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第14話「地下道」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 翌日、ルドラはミナリエを先に送り出してから、リーザのもとに向かった。

「ミナちゃんはまだ何か隠し事をしているよ」

「隠し事、ですか?」

 真剣な面持ちで語るリーザを見て、ルドラは思わず聞き返していた。


「だから、絶対に彼女を一人にはしないこと。何かあった時、最悪の場合は戦争だよ。それだけは――」

「心得ています。その時は、俺が責任取りますから」

「若造が生意気なこと言うんじゃないよ。そういうのは大人に任せておきな」

 リーザはルドラの頭を押さえつけたまま外に連れ出した。


 ルドラの視界に外の光が差し込んでくると、そこにミナリエとレグニが待っていた。

「待たせた」

「どんだけ姉さんのこと待たせるつもりだよ! それじゃあ、行くか!」

「お前が仕切るな」

 調子のいいレグニをルドラが制する。


「はあ!? なんでだよ! 遅刻したヤツが言うなよ! 姉さんもいいっすよね!?」

「無事に央都まで行けるのなら、なんでもいい」

「だってよー!」


 もしかして、レグニを余計に調子づかせてしまっただろうか。

 とはいえ、ミナリエがどれだけレグニのフォローをしてもルドラが負けそうには見えないから、心配しすぎだと思うことにした。


 そうこうしているうちに東都の地下道前に着いた三人は、薄暗い地下へと続く階段を下りていく。

「久しぶりの央都、楽しみだなー」

 相変わらず、レグニは緊張感がなかった。


「迷子にだけはなるなよ」

 そんなレグニに注意するルドラは、もうすでに周りを警戒している。

 どこにどんな危険があるかわからないため、そのほうが賢明だとミナリエも思う。


「それはお前だろ! オレを見失って困るのは、お前なんだからな!」

 出発早々に二人は喧嘩(けんか)をしているが、この調子で央都まで行くつもりなのだろうか。

 なんだか少し不安になってきた……。


  *   *   *


 三人を見送ったリーザのもとに一人の男が姿を現した。

 膝をついたその男に気づいたリーザが話しかける。


「どうしたんだい、ジルラン?」

「東公閣下は彼女の正体に気づいておられるのですよね……?」


 正体という言葉を使ったということは、ジルランは気づいているのだろう。

 そもそも別の都での任務を与えていたはずの男が東都ホラーサにいるのは、リーザにとってはあり得ないことでもあるのだが……。


「あれだけの槍使いは、ゲオルキア中探してもそう多くはないよ。噂に名高い四叉槍じゃないみたいだけど、あれは蒼海(そうかい)鬼姫(おにひめ)なんだろ?」

「閣下がお察しのとおりと存じます。誰か追わせますか?」


 ジルランが問いかけた直後、バコン!と拳骨(げんこつ)の音が響いた。

 突然の衝撃に混乱しつつ、ジルランはその頭を押さえている。


「それはルドラに任せたんだよ! アンタには他の四公の調査を進めるように言ってたじゃないか! 事あるごとにいちいち戻って来るんじゃないよ!」

「申し訳ありません……! 即刻、調査に戻ります」

 大慌てで謝罪したジルランは、その場から砂埃(すなぼこり)のように消えてしまった。


「ったく、どいつもこいつも危機感が足りないったらありゃしない……。アタイも何かあった時用に備えておくべきかねえ……」

 悩まし気にため息をついたリーザは、西の空を見上げてから家の中に戻るのだった。


  *   *   *


 地下道は光の刺さない暗い空間だと思っていたが、想定していた以上にそこは明るい場所だった。

 さらに天井までの高さもかなりあり、横壁の高い所に光を放つ箱状のものが()るされている。


「あれは何だ?」

光砂(ひかりすな)を集めて、灯り代わりにしているんだ」

「なるほど、ヒカリコンブみたいな便利な砂があるということか」

「こんぶ? ま、そういう感じっす!」


 レグニはわかっていないようだったが、ルドラは無言で(うなず)いている。

 地下道を歩けば歩くほど、人が歩きやすいように整備されていることがわかった。


 通路脇には水路が流れており、陽が刺さない分、外とは異なってかなりヒンヤリしている。

 この水路は東都に水を供給する役割も兼ねているのだろう。

 外の暑さを()けることができるため、ミナリエにとってはかなり心地いい空間だった。


 ふと、レグニの装備している剣がミナリエの目に留まった。

 それが昨日戦った時の物とは違ったからだ。


「なんだ、レグニは片手剣の使いじゃなかったのか? その両刃の剣は何だ?」

「ああ、これっすか? そのまんまですけど、両刃剣(りょうばけん)って言うんですよ。これを持てば、オレは敵無しっすから!」


 レグニは両刃剣を手に取って、実際に振ってみせる。

 確かに攻撃力は高そうに見えるが、重くて振りにくそうな印象を受けた。

 それでも、レグニは難なく振っているので、使い慣れているというのは間違いなさそうだ。


「姉さん、あの時は手元に片手剣しかなかったから負けちゃっただけですからね」

「たいして変わらないだろ」

 すかさずレグニの実力を知っているルドラがツッコミ役に回る。


「変わるよ!」

 だが、レグニも譲らない。

 ミナリエもルドラの言うとおり、武器を変えただけでそこまで強くなるとは思えなかった。


「それなら、片手剣の反対側を得意の砂術で剣にすれば、両刃剣のようになったんじゃないか?」

「はっ……! 姉さん、天才ですか? 今度は絶対にそうします!」

「今から手合わせしてみるか?」

「いや! それはやめておきます!」


 即答だった。

 昨日の出来事がトラウマになっているのだろうか。


「どうせ勝てないもんな」

 ルドラはさらにレグニを(あお)る。

 二人はいつも言い合っているが、それが二人の友情ということだろうか。


「違えし! 央都に行く前から疲れるわけにはいかないだけだし! 別に日和ってなんかねえし! トラウマになってるとかじゃねえからな!」

 散々否定はしているが、やはりレグニにとってトラウマになっていたらしい。

 ミナリエが全面的に悪いわけではないが、申し訳なく思った。


「何すか姉さん! 全部姉さんのせいっすからね!」

「私が強すぎたみたいで、すまない……」

「そんな風に謝らないでくださいよ! 余計にオレが惨めじゃないっすか! いくら姉さんでも怒りますよ!」


「勝てないのにか?」

「うるせえ! うるせえ! うるせえ! むきーっ‼」

 レグニは地団太を踏んで悔しがっている。


 ミナリエはふとルドラの方を見やった。

「?」

 ルドラもミナリエの視線を感じ取ったのか、こちらを見てくる。

 しかし、ミナリエはすぐに顔をそらした。


「え、二人とも、昨日何かあったんですか?」

 ミナリエとルドラの間に生じた違和感に気づいたのか、レグニが二人の顔を交互に見ながら問いかけてきた。


「何も」

 ミナリエは即座に否定の言葉を返した。

 ルドラは黙ったままで何も答えようとしない。

 何も知らないレグニだけが置いてけぼりを食らっていた。


「ちょ! オレがいない間に絶対何かあったヤツじゃないっすか! おい、ルドラ! ずりぃぞ! 姉さんと何したんだよ! ちゃんとオレに教えろよ! なあ、オレたちって親友だろ!?」

「都合のいい時ばかり親友と言ってくるのは、本当の親友じゃない」

(うそ)、だろ……」

 ここまで調子のいいレグニだったが、今は愕然(がくぜん)としていた。


 それから順調に歩みを進めた三人は、央都と東都の中間辺りまで到達していた。

 本当にルドラは料理が一切できなかったらしく、食事係としてレグニが同行してくれて助かった。


 火はなくとも、彼らは砂術を利用して熱砂(ねっさ)というものを生み出すことができるらしい。 

 その砂を利用してレグニが作ってくれた煮物を食べながら、ミナリエがふと思いついた疑問を投げかけた。


「そういえば、この地下道ではビスティアが現れることはあるのか?」

「地上よりは少ないと思いますけど、普通に出てきますね。そうは言っても、地下警備隊が見回ってるんで、ほとんどのビスティアは退治されていることが多いと思うっすよ」


 確かにここまでも何度か武装した者たちにすれ違ったような気がする。

 あれが地下の警備隊だったということだ。


「それに危険なビスティアなんて、そうそう出てくるものじゃないんで、大丈夫っす」

 レグニはさすがに能天気すぎるのではないだろうか。

 そう思いながら、ミナリエは(うり)の実を一つ口に放り込んだ。


「そんなこと言ってると――」

 ルドラが言い切るのをやめた瞬間、ミナリエは不穏な気配を感じ取った。

 立ち上がったミナリエは口の中身をゴクリと飲み込み、周囲を警戒する。


「は? 急にどうしたんだよ?」

 その一方で、レグニだけはまだ何が起こったのか、わかっていないらしい。

 それが向かって来ているのは、央都の方面のようだ。


「おそらく、ビスティアだ……」

「レグニも早く立て!」

「お、おう……」

 急いで立ち上がったレグニと共に、三人は慌てて食卓を片付けた。


 それから少しして、黒光りする甲殻を持つビスティアが姿を現した。

 特徴的な尾は三本に分かれて、(はね)も生えている。

 それぞれの尾が猛毒を持っているのだろうか。

 初めて見るが、この生物はいったい何だ……。


「スコラピオンか……」(サソリのような尾を持ち、蜂のように飛翔も可能な生物)

 ルドラがそのビスティアを指して言った。

 それは飛行能力も有しており、体表に浮き出た模様は黄色から赤色に変わる途中だろうか。

 ギリギリ黄色と言えなくもないが、赤色に変わるのはそう遠くない色合いだ。


 獲物の様子を見ながらじっくりとこちらに近づいて来るスコラピオンは、アラクネよりも厄介な相手に違いないと、ミナリエの直感がそう訴えかけていた。


「あれ見ろよ! 地下警備隊がやられてるぞ……! これって、やばくね?」

 レグニが指差した先、そこには触肢(しょくし)で挟まれて血塗(ちまみ)れになった警備隊の姿があった。

 力なくぶら下がっているだけで、すでに手遅れなのだとひと目で理解できる。


「まずいな……」

 ルドラが剣を構えているが、その額にはかなりの量の汗が浮き出ていた。


「ルドラ、勝機はあると思うか?」

 三人で力を合わせれば、なんとかできるだろうか……。

 ミナリエはルドラの回答を待った。


「……これはさすがに、俺たちの不運を呪ってくれ。悪いが、確率は高くはないと思う……」

「マジかよ!? オレ、こんなとこで死にたくねえよ!」

「そうか、わかった……」

 

 ミナリエはゆっくりと距離を詰めてくるスコラピオンを見つめ続ける。

 緊張のあまり噴き出た汗がミナリエの頬を伝うのだった――。

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