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第13話「碑石の在処」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

「これで、ミナが相当な実力者であることがわかった」

「レグニが弱いこともな」

 ミナリエはルドラの言葉に賛同しつつ、淡々と事実を告げた。


「オレが弱いんじゃない! お前らが強すぎるんだ!」

 まだ少し()ねている様子のレグニも含めた四人は、改めて家の中に戻って情報共有をすることにしたのだ。


「ここにいる者たちしか、ミナの秘密を知る者はいないはず……。余計な混乱を招かないためにも、他言は無用だぞ」

「それくらい、オレだってわかってるよ……!」

 まるでレグニしか口外する者がいないと決めつけるような物言いに、レグニは非常に不満そうだ。


「ミナは碑石を探すためにヴァリアスに来たという話だったな。万が一にも知らないとは思うが、レグニは何か聞いたことがあるか?」

「オレが知ってる可能性をほぼ否定されてんのは、心底気に食わないけど! ……知らん」

「誰も期待はしていなかったから、安心していいぞ」

「ねえ! さっきから真辣(しんらつ)すぎません?!」


 短時間しか一緒にいないが、レグニという人物がわかってきたような気がする。

 この家ではいい意味で愛されているのだ。


「まあ、自業自得ってことさね」

「リーザさんまで……」


 レグニの精神力がかなり傷ついているように見えた。

 普段はここまでいじられることはないのかもしれない。

 それも、ミナリエの知ったことではないが。


「さて、こいつのことは置いといて……。まずはリーザさんが言っていた央都に行って、情報を集めながら次の行き先を決めるのがよさそうだな」

 ルドラの言うとおりだ。


 どのみち皇妃の頼み事があって央都には行くことにはなっているし、どこに碑石があって、どの街を訪れればいいのかもわからない。

 すべてはこれからミナリエの意志で決めていくしかないのだ。


「そうだねえ。央都に行くなら、こいつのこと連れて行っていいよ。一人じゃ不安だろ?」

 とリーザがルドラの背中を押してミナリエの前に差し出した。

 ルドラにこの国の道案内をさせようというのだろう。


「は? なんで俺が!?」

 しかし、ルドラは否定的な態度だった。


「ミナちゃんを一人で行かせて、何かあったらどうすんだい? そもそもあんたが連れて来たんだから、最後までちゃんと責任を取りなさい」

 リーザは異様なほどの威圧感を発している。

 ルドラのほうが背は高いはずだが、彼女のほうが大きく見えてしまうような錯覚に陥ってしまった。

 ミナリエの本能は彼女がただ者ではないと訴えかけてくる。

 ルドラの親代わりとは言いつつも、武術を心得ているような人物なのだろうか。


「……はい」

 ルドラは反論することもできずに、すんなりと受け入れてしまうのだった。

 ミナリエとしては、誰かが道案内してくれるに越したことはない。


「なら、オレも行く!」

 ルドラの隣にいたレグニは、逆に乗り気だった。

「いや、レグニは不要だ。あの程度の実力では足手まといになる」

 ミナリエは先ほどの手合わせを思い出しながら言った。


 砂漠で自分を救出してくれたルドラはこの国でも頼りになる存在だと思えたが、あいにくレグニに対してはそう思えなかったのだ。


「だから、お前らの基準で考えんじゃねえって! オレだって少しくらい役に立つこともあるんだからな! 少しくらい! それに姉さんとルドラを二人で行かせるのはなんか不安だし……、ねえリーザさんもそう思わない?」

「本当はアンタが央都に行きたいだけでしょうが……」

「ギクリっ!」


 央都にレグニの求める何があるのかはわからないが、それだけ行きたい場所なのだろう。

 別に央都だけがミナリエの目的地なわけではないのだが、よくよく考えたらルドラとの二人旅になるということは、恋人に見えてしまうかもしれない。

 そういった視線を気にしないで済むのであれば、レグニが同行すること自体は問題なさそうだ。


「そうだ! ルドラはてんで料理できないし、姉さんはできるんすか? オレなら姉さんの望むものを作ってあげられますよ!」

「……」


 森の中でポポルに介抱された記憶が蘇る。

 はっきり言って、料理ができると言い切れるほどの自信はなかった。

 アクティムにいた時もエレティナの手伝いをたまにしていた程度だ。

 道中で野宿になる可能性があることを考えると、食事担当がいるのに越したことはないだろう。


「それにオレは、ヴァリアス中の地下道を網羅してるんで、そこの引きこもりなんかとは違いますよ!」

「お前が遊び歩いているだけだろ。それを自慢するな」

「一人くらい元気でバカなヤツがいてもいいんじゃないかい?」

「それって本当にオレのこと弁護してます!? バカにしてませんか!?」


 レグニのおかげで、それぞれに笑みがこぼれる。

 彼がいるだけで雰囲気がよくなったことには違いない。

 リーザの言うとおり、レグニに同行してもらってもいいようにミナリエは思う。

 あまり気が緩みすぎるのは問題かもしれないが、賑やかな旅になるのは嫌いじゃなかった。

 明朝、央都に向けて出発することを確認してから、一度レグニとは解散することになった。


 リーザが準備してくれた夕食を食べ終えた後、忙しなく旅路の準備を進めているルドラを見て、ミナリエはハッとした。

 長い袖の服装をしていたために今まで気づかなかったが、手を伸ばした際にチラッと見えたルドラの腕輪にふと目が留まったのだ。


 その腕輪はどこかで見たことがあるような気がする……。

 いったいどこで見たことがあるのだろうか。

 おそらくアクティムにいた頃に見たのだろうが、菫砂(きんさ)の民と戦っている中で見たのか。


 それとも……。

 まさか、蒼の碑石の前の石像か!?

 ミナリエは石像の並びを頭に思い浮かべる。


 父母の石像の斜め前辺りに顔立ちの整った男の像があったはずだ。

 その男がしていた腕輪とルドラの腕輪が酷似している。

 蒼海(そうかい)の民では見慣れない服装をしているとは思っていたが、それは菫砂の民だからだったのかもしれない。


「なあ。ルドラの父というのは、戦に出ていたのか?」

 ミナリエが話しかけると、ルドラは忙しそうにしていた手を止めて振り返った。


「急にどうした? 確かに俺の父は蒼海の民との戦に出たっきり帰って来なかったと聞いている。おそらく戦死してしまったんだろうな。遺体だけでも見つかっていたら、弔ってやれたのに……」

 ということは、あの石像がルドラの父という可能性もあるのではないだろうか。


「私はその腕輪に見覚えがあるんだ……」

 ミナリエはルドラの腕を指差す。


「これを見たことがあるだと!? いつどこで!」

 突如興奮した様子のルドラがミナリエに迫ってきた。

 ミナリエは両肩を掴まれてしまい、その整った顔立ちが目の前に現れた。

 急に恥ずかしさを覚えたミナリエは、思わず顔を背ける。


「近いぞ」

 ミナリエの頬はわずかに赤みを帯びていた。


「ああ、すまない。つい……」

 すぐに冷静になったのか、ルドラが慌てて距離を取る。

 ミナリエにとってもそれは初めての経験だった。

 こんなにも異性の顔が接近することは戦場以外ではほとんどなかったのだから。


「ミナ、続きは外で話さないか?」

 ルドラの提案を受け入れて、二人は屋上に出た。

 熱を感じた昼間とは異なり、少し肌寒さを感じる。

 夜空を見上げれば、幾つもの星々がその輝きを競っていた。


 ごほんと()き込んでから、ミナリエは話し始めた。

「その腕輪を見たのは、アクティムにいた頃の話だ。先に謝っておくが、それがお前の父という確証もなければ、生きている保証もないことは理解してほしい」

「了承した。それでも構わない」


 ルドラの真剣な表情を確認して、ミナリエも話す決心を固めた。

 行方不明になってしまった家族の情報かもしれないのだから、知りたくないはずもないだろう。


「私はアクティムの、海底にある碑石の前によく通っていたんだ……。そこは海中で石化した者の像が、海流で運ばれてくるという不思議な場所だった。私の父母の石像が(たたず)む斜め前に、同じような腕輪をしている男の像があったと記憶している」

「父さんが、石になって海底に……」


 石になってしまったのなら、帰って来ることができなくても仕方はないだろう。

 ルドラは(うつむ)いたまま、夜空の一点を見つめていた。


「あくまで似ているだけで、私の見間違いという可能性も――」

「いや、この腕輪は父さんが俺のためだけに作ってくれたものなんだ。俺が父さんと同じものをつけたいって駄々をこねたことがあって……」


 ルドラが腕を突き出して、その腕輪をよく見せてくれた。

 見れば見るほど、あの腕輪と似ていると感じた。


 それもそのはずで、腕輪には家族の絵が彫ってあるのだ。

 父親が子どもを背負って笑う姿が印象的だった。

 それを今でも付けているからには、二人の思い出の品ということなのだろう。


「そうか……。大切なものなんだな」

「ああ……。数少ない父さんの形見だ」


 ルドラは遠くの空を見つめ続けている。

 それはちょうど南の方角だろうか。

 アクティムにいるかもしれない父親に思いを()せているのかもしれない。


 しばらくそうしていたルドラだったが、おもむろにミナリエの方を振り返った。

「その碑石を調べれば、石化の謎が解けるかもしれないということか?」

「必ずそうとは限らないが、何か重要な秘密が書かれているのではないかと踏んでいる……」


「そうか。話してくれて、本当にありがとう。最初はリーザさんに言われて仕方なくという気持ちがどうしても拭えなかったが、ミナの旅に同行する決心ができた」

「礼を言われるようなことは何も……」


 ミナリエがルドラの顔を見やると、そこには自然な微笑(ほほえ)みがあった。

 夜に二人きりという特別な状況がそうさせたのか、ミナリエはどことなく寂しさを含んだそれが、純粋に美しいと感じるのだった――。

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