始楽しそうなエレティナと無表情のミナリエはブリジットに見送られながら、繁華街へと戻ることにした。


「じゃあ、次は~~~」

「ネイルはダメだぞ。戦えなくなるようなことはしなくていい」

 ミナリエがエレティナの言わんとすることを先に封じてしまったため、隣でぶーぶーと頬を膨らましている。


「そんなんだから、ミナは女の子にしかモテないんだよ?」

「は? それはどういうことだ――」

 と聞こうとするミナリエの声を遮り、強く手を引っ張られる。


「おいっ!」

「いいから! あたしにぜーんぶ任せなさいっ!」


 次にミナリエが連れて来られたのは、女性用の化粧品を販売している店だった。

 エレティナと共に街中を歩き回ったにも関わらず、髪型が変わったことが原因だったのか、戦姫だと騒ぎ立てる者は全くいなかった。


「ミナには、どれが似合うかな~?」

 ミナリエにとっては見慣れない化粧品の数々をエレティナが見繕っている。

「すみませ~ん、この子の目元を可愛くしたいんですけど、何かオススメってありますか?」

 エレティナの声を聞きつけて店員が出てくると、その目がミナリエのことを捉えた瞬間、その目の色が明らかに変わった。


「彼女を可愛くして差し上げれば、よろしいのですね?」

「もちろん! お願いします!」

「かしこまりました。最上級の美少女に仕立て上げてみせましょう」


 店員の女性が眼鏡をクイッとさせた。

 その表情はやる気に満ち(あふ)れているように見える。

 ああ、なぜか不安になってきた。


 一重だったはずのミナリエのまぶたがあっという間に二重に変わり、アイシャドウを塗られ、まつ毛が整えられる。

 みるみるうちに自分が自分でなくなっていくのがわかった。


 仕上げにアイラインを引いてもらい、彼女の仕事は終わりを告げた。

 普段から手慣れた女性がやる分には簡単そうに見えた。

 だが、そのハードルがミナリエにとっては相当高いものであることを彼女たちは知らないだろう。


「いかがでしょうか?」

「ん~、バッチリです!」

 ミナリエを置いてけぼりにして、エレティナが勝手に返答する。

 私はいいと言っていない。


「普段はお化粧されないようでしたので、最低限のメイクにさせていただきました。使用したものはこちらですが、ご購入されますか?」

「そりゃあ、買いますとも!」

 

 これで最低限、だと?

 ミナリエには二人が何を言っているのか理解できなかった。

 二人だけで盛り上がり、会話が進められていく。

 彼女の放つ言葉のすべてが呪文であり、当事者であるはずのミナリエは完全に蚊帳の外だった。


「やっぱり最後は服だよね。今の服、地味すぎるもん」

「いや、私はこれを気に入って――」

 やはりエレティナは話を聞かない。

 またその手を掴まれ、抵抗することをすでに諦めていたミナリエはただ身を任せるだけだった。


  *   *   *


 服屋の店主は男性と言っていいのか、中性的な人物のように見えたが、またもやミナリエを見た瞬間に興奮し始めて、店内にある服を片っ端から着せ始めた。

 私は着せ替え人形ではないのだが、エレティナもさまざまな変化を見せるミナリエの姿を見て楽しんでいる。


 そして、店主のお気に入りだという服を最後に着せられたミナリエが鏡の前に立った。

 最初からそれを着せればよかったのではと思うものの、ミナリエ自身もほんの少しだけ自分が変わる様子を珍しく思ってもいたので、やめてくれとは言いにくかった。


「これが、私……?」

 ミナリエは自身の変わりように驚愕した。

 髪を短く切りそろえ、目元に化粧を施してもらい、普段は全く興味のないロングタイプのスカートをはいていた。

 さすがにこの格好のままで危険なゲオルキアの土地に行くことはできないが、今日くらいは着ていても問題ないとは思う。


「ふぅん。可愛いじゃん?」

 エレティナはもっと素直に褒めてくれると思っていたが、なんだかぎこちない。


「なぜそんなに微妙な顔をしているんだ?」

「なんでって言われても、ミナにはあたしの気持ち、わかんないよ」

 そんなものが理解できるのなら苦労しないとミナリエが考えていると、自分の方に向かって歩いて来る男の存在に気がついた。


「君、ここらでは全然見ないけど、めちゃくちゃ可愛いね。どこから来たの?」

「誰だ、貴様?」

 可愛いと褒められたことは悪くないが、どちらかと言えば、浮ついた男という印象を受けた。


「オレ? ユリウスって言うんだけどさ、この後二人きりでご飯でも行かない?」

「ちょっと、何なんです――」

 とミナリエの前に立ちふさがろうとするエレティナだが、


「私は()()()()()()だが、いいのか?」

 と幾多の敵を怖気づかせてきた威圧感を周囲に解き放った。

 その瞬間、ミナリエを見ていた周りの目が一変した。

 興味で見ていた視線のすべてが恐怖に様変わりし、中には身震いしている者までいる。


「み、ミナリエって……。まさか、お前! 戦姫かよっ‼ 全然違えじゃん! それはさすがに、詐欺じゃねえかぁっ!」

 と男は捨て台詞を残し、慌てて逃げていく。


「可愛くしすぎたせいで、変な男が寄って来るのだけが不安なんだよね……」

 エレティナが情けなく逃げていく男の後ろ姿を見送りながら愚痴をこぼした。


「ちょっとばかし、やりすぎちゃったかもしれないけど、戦姫のイメージが強いミナだと思われてないってのはさ、いい傾向だと思わない?」

「本当に、そうだろうか……」

 ミナリエの心の中では、むしろ不安のほうが強くなるのだった。


  *   *   *


 翌日の朝、結局のところ、エレティナと一緒に買いに行った外行き用の服ではなく、ミナリエは森の中でも動きやすそうな服を選んだ。

 家の前にはダガンとエレティナの二人が見送りのために出てきてくれた。

 エレティナは不服そうにしているが、無視することにした。


「なんだか、昔のアンナのようだな」

 と昔を懐かしむようなダガンの優しそうな表情が見れる機会はそう多くない。

 ダガンの知る昔の母は髪が短かったのだろうか。

 ミナリエの記憶では、長い髪の母の記憶しかなかったので新鮮だった。


「アクティム軍のことを心配する必要はないのだから、お前の気が済むまでは戻って来なくて大丈夫だ」

「いや、必ず戻って来てね! 絶対だよ!」

 と速攻で訂正したのはエレティナだ。

 ミナリエもさすがに何年も帰って来ないとは考えていない。


 ちょうどそのとき、背後から女性の声が聞こえてくる。

「わたくしも来ちゃいました♪」

 振り返ると、その陽気な女性はパトラ皇妃その人だった。


「「皇妃さま!?」」

「静かにしてくださいます? お忍びなのですから」

 彼女は人差し指を立てながら促しているものの、心配するダガンとエレティナは戦々恐々としていた。

 皇妃は従者を連れて、かつ変装もしているが、本当に大丈夫なのだろうか。


「わたくしもお願いした以上は見送りだけでもと思いまして。よろしくお願いしますね、ミナさま」

「はい。それでは、行ってきます……!」

 ミナリエは声を張って返事をして、海上に向かって浮き上がることにした。

 そして住み慣れた帝都アクティムを後にして、大森林が広がる北東を目指して泳ぐのだった――。

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