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第21話「帰郷」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 海流に乗って帝都に急ぐミナリエとルドラの視界の中では、大型の海獣たちが帝都近海を離れようと移動しているように見えた。


「この異変を感じ取っているのか……」

「自然とはそういうものだ。迫る危険を感じ取る能力に長けた者のほうが長生きするようにできている」

「つまり、彼らはこれから戦争が起こることを、本能で理解しているのだな」

「……」


 そこでルドラは黙った。

 不思議に思ったミナリエはルドラの方を見やった。


「どうした? 急にレグニが心配になったのか?」

「いや、あの海獣たちみたいに南都付近にいたビスティアがレグニの妨げになっているのではないかと思っただけだ……」

 それを人は心配していると言うのだが、ミナリエは言及するのをやめた。


「私たちが知っているレグニなら、上手いことやっていそうじゃないか? 特に逃げ足は速いだろうし、やる時はやってくれる男だと私は思っている」

「そう、だな。熱くなると、一直線になってしまうが、負けそうな戦いを続けるほどバカではない。すでにリーザさんと合流してることを祈ろう。……それよりも、俺たちのやるべきことは――」


「蒼の碑石に向かわなければいけないのはわかっているが、焦っても仕方ない。……それに、もうすぐ帝都に着くぞ」

 ミナリエが指差した先、そこに海底の大都市アクロレムスが見えてきている。


「これが、帝都……」

 ルドラの視界いっぱいに海底の岩をくり抜いて作られた大規模な街並みが入ってくる。

 海底にも関わらず、至る所に灯りがあった。

 あれがミナリエがかつて言っていたヒカリコンブということだろう。


「こんなに長いこと帝都を離れたのは私も初めてだから、不思議な気分だ……」

 おそらく、ひと月が経ったくらいだろうか。

 ミナリエはついに故郷に戻って来ることができたのだ。


 懐かしいこの帝都の香りに目を細めた。

 そして、今まで隣にいることなど想像したこともないルドラの方を見て、ミナリエは注意を促す。


菫砂(きんさ)の民とバレるようなことは、くれぐれも気をつけてくれ」

「もちろん。俺はミナのように有名人ではないから、バレることはないと思うが……」


「あれはルドラを守るためにやむを得ず……」

「そういう一面があったから、俺はミナのことを信じようと思えたんだ」

「……! そうか……」


 ルドラの肌は少し日に焼けているものの、平均的な菫砂の民と比べたらそうでもなく、その見た目は蒼海(そうかい)の民と変わらない。

 水術を使うことはできないとはいえ、砂術さえ使わなければ、気づかれる可能性は低いだろう。


「まずは将軍とやらに伝えに行くんだったか?」

「その予定であっている。軍の本部があるのは、第3地区だ」

 二人は帝都の中心にある第1地区から少し北に外れた第3地区を目指して進んでいく。


 アクティム軍の本部は海底にあった山をくり抜いた場所に作られている。

 二人が施設内に足を踏み入れた途端、ミナリエは異変に気がついた。


「浮足立っている……?」

 軍部周辺の人の出入りが普段よりも激しい気がしたのだ。


「戦姫さまだ!」

「軍に戻られるつもりなのか!?」

「それなら千人力だな!」


 ミナリエの姿に気づいた兵士たちが期待の声を上げる。

 彼らには申し訳ないが、積極的に戦争に参加するつもりはなかった。


「突然来ておいてすまないが、ダガン将軍はいるか?」

 ミナリエは軍本部の衛兵に対してそう告げた。


「おりますが、出兵の準備でお忙しいかと……」

「出兵の準備だと!?」


 ミナリエがいない間にアクティムで何があったのだろうか。

 すでにヴァリアスが進軍する情報を仕入れていたということなのだろうが、二人は急ぎダガンのもとに向かった。


「ミナぁ! 無事、帰って来たのだな!」

 ミナリエが姿を見せると、兵士たちに指示を与えていたダガンがこちらに気づく。

 兵士たちに口早に何かを伝えた後、こちらに向かって来た。


義父(とう)さんに伝えておかなければならないことがあって、早めに戻って来ました……」

「伝えたいこと? ヴァリアスで何かあったのか?」

「話すと長くなるのですが、ヴァリアス軍がアクティムに侵攻するという情報を手に入れたんです!」

「……なるほど。それはむしろ都合がいいかもしれない。俺たちもヴァリアスに侵攻する準備を進めていたところだからな」


 ミナリエは一瞬ダガンの言葉が理解できず、思考が停止してしまった。

 隣にいるダガンも驚きを隠せないようだ。


「侵攻!? なぜそうなるんですか!?」

「先に侵略してきたのは、向こうだからだ」

「「!?」」


 ミナリエとルドラはさらに驚愕し、お互いに目を合わせた。

 ダガンの言葉をそのままの意味で受け取ると、ミナリエがいない間に菫砂の民が攻め込んで来たということだろうか。


「我ら蒼海の民が大人しくしていれば、ヤツらは帝都に身を潜めていて、突如第11地区の住宅街を破壊していったんだ」

「帝都でそんなことが!? 私がいた時はそのようなこと、一度も起きなかったというのに……。いったいこの世界で、何が……」


 ミナリエは考える。

 しかし、界蝕者たちが何を企んでいるのか、菫砂の民がアクティムに攻め込む理由も、蒼海の民がヴァリアスに攻め込む理由も、何もかもがわからなかった。


 すると、ダガンがルドラの方を見やる。

「だが、お前はなぜ菫砂の民と一緒に帰って来た?」

「……!」

 ダガンは周りに気づかれないように、小声で言ってくれてはいるが、ルドラは驚きのあまり()き込んでしまった。


「どうして気づいたのかはさておき、彼なら心配はいりません。私が蒼海の民と知ってからも、ルドラは助けてくれましたから」


 ミナリエが慌てて訂正するも、ダガンは無言でルドラを見続ける。

 ルドラは顔、体、ひいては足の先までしっかり目に焼きつけるかのように見られていた。

 その高圧的な態度にルドラは生きた心地がせず、黙って見つめ返すことしかできない。


 しばらくして、ようやくダガンが口を開いた。

「……わかった。今はミナの言うことを信じてやろう」

 しかしダガンは、ルドラの耳元に近づいて(ささや)く。


「ただし……。不純な動機でミナに手を出したら、ただでは済まさないからな」

 それを聞いたルドラは、何度も首を上下に動かして肯定の意志を示す。

 ダガンもルドラの必死な様子を見て、何かを理解したらしい。


 ミナリエにはダガンが最後に何を伝えたのかはわからなかったが、少なからずルドラに対して重圧をかけたようには見えた。

 身元がバレるようなことはするなとでも脅しただろうか。


「はあ……」

 ダガンが離れた後、ルドラはようやくひと息つくことができた。


「大丈夫か? 義父さんに何を言われたんだ?」

「いや、大丈夫だ。ミナが俺のことを気にする必要はない」

 なぜだろうか、どことなくルドラと距離を感じる。


「向こうがその気なら、こちらもヴァリアスへの侵攻をやめるつもりはない。退官したお前は、もう戦争に関わるな」

「あ……」

 それだけ告げて、ダガンが離れていく。

 だが、何かを思い出した様子のダガンは途中で振り返った。


「一つ言い忘れていた。ミナにはその男と一緒に何かやらなければいけないことがあるんだろう? ついでと言っては何だが、エレティナのことを頼んだ」

「……わかりました」


 ダガンはもうこちらを見ることなく、兵士たちのもとに戻って行った。

 その後ろ姿は、幾度と見てきた義父の頼もしい背中だった。


 そして、アクティム軍本部を出たミナリエとルドラは、第9地区に向かうことにした。

 蒼の碑石に向かう前に、エレティナに帰還を知らせたほうがいいと思ったのだ。


「ただいま」

「え、おかえり……? って、ミナじゃん!」

 帰宅早々、エレティナが抱き着いてくる。


「よかった! ミナに何もなくて、本当によかった! お父さんはヴァリアスと戦争するとか言い出すし、帝都中の雰囲気も変わっちゃうし!」

「ずいぶん心配かけてしまったらしいな……。戦争の話は、義父さんから聞いた」

「ミナも行くつもりなの……?」

 エレティナが不安そうにミナリエを見つめている。


「いや、戦争に出るつもりはない。義父さんにも断られてしまったしな。それよりも、私にしかできないことをやるつもりだ」

 蒼の碑石の解読は、ミナリエにしかできないことだ。

 そして、その内部に入って真実を知るためにルドラを連れて来た。


「ミナにしかできないことって、その男と一緒じゃないとダメなの?」

 エレティナはミナリエの後ろに控えていたルドラを指差して言った。


「そのとおりだ。蒼の碑石に入るには、ルドラの力が必要なんだ」

「つまり、あくまで目的のために連れて来ただけで、ミナリエはそいつのこと好きじゃないってことであってる?」


「好き……? 私が、ルドラを……?」

 ミナリエはルドラを二度見した。

 エレティナは何を言っているのだろうか。


「そんなことはあり得ない。俺は碑石の中に入るための道具に過ぎないからな」

「へぇ~、ルドラって言うんだ。でも、こんなにカッコいいのに? ミナは何とも思わないの? 本当の本当に?」


 ルドラの言葉を信じていないエレティナが、ミナリエをジッと見つめてくる。

 ミナリエは思わず目を()らした。


「好きではないはずだ」

 本音を言ってしまえば、ミナリエにもルドラに対するこの気持ちがいったい何かわからないのだ。


「何その曖昧な感じ~。まあ、誰を好きになってもミナの自由だからいいんだけどさ、蒼の碑石って中に入れたんだね……」

「それもヴァリアスに行かなければ、わからなかったことでもある」

「どうやら、菫砂の民と蒼海の民の二人が必要らしいんだ……」

「そんなの、わかるわけないじゃん」


 そもそもとして、なぜいがみ合う民が(そろ)わなければ碑石の内部に入ることができないのか、ミナリエは考えたことすらなかった。

 今は知る由もないが、もしかしたら手を取り合っていた時代があったということだろうか。


「また戻って来ると思うが、これからその蒼の碑石を見てくるつもりだ」

「そっか、気をつけて行ってきてね! さっきも言ったけど、最近は帝都のどこにいても不穏な空気ばっかだから!」

「わかっている」


 油断することはないだろうが、エレティナの忠告は有り難く受けて取っておこう。

 エレティナに一時の別れを告げ、二人は第9地区の自宅を後にするのだった――。

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