第16話「央都」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
重たい雰囲気を抱えたまま再出発した一行だったが、次第にすれ違う人の数が増えてきていた。
それは央都が近づいているという証拠だろうか。
本来の目的の場所が間近になっているという事実よりも、ミナリエの頭の中ではずっと引っ掛かっていることがあった。
「……なぜ、私を許してくれたんだ?」
ミナリエはルドラに問いかけた。
「許したつもりはない。ミナはまだこの国で何かをしでかしたわけでもないのに、捕らえるのは納得がいかなかった。ただそれだけだ。……それに、ミナが成し遂げようとしていることを最後まで見届ける権利が俺にはあると思ったんだ」
ルドラが言いたいのは、海底にいるのが父親かどうか確かるまでは問題を起こすなということだろうか。
そうすると、ミナリエはルドラをアクティムまで連れて行く必要があるのかもしれない。
海底の遺跡は帝国の範囲からも離れているので、遠回りすればおそらく大丈夫だとは思うが。
「こいつ素直じゃないんで、姉さんのこと信じてるとか真っ直ぐに言えないんですよ。オレはちゃんと信じてますからね! それで許してくださいっす」
結局、レグニも姉さん呼びをやめるつもりはなかったらしい。
鬼姫と呼ばれるよりはマシだし、もう呼び方については諦めているからそれでも構わない。
「レグニも、無理に私を信じるとか言わなくていい」
「そんなこと言わないでほしいっす! オレ、一生姉さんについて行きますからね!」
一生というのはさすがにレグニの冗談だとは思うが、勘弁してほしい。
正直言って、レグニの明るすぎる性格が少し鬱陶しいと思うこともあるからだ。
「……」
ミナリエは一人でも楽しそうなレグニよりも、先ほどから静かに話を聞いているルドラのことが気になった。
ルドラは無表情のまま、進む先だけを見つめている。
彼の目に映っているのは、いったいどんな景色なのだろうか。
今はいったいどんなことを考えているのだろうか。
いつの間にか、ルドラのことを気にしている自分がいたことに驚いた。
ルドラはミナリエにとって、今までに出会ったことのない謎めいた雰囲気を持つ男だからだろうか。
「ほら、もうすぐ央都だ」
ルドラが指差した先に、「この先、央都クシオン」と書かれた看板がある。
そこで立ち止まったミナリエたちを置き去りにして、後方を歩いていた人々がぞろぞろとその先に流れていく。
気づけばアクティムを出発して、もう2週間が経っただろうか。
そこまで時間が経っているという事実が信じられなかった。
「ひゃっほーーい!」
一人だけ気持ちが昂りすぎたらしく、レグニは二人を置いて駆けて行ってしまう。
ミナリエの隣にいたルドラはまたかといった様子で頭を抱えていた。
「そんなとこでぼーっとしてないで、ミナも行くぞ」
「あ、ああ……」
ミナリエはルドラに続いて、央都クシオンの地上へと出る階段を上がっていくのだった。
* * *
「じゃっじゃ~ん。ここがなんと! 央都クシオンです!」
レグニが両手を広げてクシオンの大都市っぷりをアピールしている。
大通りのど真ん中でそんなことをしては、通行人の邪魔だろう。
央都の人々は変人を見るような視線を浴びせつつも、レグニがいる場所だけを綺麗に避けながら歩いている。
一方のミナリエとルドラの二人は、その様子を通りの端の方から見守っていた。
「ちょいちょいちょい! 二人とも、ノリ悪すぎぃ!」
レグニは一人でそうしているのが恥ずかしくなったのか、そそくさと二人のもとにやって来た。
「そんで、これからどうします?」
今のをなかったことにしようというのは、さすがに難しいのではないだろうか。
ルドラがどう思っているのか気になり、彼の方を見やった。
だが、ルドラもそれ以上心を抉るようなことはしなかったので、どうやらレグニは許されたらしい。
ミナリエは時間を確かめるために空を見上げた。
陽は沈みかけており、暗くなるのも時間の問題だろう。
「夕方が近い。まずは宿を探したほうが良さそうだな」
ルドラがそう言ってから歩き始めた時、ミナリエは央都でやるべきことを思い出して立ち止まった。
「どうした?」
「二人には申し訳ないが、少し別行動をしても構わないか?」
ミナリエがそう言った瞬間、ルドラとレグニの表情が固まった。
「ダメだ。俺たちと一緒にいたらできないことでもあるのか?」
「……」
ミナリエは彼らに話すべきか、話さないほうがいいのか迷ってしまい、うまく口に出せない。
今さら皇妃に頼まれた届け物の話をして、信じてもらえるのだろうか。
「俺たちに隠し事はなしで頼む」
ルドラが真剣な眼差しでミナリエを見ていた。
「そんなに秘密が多いんじゃ、さすがのオレでも、姉さんのこと信じられなくなっちまうっすよ……」
レグニの悲しみをたたえた視線がミナリエの心に突き刺さる。
これを話してしまえば、ミナリエが抱える秘密はなくなるだろう。
これからも二人に気を遣ってしまうよりは、正直に話したほうがいささか心も軽くなるだろうか。
「……そうだな、もう秘密はなしにしよう。私はアクティムの皇妃から、ヴァリアスの央都に暮らす友人に届け物をしてほしいと依頼されたんだ」
ミナリエは受け取っていた小包を取り出して、二人にそれを見せた。
「これが証拠なのだが……」
「アクティムの皇妃の友人が央都に住んでいるだと?」
しかし、小包を見ながら、ルドラの顔はかなり険しくなっていた。
「そんな話、聞いたことがあるか?」
ルドラがレグニに問う。
「オレなんかがそんな話聞いたことあるわけないじゃん! 仮に姉さんの話が本当だとして、それを知ってる人なんて、ほんの一部だけなんじゃないの? 確かめる方法なんてあるわけなくない!?」
レグニが珍しくまともなことを言っている。
ルドラもその目を大きく見開いた後、再び俯いた。
「確かに、そうか……。リーザさんなら、何か知っていたのかもしれないが……」
「でも、今から東都に戻って聞くにもいかないしな~」
「なぜそこで、彼女の名前が出てくるんだ……?」
腕を組んで思考している二人にミナリエは疑問を投げかけた。
彼女は情報屋みたいなものなのだろうか。
「あ、そうか。姉さんも五公のことは知ってますよね?」
「ああ、もちろん知っているが? それと何の関係が――」
「実はリーザさんって、その一人の東公なんすよ」
「……!」
ミナリエは驚愕のあまり、レグニを凝視した。
しかし、すぐに足元に視線を落とし、リーザの顔を思い出す。
「ただ者ではないと思っていたが、まさか東公だったなんて……」
ミナリエは本来警戒すべきであった五公の一人に対して、自分の不用心さを猛省した。
とはいえ、目が覚めた時にはすでに彼女の家にいたわけで、どうしようもなかったのだが。
以前話した感じでは、悪しきことを考えるような人には見えなかったが、それを隠している可能性もあるのだろうか。
いや、今は自分の直感を信じるしかあるまい。
「仕方ないな……。その届け物に関しては、俺が責任をもって渡すことにしよう。ミナの正体がバレてしまうよりは、マシなはずだ」
「それには同意するが、私が同行するのは構わないだろう?」
「もちろん、ミナも納得できる形が望ましいからな。近くの見える場所で見届けてもらうべきだ」
「そんじゃあ、オレはその間に宿を探しとくとするかねー。姉さんのこと、頼んだぜ!」
レグニはルドラの肩をポンと叩いて、路地の方に消えていった。
早く別行動をしたくてそわそわしていたのは、むしろレグニのほうだったのかもしれない。
ミナリエとルドラの二人は、レグニと別れた後、央都の北区にある住宅街を訪れた。
そこでミナリエは贈り物の届け先に指定されていた邸宅の大きさに絶句していた。
見渡す限り、その邸宅の持ち主の敷地なのだという。
「いくらなんでも、豪邸すぎないか?」
「ヴァリアスでも、有名な人物なんじゃ……」
「わからない。少なくとも、五公の邸宅ではないことは確かなはずだが……」
二人はその豪邸の前で尻込みしていた。
いざ小包を届けるとなると、門の前には衛兵が常駐していてあまりにも場違いだと思ってしまったのだ。
ルドラが小包を手に持って、考えている。
「どうする?」
「私に聞くな。とにかく、衛兵に渡すしかないだろう?」
「だが――」
ルドラが何かを言おうとしたその時、その手の中にあった小包に異変が起こった。
小包から光が放たれ、眩しさで直視できない。
「何だ!?」
すると、小包からみるみるうちに翼が生えてきて、鳥のように姿を変えてしまった。
「鳥……?」
ミナリエの疑問に構わず、それは突然飛び上がった。
ルドラがそれに向かって手を伸ばすが、あと一歩のところで届かない。
それは豪邸のある方に飛んでいき、建物の陰に隠れて見えなくなってしまった。
「あれはいったい、何だったんだ……」
「いや、私にもわからない……」
何が起こったのか全く理解できないでいる二人はお互いに顔を見合わせるものの、その神秘的な出来事をただ傍観していることしかできなかった。
その後、なんだか一人だけ満足そうな様子のレグニと合流して、事の顛末を説明したのだが、
「二人でオレのこと騙そうったって、そうはいかないっすよ! またまた、二人だけ仲良くなっちゃってもー!」
と全く聞く耳を持ってくれなかった。
「っとそんなことよりも、いい情報を仕入れて来たんす!」
「いい情報だと?」
「そんなに聞きたいっすか?」
レグニは言いたそうにしているくせに、こちらを焦らしてくる。
「早く教えろ」
ミナリエよりも先に、ルドラのほうが我慢してられなかったようだ。
そして、レグニはひと息ついてから話し始める。
「央都にある碑石の場所、わかったんすよ!」
「「何だと!?」」
二人は思わず息が揃ってしまうほどに驚き、レグニに掴みかかっていたのだった――。
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