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第19話「混乱」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 三人は食事を済ませた後、実は宿泊施設も兼ねているというこの店に泊まることに決めた。

 話し合って部屋割りをした結果、ミナリエはまた一人部屋になった。


 二人は男と同部屋にはならないようにと気を遣ってくれているのだ。

 軍に所属していた頃から多少は慣れているので、別に構わないと言ったのだが、断られてしまった。


 央都にいた時よりも今は信頼されているのか、ミナリエを警戒する気配はだいぶ弱くなったような気がする。

 それは西都のほうが人が少ないからなのかもしれないが、ここで抜け駆けして一人で碑石を見に行こうとか、実は西都で何かしようと考えているわけでもないので、彼らにもちゃんと休んでもらいたい。


 ミナリエは外の空気を吸うためにベランダに出た。

 海から吹きつける風が心地いい。

 今にも沈もうとする夕陽を眺めながら、ミナリエは一人物思いにふけっていた。


 ミナリエが考えることと言えば、もちろんルドラという男についてだ。

 あの男のことが理解できない。

 そもそも出会って数日しか経っていないのに、その人物を理解するのは困難だとも思うが。


 ルドラは父親を失った過去を持ちつつ、東公のお世話になっていたという青年。

 その父親は海底で石像になっていると思われる、ある意味で自分と似た境遇の持ち主だ。


 仲がいいレグニに対しては少し熱くなる一面があるものの、ミナリエに対しては優しさを見せることのほうが多い。


 レグニはエレティナに似ているところがあるというか、なんだか弟のように見えるというか、そこまで違和感はなかったのだが、ルドラに関しては今まで出会ったどんな人物とも違っていた。


 ミナリエにまだ心を許していないような、どこか責任感を持っているかのような、不思議と距離を取られているような感覚があるのだ。


 よくよく考えれば、家族を除いた男という存在に対して、初めて興味を持ったような気がする。

 それを興味というべきか、好意というべきか、自分の気持ちがどうにもわからない。


 ミナリエが誰かを好きになった経験がないからでもあるだろう。

 それでも、ルドラのせいでミナリエの心の中が搔き乱されてしまっていることだけは理解できた。


 そういえば、皇妃から恋をして来てもいいと言われたことに対して、それはあり得ないと返したことがあった。

 まさか、自分が()()()()()()とでもいうのだろうか……?


 それを確かめようにも、ここには相談できる相手などいない。

 いや、たとえ誰かに相談したとしても、自分が恋をしたなどと認めるわけにはいかない。


 ミナリエは首を横に振った。

 自分にはやるべきことがあるのだから、そんなことを気にしている暇はないのだ。

 暇はない……はずなのだが、どうしてもルドラのことを考えてしまう自分がいる。


 あの菫色の瞳の奥に隠された感情は何なのか。

 ミナリエに対する優しさや責任感はいったいどこからやって来るのか。


 それと同時に、なぜ自分はそこまでルドラのことが気になってしまうのか。

 今のミナリエでは、その答えを持ち合わせていなかった。


 ただ陽の沈む空をぼんやりと眺めていても、誰もその答えをくれるわけがなかった。


  *   *   *


 一方その頃、東公リーザに叱られて急いで央都に戻ったジルランは、再び情報収集の任に戻っていた。

 菫砂(きんさ)の民に混沌を(もたら)す者たち――界蝕者(かいしょくしゃ)――を特定することがジルランの目的だったのだ。


 今は央都に(そび)え立つ鐘塔(しょうとう)から街を見下ろしていた。


鬼姫(おにひめ)は無事央都を発ち、西都に向かったと……。混乱を招きそうな種は央都から去ったわけだが、界蝕者たちがそう簡単に現れるわけも――」

 ジルランが思案に暮れていたその時、北区の方角で爆音が響いた。


「……!」

 時間差で民衆の悲鳴が聞こえてくる。

 何かが起こったであろう現場へジルランは急行した。


 ジルランが着いた頃には、現場となった邸宅内への立ち入りは禁止されていた。

 今は慌てた様子の憲兵たちだけが出入りしている。


 野次馬たちのせいでそれ以上近づけないと判断したジルランは、付近の路地に入り込んだ。

 どこからともなく、ジルランの前に人が現れた。


「何があった?」

「邸宅内部に爆発物が持ち込まれたようです。爆発の大きさに反して被害は軽微ですが、現在は怪我を負った屋敷の従者たちが治療を受けています」


 そう報告した彼女は、ジルランの部下だった。

 ジルランと共に央都に潜入していた諜報員の一人である。


「誰の仕業かわかるか?」

「いえ、それが……」

 部下が何やら言い(よど)んでいる。


「どうした? なぜはっきり言わない?」

「申し訳ございません。私も目を疑ったのですが、爆発物は例の鬼姫が持ち込んだものだったらしく……」

「何だと?」


 ジルランは鬼姫が央都を発ったのをこの目で確認しているし、その後のことも部下の報告で聞いていたはずだった。


「あの届け物は失敗したんじゃなかったのか?」

「それが……。確かに届け物は鳥に姿を変えて飛び去ったのです。ただそれは、邸宅から離れた場所に止まり、街の様子を眺めているだけでした。だから私も、油断してしまったのです。まさか、屋敷の主が帰って来た途端、まるで主に特攻するかのように飛んで行き、そこで爆発してしまう、なんて……」


 それが想定外の出来事だったのか、ジルランの部下は狼狽(ろうばい)していた。

 ジルランは部下の肩に手を置く。


「お前を責めるつもりはない。この屋敷の主――央公(おうこう)のご息女は無事なのか?」

 部下を責めたところで話が進むわけではないので、ジルランは部下に問いかけた。

 そもそもジルランたちの目的は調査や情報収集であり、何かが起こるのを止めろと言われているわけではないのだ。


「怪我を負っているようですが、命に別状はないと……。優秀な従騎士たちが咄嗟(とっさ)に守ってくれたようで……」

「それでも、怪我を負ったのはマズいかもしれんな……。央公が激怒し、蒼海の民と宣戦布告してしまう可能性も……」


 ご息女は央公が溺愛していたと記憶している。

 ジルランはこれから起こり得るであろう可能性に思考を巡らせる。

 最悪の場合は、菫砂の民と蒼海(そうかい)の民の全面戦争になることもあり得る。


「急いで閣下に知らせよう。お前は他の者と情報共有し、央公の動きを知らせること」

 部下にそう告げて、ジルランは央都を発った。


 安全な地下道を通っている暇はないため、砂漠を駆るのに適したエクーズ(馬のような獣)を借りた。

 東都にいるリーザに急いで事の次第を伝えなければならない。


 ジルランの動きと時を同じくして、央都で起こったこの騒ぎは、人の移動にあわせて東西南北ヴァリアスの各地へと伝えられていくのだった。


  *   *   *


 翌日、陽が昇り始めた頃合いに三人は合流して、西都にあると思われる碑石を探すことにした。

 とはいえ、それを見つけるのにそこまで手間はかからなかった。


 歴史あるものは新しい街から取り残されやすい。

 かつて漁師をしていたという老爺(ろうや)に話を聞いたところ、海岸から少し離れた島に碑石があるという情報を手に入れることができたのだ。


 たいした距離があるわけでもないので、三人は泳いで離島に向かうことにした。

 人が住んでいたこともあるらしいが、今は無人島になっているらしい。


「このくらいの距離なら楽勝っすね!」

 菫砂の民は陸に上がったとはいえ、元は蒼海の民と同じ種族だ。

 さすがに蒼海の民には劣るものの、泳ぐのは苦にしない。


 島に上陸し、住居跡のような建物を通り過ぎた後、(つた)が絡みついている碑石を発見した。

 央都の碑石と似ているが、風雨にさらされた影響なのか、文字は読み取りにくくなっている。


「ミナ、央都と同じ仕組みだろうな」

「ああ」

 ミナリエとルドラの二人がそれに手をかざすと、やはりこちらも扉が現れた。


 階段を降りていくと、内部のほうはあまり風化の影響を受けていないことがわかった。

 央都の碑石と比較しても残りがいいような気がする。


「ほんじゃあ姉さん! バンバン解読してくださいっす!」

 レグニに言われなくてもわかっているが、ミナリエは文句を飲み込み、古代文字を読み上げることに集中した。


「厄災、滅びぬ、石像、消えぬ。石像、壊れぬ、厄災、復せず。石像、生物、死なぬ。不壊、命、尽きぬ。厄災、滅し時、石像、役目、解放せん」

「石像である限りは、生きているということか?」

「おそらく。だが、もしも壊れてしまえば、その命は(つい)えてしまうということだろう……」


 今はわからないが、アクティムを出る頃まではミナリエの両親の石像は無事だった。

 同じくルドラの父親と思われる石像も同様だ。

 しかし、それはいつ、どういう条件で壊れてしまうのか、それがわからないのだが……。

 西都の碑石に書かれた新たな情報はこれだけだった。


「難しいことはよくわかんないっすけど、その厄災ってのを倒しちまえば、石像になった人は解放されるってことっすよね?」

「倒すって、どうやってだ? 先祖さまたちが封印することしかできなかったという脅威をか? それに俺たちは、厄災っていうのがどんな姿をしているのかすら知らないんだぞ?」


「それはそうだけどさ、オレらが諦めるわけにはいかないじゃん。この文字を読めるのは姉さんしかいないわけだしさ、これからオレらにしかできないことが、いっぱいあるんじゃねえのかよっ!?」

 ルドラに対抗するレグニは、いつになく真剣だった。


「ふっ、レグニに気づかされる日が来るとは思ってもいなかった。……確かに、まだ解読してない碑石に重要な情報が書かれているかもしれないわけだし、南都の碑石も、アクティムの碑石だって見に行くべきだよな」


「それはつまり、まだ私も解放されないということか……」

「そういうことっすよ、姉さん!」

 能天気なレグニは親指を上げてこちらに笑顔を向けている。


「バカ、ミナはお前がうるさいって言ってんだよ」

「え……。姉さん、違いますよね!?」

「いや? とりあえず、西都に戻ろうか」

 とミナリエとルドラはしつこいレグニには構わず、碑石があった離島を出ることにした。


 だが、三人が西都に戻ってくると、何やら街の様子が騒がしくなっている。

 何かを演説するように話している男を中心に人だかりができていた。

 ミナリエが話の内容を聞くべく耳を澄ませると、央都で爆破事件が起こったらしいという話をしているところだった――。

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