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第18話「不審な影」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 覆面の集団は、全部で10人ほどだろうか。

 それぞれが短剣を構えて、こちらの様子を(うかが)っている。


 先に(しび)れを切らしたレグニが走り出すと、向こうも砂術を使って応戦を開始する。

 どうやら菫砂の民であることは間違いないらしい。


「ダンマリ決め込むつもりかよ!」

「央都で何かするつもりなのか?」

「……ガキどもに、構っている暇はない」


 応戦するレグニとルドラに対して、男がボソッと告げた。

 ルドラがカマをかけたように、三人を狙うために来た集団でないことは明らかだ。

 まるで央都で何かの作戦を遂行するために急いでいたところ、ミナリエたちと鉢合わせてしまったような雰囲気だった。


「そうやって相手のこと甘く見てると、後悔することになるんだぜ!」

 自分と対峙したとき、甘く見ていたのはレグニのほうではないのかとミナリエは思うのだったが、口から出てしまわないようになんとか飲み込んだ。


 レグニは両刃剣を振るって、敵の短剣を弾き飛ばした。

 耐え切れずに一歩下がった男は、あまりの衝撃にその手を押さえていた。


「くっ……。ガキのくせに猪口才(ちょこざい)な」

「待て、数はこちらが有利。油断さえしなければ、我らが負けることはない」

 リーダー風の男が冷静さを欠いていた男を(たしな)めている。

 ミナリエからすれば、レグニ相手に苦戦するような敵では三人の相手にならないと思うのだが……。


「いくぞ、レグニ」

「どっちがたくさん捕まえるか勝負だ!」

「勝負はしない。一人で勝手にやってろ」

 二人が意気揚々と敵陣に向かって突っ込んでいく。


「どりゃああああ!!」

 剣だけでなく、敵の体ごとぶっ飛ばしたのはレグニだ。

 レグニの怪力に圧倒させられた敵の半分は自然と壁際に寄せられており、ルドラが追い打ちをかけた。


「『砂縛(さばく)』!」

 ルドラの放った砂術が不審者たちに巻きつき、即座に手足を拘束する。

 二人の連携によって、瞬時に敵の戦力は半分になっていた。


 そこでミナリエも、このまま見ているだけでは申し訳ないと思ったため、槍を使って応戦することにした。

 さすがに人目のある場所で水術を使うわけにもいかないため、本気を出すことはないのだが。


「女が何をしようってんだァ!」

 自分たちの戦力が減っているにも関わらず、ミナリエに対して怒鳴り散らした男は女と戦うのは楽勝だと思っているらしい。


 こちらを()めた様子で向かってくる。

 実力の違いを思い知らせたほうがいいだろうか。

 とはいえ、さすがに殺してしまうわけにもいかないため、ミナリエは手加減することにした。


「『イヴレア流槍術 弐舞(にぶ) 一角螺旋(らせん)』」


「がぼぁあああっ!!」


 手心を加えた一撃でさえも、その男は勢いよく壁に激突して失神してしまった。

 自業自得だと思うことにしよう。


「さすが姉さんっすね!」

 レグニに持ち上げられるのも、少しずつ慣れてきたような気がする。

 ミナリエは槍を掲げてそれに応えた。

 しかしその時、ミナリエは自分が油断していたのだと理解する。


「姉さん! 後ろっす!」

 レグニの声と同時にギュンっと背後を振り返ると、そこにはもう敵の剣が迫っていた。

「マズ――」

 だが、ミナリエの体にその剣が届くことはなかった。


 ミナリエの耳元で金属のぶつかる甲高い音が辺りに響き渡った。

 振り向いた先にあったのは、ルドラが持つ剣だったのだ。


 その時、ルドラの横顔がミナリエの視界に入ってきた。

「大丈夫か?」

「ああ、問題ない。助かった……」

 ルドラが剣を押し込むと、敵は後ろに下がる。


「チィッ!」

 まさか、ルドラに守られることになるとは思ってもいなかった。

 自分が不覚を取ってしまっただけだというのに、(かば)ってくれる理由がわからない。

 首を横に振ったミナリエは油断していたことを反省し、深く集中することにした。


 ミナリエが気合いを入れ直すと、三人はあっという間に残りの不審者たちを捕縛してしまうのだった。


「結局こいつらって、何をしようとしていたんすかね?」

「どうせこんな実力しかないんじゃ、たいしたことはできなかっただろうな……」


 ミナリエもルドラの意見に同意する。

 央都にとって、彼らがそれほどの脅威になるとは思えなかった。

 とはいえ、油断していた自分がいたことも否定しようのない事実だった。


「先ほどは、助かった。ありがとう」

 ミナリエはルドラに対して、素直に頭を下げて礼を告げた。

 ルドラが守ってくれていなければ、ミナリエは少なくとも怪我を負っていただろう。

 気づいた時点では、すでに回避しきれる距離ではなかった。


「その綺麗(きれい)な顔に傷がつかなくて、よかったな」

「綺麗……?」


 今ルドラが私のことを綺麗と言ったのか?

 それとも自分が聞き間違ってしまったのだろうか。

 いつもならそれを言われて嬉しいと思うことはないはずなのだが、なぜか今は頬が熱くなっているような気がした。


「お前まさか、姉さんのこと口説いてんのか!? それはオレが許さねえぞ!」

 レグニがルドラの前に立ちはだかった。

 自分が今どんな顔をしているのかわからないのもあって、レグニの行為が有難かった。


「思っていたことを言っただけだ。決して口説くとか、そういうつもりではなかったんだが……」

「それはそれで、お前の頭どうかしてんだろ!」

「レグニにだけは言われたくない」

「何だと! やんのか!?」


 二人が言い争いを続けている中、ミナリエはしばらくの間ルドラの顔を見ることができなかった。

 気恥ずかしさと胸のざわめきが落ち着くまで、かなりの時間を要した。


 三人は人知れず誰かの企みを止めることになったらしいのだが、捕まえた不審者たちを地下道警備隊の管理所に預けてから、改めて西都に向けて出発することにした。


 央都から西都にかけては、ゲオルキア大陸西の海へと流れ出る川が存在するらしく、舟に乗って西都に向かうこともできるそうだ。

 そこでミナリエは、大森林を北上した時のように舟を作れないか二人に提案した。


 すると、砂と水の量を適切に調整しながら、ルドラが舟を作り上げていく。

 レグニは砂術で何かを形成するのはあまり得意ではないらしく、ルドラに任せっきりだった。


 程なくして、ルドラが仕上げに撥水(はっすい)効果が高いという砂を混ぜ合わせて、三人が乗る舟は完成した。

 それを川に浮かべ、ミナリエの水術を利用することで、舟は川の流れよりも早く川路を突き進んでいく。


 舟を作ったおかげで、三人が西都に到着するまでそれほど時間がかかることはなかった。

 西都が川下に位置していたことも要因ではあるだろう。


 三人は地下道を抜けて、西都フゼスタに足を踏み入れた。

 西都は海辺の街特有の懐かしい香りを感じることができる都市だった。

 歴史を感じさせる少し古びた様子の街ではあるが、円柱の柱が所々に見受けられ、どことなくアクティムに近い雰囲気もしている。


「姉さ~ん、こっちっすよー!」

 レグニが街を眺めていたミナリエに向かって手を振っていた。


「ああ、すぐ行く」

 レグニに呼ばれたことで我に返ったミナリエは、先を行く二人の後を追った。

 三人は西都名物の海産物を扱う食事処に向かうことになった。

 ()れたての魚を味わえる料亭らしく、レグニの案内でやって来たところだった。


「おいおい、もうオレたちヴァリアスを横断しちまったのか……。なんかこの際、縦断もしてきたくなってきたかも……」

「レグニ一人で行くんだよな。大変かもしれないが、頑張れよ」

 ルドラが刺身を食べながら、レグニの話を流そうとする。


「なんでだよ! 親友なんだから、付き合ってくれてもいいじゃんかよ!」

 だが、レグニはルドラに()みつき、相変わらず二人は言い合いながらも、仲の良さを見せつけてくる。

 信頼しているからこそ、いろいろな会話ができるのだろうが、その関係が羨ましく思えた。


「ふふっ」

 いつも冷たくあしらわれるレグニの不憫(ふびん)さに、ミナリエは思わず笑ってしまう。

 その時、二人がこちらを凝視してきた。


 ルドラですら、その目を大きく見開いている。

 ミナリエが何かやらかしてしまったのだろうか。


「ミナ、こっちに来てから初めて笑ったんじゃないか?」

 ルドラに言われて、ミナリエはヴァリアスに着いて以来のことを必死に思い出した。

 大森林でポポルと一緒にいた時は、陽気な彼女につられて笑うこともあったはずだ。

 確かにヴァリアスに入ってルドラと出会ってからは、気を張り詰めていたような気もする。


「もしかして、そこまでオレたちに心を許してくれたってことすか!? 姉さん、そうなんすか!?」

 少しだけレグニのテンションが(わずら)わしい。


「私はとっくに心を許していたぞ。だから、もっと笑っていたはずだ」

 ミナリエは強がって否定するものの、目の前の二人は絶句していた。


「……姉さん、本気で言ってるんすか?」

「え……?」

「今までのミナは常に俺たちを警戒しているようだった。だから俺も、踏み込みづらさを感じていたんだ。このバカは例外として」

「オレを例外にすんな! バカって言うな!」


「そう、だったのか……。善処しよう」

 そもそもミナリエが笑えるようなことがなかったのかもしれないが、もう少し笑うようにしてみたほうがいいのかもしれない。


「ルドラの話はつまんないっすから、笑えるわけないっすよね」

「レグニはバカだからな、それでミナも笑えるんだろう」

「バカだから、笑えるんだっつーの!」

 二人はまた言い合いを始めてしまう。


「……ははっ、あはははははっ」

 涙が(あふ)れ出てしまうほど、笑いが止まらなくなる。

 二人がくだらない会話で言い合っているのを見ると、この時だけは自分の悩みを忘れられるのだ。

 どうにも二人のバカバカしい掛け合いが、ミナリエの笑いのツボにハマるのだった――。

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