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蒼と菫の碑石 ~戦姫から無職になって歩んだ軌跡~  作者: 白浪まだら
3章「蒼海と菫砂の戦乱編」

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第28話「二人の決意」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 エレティナがいなくなり、碑石の中で二人きりになったことで、その場を沈黙が支配した。

 ミナリエはこれから自分たちにできることを考えていたところだった。


 もし今起こっている戦争を止めることができたとして、二つの民は争い続けることを止めることはないだろう。

 そんな未来が待ち受けているとして、ミナリエには何ができるのだろうか。


 今まで戦姫として戦い続けてきた自分にできることと言えば、やはりその力を活かすこと以外にはないと思うのだが。


「俺は五公になろうと思っている」

 ルドラが先に静寂を破った。


「……五公になって、どうするつもりなんだ?」

「俺が五公の一人になれば、リーザさんと協力してヴァリアスの進軍を事前に防げる可能性も高まる。今回みたいに、央公の単独権限を発動されると厳しいだろうが……」


「たとえ進軍することになってしまったとしても、五公のうちの二席を確保していれば、戦いを長引かせずに済む可能性も高まるということか」

「そういうことだ。俺が東公になって、リーザさんが央公になるという方法もあるかもしれない……」

 確かにルドラにとって信頼できる人物が央公になるというのなら、未来は明るいだろう。


「そうすれば、アクティムに攻め込むことも少なるできると……」

「二つの民が戦い続ける未来を防ごうとするなら、俺にはそれしか考えられなかった。碑石の秘密や資格者を集めなければいけないことも含めて、これから相当の努力が必要になるだろうことは覚悟しているつもりだ」

 そう言って、ルドラはミナリエの瞳を見つめ続けた。


 ミナリエはしばらく(うつむ)いていたが、覚悟を決めてからルドラと視線を合わせることにした。

「それなら私は……。アクティムでも、ヴァリアスでもない、第三の勢力を作ろうと思う」


「第三の勢力?」

「国のしがらみにとらわれない中立の組織を生み出して、事前に戦争を止めるために動くんだ。ここでは菫砂(きんさ)の民も蒼海(そうかい)の民も関係なく、多くの仲間が必要になると考えている」


 それがミナリエの答えだった。

 戦で勝つために自分の力を使うことはもうやめたかったのだ。


「それは、ミナらしい妙案だな。戦争を止めながら、同時に十族集めをするために動くというわけか」

「そうだ。それが厄災を滅ぼす未来に(つな)がると信じて、うまく立ち回っていきたい。もちろん、ルドラとレグニ、エレティナにも協力してもらうつもりだ」


「当然だ。喜んで協力させてもらおう。レグニは嬉しくて泣きながら世界中を飛び回ってくれるかもしれないな」

「確かに」

 とミナリエは笑みをこぼした。


 きっとエレティナも受け入れてくれると思っている。

 ルドラにレグニ、エレティナとミナリエ。


 始めは四人だけの小さな輪かもしれないが、少しずつ仲間を増やして大きくしていければいい。

 界蝕者(かいしょくしゃ)を警戒する以上は、すぐに大きくするのはリスクがあるだろう。


 ミナリエたちが動くことによって、戦争を止められるなら、いつかいがみ合い続けるその関係性すらも変えられるかもしれない。

「必ず戦争をなくして、私たちの手で友好的な国に変えてみせよう」

「ああ。ミナが味方というのは頼もしすぎるな」

 そして、二人はどちらからともなく、握手を交わした。


「厄災だって、滅ぼせるような気がしてきた」

 ルドラが優しく微笑みかけてきた。

 出会った時のことを考えると、ここまで砕けた関係になるとは思っていなかった。


「厄災の復活は私たちの時代なのか、もしかすると、子孫のさらにその先の子孫たちの時代になるかもしれない……。だから、私たちにできることは信頼できる仲間を集め、碑石の情報を後世に伝え続けることだ。鍵となる白翼が現れる、その日がやって来るまで……」

 ミナリエはルドラの右手に対して、さらに左手も重ねることにした。


「……!」

 すると、ルドラが少し動揺したように見えた。

 ミナリエはそれを無言で見つめ続ける。


 いつも飄々(ひょうひょう)としているように見えるルドラだが、たまに歳相応の反応を見せることがあるのだ。


 そんなことを考えていたら、ルドラと出会ってからのことがミナリエの頭をよぎった。

 時間が経った今でも、ルドラとの出会いは最悪だったと思う。


 大砂波(おおすなみ)に溺れる自分を助けてくれたというのに、冷たい態度を取ってしまった。

 最初は菫砂の民だからというだけで、偏見を持っていたのだ。


 当時は自身の正体がバレるわけにはいかないと焦る気持ちも確かにあった。

 だが、ルドラは謎めいた雰囲気と優しさを持った男だった。

 正体がバレた後も、ルドラがミナリエを非難することはなかった。


 ルドラはいつも何を考えているのかわからない男だった。

 逆にそれが、ミナリエにとっては魅力的に見えたのかもしれない。


「私は、初めてなんだ」

 ようやくミナリエが口を開いた。


「初めて?」

 ミナリエは顔を正面に向けることに恥ずかしさを感じながら、目線だけでルドラの顔を見やった。

 ルドラはミナリエが今何を言おうとしているのかわからずにいるようだ。

 そんなルドラに構わず、ミナリエの口は言葉を紡ぎ続けた。


「いつしか、碑石や両親のことを忘れてしまうことがあるくらい、私はルドラのことばかり考えていた」

 それを聞いたルドラの口が開いたままになった。

 ミナリエの口が放った言葉が想定外だったのだろう。

 それはミナリエ自身も驚いているのだから仕方ない。


「これが……。俗に言う、()()という感情なのかもしれない……」

「……」

 ルドラはしばらく口をパクパクさせていたが、次第にミナリエが言った言葉の意味を理解し始める。


「……ミナが俺を、好き? ちょっと待ってくれ」

 そう言って、ルドラはミナリエの手を離して、顔を背けてしまった。

 ミナリエはその背中を見つめることしかできない。

 ルドラは今、何を考えているのだろうか。


 それを気にしてしまう自分がいることが不思議で仕方がなかった。

 今までの自分からは考えられない変化だろう。


 それはアクティムを出て菫の碑石を探し求めなければ、抱くことのなかった感情の数々。

 さらにルドラと出会っていなければ、その感情は知り得なかったものだろう。


「すまない。急なことすぎて、焦ってしまった」

 一度頭を整理していたのか、ルドラがミナリエと視線を合わせた。


「私のほうこそ、つい口走ってしまって……」

「いや、実は俺もミナリエに好意を抱いていた」


 ミナリエは止まって、ルドラを見つめ返した。

 その言葉はミナリエにとっても意外だった。


「隠すことにずっと必死だった。どうすればこの気持ちを悟られずに済むか、そればかり気にしていた」

 ルドラは終始顔を手で覆ったり、胸に手を当てたりと落ち着きがなかった。

 その明らかな動揺のおかげと言っていいのか、それが本音だと思えた。


「蒼海の民と菫砂の民が近づいていいはずがない。ましてや、その相手は蒼海の鬼姫で、俺たちにとっては(かたき)とも言える人物だったわけで……。そう思いながらも、俺の心のほうは相反する感情を抱いてしまったんだ」


 そう言いながらも、ルドラは失笑している。

 その顔すらもミナリエには美しいと思えた。


「最初は似たような境遇に対する共感だったのかもしれない。菫の碑石を巡る中で、ミナという人となりを知っていくと、より明確な好情となって俺の中で暴れ始めた。それも、今まではレグニがいたことで抑えられていたんだと思う」

「全然、気づかなかった……」


 そんな素振りは、一度も見せたことがなかった気がする。

 もしくは、ミナリエが鈍感なだけだったのだろうか。


「先に言われてしまったが、俺もどうしようもなくミナのことが好きだっ……‼ 蒼海とか、菫砂とか関係なく、もっと一緒に居たいと思ってしまったんだ!」


 その言葉がただひたすらに嬉しかった。

 好意を抱いていたのが自分だけではなかった事実に胸がいっぱいになる。


 想いを共有した二人が自然に近づいていくまで時間はかからなかった。

 双頭が接近していくと、お互いの背中に手が回される。

 その時だけは時間も場所も忘れて、二人は愛情を確かめ合うのだった。


  *   *   *


 しばらくして、ミナリエとルドラの二人は碑石の外に出てきた。

 小魚たちと戯れていたらしいエレティナがこちらに気づいてやって来る。


「長かったね?」

「……うるさい」


「うるさいって何よ! あたしは待っててあげたのにさ!」

「いいから、今はそのことに触れないでくれないか……?」


 ミナリエは今も恥ずかしさを隠しきれないでいた。

 口元を押さえながら、ミナリエは中でのことを忘れようと努める。


 自分のしたことが何もかも信じられなかった。

 この人生において、自分にはあり得ないと否定していたことが現実に起きてしまったのだから。


「もう……。初心(うぶ)すぎでしょ」

「やめてくれ。恥ずかしすぎて、どこかに雲隠れしたいくらいなんだ」


「だったら、この男のせいってことでいい?」

「ルドラは悪くない! 全部私が悪いんだ!」


「あー、ヤダヤダ。こんなミナは見たくなかったんだけどな~」

 と(あき)れた様子のエレティナがルドラの方を見やる。


「俺のせいにしてくれていい。すべての責任は取るつもりだ」

 ルドラも中で起きたことは想定外だったのか、気の抜けた顔をしている。

 フンッと首を振ったエレティナはミナリエのもとに向かった。


「ミナ! 正気に戻って! 戦争を止めるって話だったでしょ!? 忘れたなんて言わせないよ!?」

 エレティナはミナリエの頬を摘んで引っ張ることにした。

 強く、さらに力を込めて引っ張り続ける。


「はっ……! 私としたことが……」

 いつものミナリエが戻ったことにエレティナはホッとして手を離した。

 恋愛というのは人それぞれだとは思うが、いつも冷静だったミナリエが恋愛に溺れてしまうのは、さすがに嫌だった。


 むしろ、今まで抑え込んでいた分の反動がきてしまったのだろうか。

 エレティナはこれからミナリエがどうなってしまうのか、考えたくもなかった。


 すると、何かを(たた)くような音が聞こえてきた。

 どうやらミナリエが自身の顔を叩いて、正気を取り戻そうとしたらしい。


「しばらくは会えなくなるな……」

「心配はいらない。いつか必ず会える」


 二人が別れを惜しんでいるところを申し訳なく思いつつ、ちょいちょいとエレティナがルドラを呼んで、小さな声で(ささや)いた。


「うちのお父さん厳しいけど、大丈夫?」

「……さ、最善を尽くそうとは思っている」

 エレティナはルドラが恐れる様子を見て不安になりつつも、健闘を祈ることにした。


「それじゃあ、また!」

 そして、ミナリエとエレティナは、ルドラとしばしの別れを告げた。


 ルドラはレグニやリーザと合流して、ヴァリアス軍を止めるために。

 ミナリエとエレティナはダガンと合流して、アクティム軍を止めるために。


 それぞれの目的地を目指して、海の中を突き進んでいく――。

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