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第15話「スコラピオン」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「たとえ、強敵だとしても……」

 ビスティアなんかに自分の目的を邪魔されるわけにはいかない。

 冷静であれば逃げるという選択肢もあったのだろうが、今はそこまで頭が回っていなかった。

 騒ぎになるよりも早く、ビスティアを退治することが最善策だろうとしか思えなかった。


 決心したミナリエは槍を中段に構えながら、一歩前に出た。

「姉さん! やる気なんすか!? 勝機は薄いってルドラが!」

 ミナリエとは違って、レグニは逃げる気満々のようだった。


「ルドラは勝機がないとは言わなかった。それはつまり、私たちが協力すれば勝てるかもしれないということじゃないのか?」

「おいルドラ! そういうことなのか!?」

「幸いと言っていいのか、向こうは一体だけみたいだからな」


「それなら最初からそう言えよ!」

 レグニは自分だけが置いてけぼりになっているからか、ルドラに対して憤慨している。


「そんなこと言ったら、逃げる選択肢を捨てて戦うことになるだろ!」

「姉さんはもう戦うつもりだよ! 手遅れなんだったつーの!」

 二人は言い争いをしているが、ミナリエの意志が変わることはない。


「私はここで逃げるつもりはない。二人は逃げてくれても構わないが、私は一人でも戦う」

「……はあ。もしも勝ち目がないとわかったら、レグニを置いてでも逃げるからな」

「ふざけんな! オレを置いてくんじゃねえ!」


 レグニを無視して、剣を構えたルドラがミナリエの隣に並び立った。

 二人が逃げずに一緒に戦ってくれるつもりなのは正直言って意外だった。

 ミナリエの都合によるわがままでしかなかったからだ。


「協力、感謝する」

「リーザさんといい、なんで俺の周りは気の強いヤツばっかり……」

「ん?」

「何でもない。来るぞ!」


 そこに、スコラピオンの尾節の猛攻が迫る。

「『砂滑(すなめり)』!」

 遅れて後方からやって来たレグニが地面から巻き上げた砂で幕を発生させた。


 そのおかげで三本の尾節は狙いを外されて、ミナリエたちがいない地面に突き刺さる。

 尾節が抜けた後の地面には、ドロドロとした粘液のようなものが残っていた。


「やはり、毒か……」

「それに触るなよ、レグニ!」

「んなことぐらい、バカでもわかるって!」


 レグニは両刃剣を構えて突っ込んで行く。

 スコラピオンは触肢(しょくし)に引っかかっていた警備隊の亡骸(なきがら)を捨てて襲いかかってきた。


「やばい、やばい、それはやばいって!」

 ミナリエはレグニの前に割り込み、槍をグルグルと回転させて触肢をさばいた。

 なんとかさばけてはいるものの、相当な重みを感じる。


「姉さん! 助かったっす! そんじゃあ、次はオレの番っすよ!」

 レグニが気合いを入れて、両刃剣を振るう。

 しかし、それはスコラピオンに当たらない。

 その(はね)を使って、少し後ろに退避していたのだ。


「飛翔能力が厄介だな……」

 アラクネ同様、上位に成長したビスティアが水を嫌がることはない。

 それに加えて、強靭(きょうじん)な力、俊敏な動き、尾節には猛毒も持ち合わせている。


 こちらは三人いることでやや余裕があるとはいえ、決定打に欠けていた。

 ルドラも尻込みしており、ひたすら防御に徹底している。

 そうやって、スコラピオンの動きを観察しているのかもしれない。


「あの動きさえ、封じることさえできれば……」

 ルドラがボソッと呟くと、後ろからレグニが現れて、スコラピオンに向かって駆けていく。


「それくらい、オレがやってやるよ!」

 レグニは両刃剣の力を試すチャンスだと思ったのか、非常に意気込んでいた。


「バカ! 単独行動はするな!」

 レグニはルドラの制止を振り切り、止まることを知らない。

 しかし、そのやる気とは裏腹にあっさりと触肢に捕まってしまう。


「っ!」

 早く助けなければならないとミナリエが思っていると、捕まったはずのレグニの表情は一切変わらなかった。


「はい、ざんね~んでした~!」

 スコラピオンが捕らえたそれは、実は砂の偽物だったのだ。

 触肢からさらさらと砂がこぼれ落ちる。

 スコラピオンが気づいた時には、本当のレグニは尾節の一本にしがみついていた。


 レグニはさらに他の尾節に対しても砂の鎖を巻きつかせて、手元に引っ張る。

 そして、あっという間に三本を一本に縫い合わせてしまった。


「ったく、大人しくしてろよな!」

 尾節が縛られたことを理解して暴れ回るスコラピオンだが、それが(ほど)けることはない。

 すると、ドンと鈍い音が辺りに響き、天井にぶつかった衝撃でレグニが宙に放り出された。


「あばばばばばばばっ!」

 レグニは見事に頭から地面に着地を決める。

 かなり痛そうではあるが、レグニが作った隙を無駄にしないよう、ミナリエは飛び上がった。


「『波縫(なみぬ)い』」

 ミナリエは水の糸を無数に作り上げ、スコラピオンの二枚の(はね)を交互に縫っていく。

 最後は思いっきり手元に引き寄せ、翅を一枚に合わせた。

 そうして、飛べなくなってしまったスコラピオンが地面に向かって落ちてくる。


「ルドラ!」

「いっけぇぇぇええええ!」

 ミナリエとレグニの声がルドラの背中を押した。


「『砂嘴乱舞(さしらんぶ)』」

 スコラピオンに対して、ルドラの無数の斬撃が繰り出された。

 それは触肢を斬り落としただけでなく、甲殻さえも斬り裂いていく。


 ミナリエの目で確認できただけで、少なくとも十以上はあっただろうか。

 ほんの一瞬で自分でもそのすべてを目で追うことのできない動きを見せたルドラに素直に感心した。

 そして、スコラピオンはズシンと重量感のある音を響かせて、地面に(たた)きつけられるのだった。


「ふぅ……。これも、二人のおかげだな」

 ルドラが深い息を吐いた後、こちらを振り返って言った。


「はん! きっかけを作ったオレのこと、もっと褒めておいたほうがいいんじゃないか!?」

 確かにレグニがいい働きをしたことは間違いないが、あまり褒めすぎてしまうと調子に乗ってしまうだろうか。


「レグニ、そういうところだぞ」

「なんだよ! そういうところって! 活躍したんだから褒めてくれたっていいじゃんか! ですよね、姉さん?」


「まあ、少しはレグニも――」

 仕方なくレグニを(たた)えようと思った瞬間、ミナリエは異変を感じ取った。

 (かす)かにスコラピオンが動いたような気がしたのだ。

 ミナリエは再び槍を構えて逡巡(しゅんじゅん)する。


「どうしたんですか、姉さん?」

 まだ異変に気づいていないレグニを無視して、ミナリエは全神経を集中させる。

 僅かだが、生気を感じる。

 スコラピオンはまだ死んでいないのだ。


 だが、もしも今ここで、四叉槍を解放してしまえば、二人に自分の正体がバレてしまうかもしれない。

 ミナリエが迷っている間に、視界の中でスコラピオンの尾節が動き始めた。

 もう躊躇(ためら)っている暇などなかった。


 ミナリエは動き始めたそれに向かって走り出した。

 そして、すかさず本来あるべき四叉槍の姿に変形させ、さらに水術を使ってその穂先にありったけの霊力を(まと)わせた。

 ミナリエの手にあるものはもう槍ではなく、まさに斧と言うべきものに変わっていた。


「『イヴレア流槍術 陸舞(ろくぶ) 海鬼(かいき)瀑斧(ばくふ)蒼波断(そうはだん)~』」


 砂術でまとめられた尾節が背を見せていたルドラに迫っている中、ミナリエはそこに割り込み、全身全霊で斧を振りかぶった。

 ミナリエが振るった斧はスコラピオンの尾節ごと、その体を半分にかち割っていた。

 数本ある脚がまだピクピクと動いているが、これではもう反撃しようとしても動けないだろう。


「ま、マジか……」

 二人はミナリエを見て、驚愕(きょうがく)していた。

 厳密にはその四叉槍を凝視している。


 槍を見せてしまった以上、仕方がないのだが、やはり気づいてしまったか。

 もうその正体を隠しておくことはできない。


「その四叉槍はまさか……」

蒼海(そうかい)鬼姫(おにひめ)じゃん!」

 レグニがミナリエの槍を指差して口をパクパクとさせている。


「鬼姫? なんだその変なあだ名は?」

 ミナリエは四叉槍を偽装用の槍に戻しながら問うた。


「ああ、確かにそちらの国で鬼と言われるわけがないな。その四叉槍を持つのは、()()()()という女狂戦士のはずだ。菫砂(きんさ)の民の間で知らない者はいないほどの有名人だぞ……」

「姉さんの正体がその鬼姫だったってことで……。そりゃあ、強いわけですよ。ってかオレたち、これからどうすればいいんだ!?」


 レグニは頭を抱えて忙しなく動き回っている。

 むしろどうすればいいのか、困惑しているのはこちらのほうなのに、自分より混乱している人が目の前にいると、逆に冷静になってしまうというか……。


「そんなヤツが本当に、碑石を調べるためだけに来たと言い張るつもりか?」

 そんなレグニと対照的なルドラはいまだに剣を納めず、ミナリエを警戒している。


「わかっているが、そればかりは信じてもらうしかあるまい……。アクティム軍はもう辞めた身であって、私は石化してしまった父母を救う手がかりを探しているだけだ。今の私は戦姫(せんき)でも鬼姫でもない、ただのミナだ」


 ミナリエは敵意がないことを示すように槍を収めて両手を上げた。

 今は何を言っても、信じられるわけがないだろう。


 ルドラたちの立場からすれば、ミナリエが正直に言う機会はこれまで何度もあったはずだ。

 自分が二人の立場だったら、隠し事をしていた者を信じるという思考になるわけがない。


「私の邪魔さえしてくれなければ、信じてくれなくても構わない。私はたとえ一人でも、央都に行って碑石を調べさせてもらう」

「姉さん……」

 レグニはミナリエから視線を外して、不安そうにルドラを見やった。


「……」

 ルドラは黙ったまま、ただミナリエを見つめている。

 その瞳を見ても、この男がいったい何を考えているのか、全くわからない。

 ミナリエはルドラの言葉を待つことしかできなかった。


「……わかった。その正体がバレるようなことはしないと誓ってくれるなら、俺たちも事を荒立てることはしない」

 ミナリエはその目を見開いた。

 なぜルドラが隠し事をしていたミナリエを許す気になったのか、理解が及ばない。


「いいのか? 隠してたことがバレたら、オレたちだって……」

「不満なら、レグニは一人で帰ればいい」

「なんでそうなるんだよ! お前が行くならオレだって行くし! これからも姉さんって呼んでいいか、わかんなくなっちまったけど、オレは勝負に負けちまったし、男に二言はねえっすから……!」

 レグニはそう言っているものの、その目には迷いが見え隠れしている。


「そうか……。恩に着る」

 ここでは許されたとはいえ、今まで築いてきた信頼はすべて失ってしまっただろう。

 央都に着いてから、ルドラがミナリエを憲兵に突き出してしまう可能性だって考えられる。


 当然のことだが、初めて行く街では逃げ場は限られるのだから、ルドラが同じように考えているのかはわからないが、常に警戒しておかなければいけないだろう。

 ミナリエは彼らと行動を共にしつつも、この先油断することがあってはいけないと心に誓った。


 それからしばらくして、三人は遅れて駆けつけて来た警備隊に現場の後処理を任せるのだった――。

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