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第11話「東都」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 ミナリエの目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

 砂のようなもので造られたであろう家だ。

 いつの間にか、ヴァリアス内のどこかの街に着いていたのだろうか。

 いや、そんな記憶はないはずだが。


 ミナリエが起き上がろうとすると、聞き慣れない声が聞こえてきた。

「起きたのか」


 声が聞こえた場所にいたのは、金髪の青年だった。

 印象的な菫色(すみれいろ)の瞳に褐色の肌。

 戦乱で何度も見たことがある菫砂の民の特徴に似ている。


「貴様は誰だ!」

 ミナリエは慌てて飛び起きて自分の槍を探すものの、どこにも見当たらない。

「私の槍をどこにやった!」

 ミナリエはその男から視線を外さなかった。


 金髪の男は深いため息をついてから、ミナリエに向き合った。

「まずは自分から名乗ったらどうだ? それとも、大砂波(おおすなみ)に飲み込まれたお前を助けないほうがよかったか?」


 そこでミナリエは自身に何が起こったのかを思い出した。

 ヴァリアスの砂漠に踏み込んだ後、突然砂に足を取られて動けなくなり、そのまま砂の中に飲み込まれてしまったのだ。


 その先の記憶がないということは、そのまま運ばれたということだろう。

 どうやらこの男がミナリエを助けてくれたらしい。

 姿勢を正したミナリエは、男に向かって頭を下げた。


「助けてくれたこと、感謝する。私はミナ……。探し物があって、この国にやって来た」

 ミナリエを注意深く見つめた後、ようやく男は口を開いた。


「俺はルドラヴァラーズ。ルドラでいい。森は連れの翠杜(すいと)の民に案内してもらったのだろうが、女一人でこの国へ来たのか? なぜ交易船を使わなかった? どう見ても翠杜の民には見えないが、お前はいったいどこから来た?」


 明らかに怪しい存在でしかないミナリエを責めるように次々と質問が浴びせられる。

 だが、自分も逆の立場であれば、同じように対応していただろう。


「信用のできない者には言えない。いいから槍を返してくれ!」

「ったく、槍ならあそこにある。それを持って、すぐに出て行くことだな」

 ルドラが振り返って指差した先、部屋の隅の辺りにミナリエの槍が立て掛けてあった。


 しかし、そこまで行くためにはルドラの前を通らなければならず、何をされるかわからない。

 ミナリエは警戒心を弱めなかった。

 (にら)み合ったままの二人の間を沈黙が支配する。

 すでに手遅れかもしれないが、もう油断するわけにはいかない。


 その時、香ばしい匂いが漂ってきた。

 ミナリエの鼻が自然と匂いを嗅いでしまい、空腹を知らせる音が辺りに響き渡った。


「なんだ、空腹だったのか」

「いや、私のお腹が鳴ったのではない」

「嘘をつくな。俺にもバッチリ聞こえてきたぞ」

「……」


 このルドラという男にはデリカシーがないのだ。

 もう少し言い方を考えろと言いたいところだったが、それはダガンにも言えることだったため、ミナリエは口から出てしまいそうになった文句を飲み込んだ。


「こらっ!」

 ルドラの後方から、一人の女性が現れたと思うと、いきなりその後頭部を調理鍋で(たた)いた。

 相当な力が込められていたのか、かなりの鈍い音がしたように思う。


「いったぁぁっ‼ いきなり何するんですか!」

 ルドラは頭を押さえて振り返る。

 そこにいたのは、紅蓮(ぐれん)に燃えるような髪を持つたくましい女性だった。


「ごめんねー。こいつ女に慣れてなくてさ。アタイはリーザランド。長いからリーザって呼んでくれ」

 とリーザと名乗った女性は申し訳なさそうにしながら、ミナリエの方を見やる。


「いえ。私もそうだろうなとは思っていました」

「はあ? それが恩人に対して――」

「ルドラ!」

 もう一度鍋で叩かれそうになるルドラだが、今度はその手でしっかりと受け止めていた。


「リーザさん、二度目は食らわないから」

「片手の相手に何を言ってんだい」

 そう言う彼女のもう一方の手には、串焼きが盛りつけられた皿が乗っていた。

 味付けにかけられているタレの香りによって、いっそう食欲がそそられる。


 それを見たミナリエは我慢しきれず、もう一度お腹を鳴らしてしまった。

 これではその串焼きを食べさせてくれと言っているようなものではないか。


「じゃあ、一緒にご飯でも食べながら、アンタのことを教えてくれるかい?」

「……あ」

 ルドラの方を見やると、かなり不満そうな顔をしているように見えた。


「いいんですか? 彼はずいぶん嫌そうな顔をしていますけど」

「いいんだよ! アタイがこの家の主なんだから、決定権もアタイにあるんだ。従わないヤツには出て行ってもらうだけだからね!」

「……では、お言葉に甘えさせていただきます」


 大人しく椅子に座ったミナリエは串を手に取り、頬張(ほおば)った。

「美味い……!」

 あまりの美味しさにミナリエはすぐに一本食べ切ってしまい、もう一本に手を伸ばす。


「これも! 美味しいです!」

「そうかい、そうかい。腹が膨れるまでたんとお食べ」


 肉だけの串、野菜と交互に刺された串、さまざまな肉の部位で作られた串焼きが次々とミナリエの口の中に放り込まれていく。

 空腹だったとはいえ、こんなにも美味しい料理があるのかと驚愕(きょうがく)した。

 ふと顔を上げると、リーザが笑顔でこちらを見ていた。

 一方で隣に座っているルドラは、黙々と串焼きを食べている。


「……で、ミナちゃんだっけ? 君は何しにヴァリアスに来たの?」

「私は……。砂の国にあるという、碑石を探しに来たんです」

「碑石?」

 リーザの顔がポカンとしている。


「古き時代に使われた文字が刻まれた碑石のことです。恥ずかしながら、砂の国にあるという情報しか知らず……。いったいそれがどこにあるのか、古きものに詳しい人でも構いません。何かご存知だったりしませんか?」

「……そうだねえ。そもそもの話、今いるのはヴァリアスの東都ホラーサって言うんだけどね、この街はまだ歴史が浅いんだよ。だから、その古代の碑石があるとすれば、央都の可能性が高いんじゃないかなー?」


 央都と言えば、皇妃に頼まれた友人への届け物も央都に運ぶ手筈(てはず)になっていた。

 それはミナリエにとっては都合がよかった。


「北都もウチと同じくらい歴史が浅いし、あとは西都か南都かねえ。その辺りの老人に聞き込みしてみたら、何かわかるかもしれないよ」

「はい! ありがとうございます!」

 それが聞けただけでも、目的に一歩近づいた気がする。

 来る時にわざわざ避けた南都に向かうのはよくないだろうし、まずは央都を目指すべきだろう。


「ミナちゃんのことばっか聞いちゃうのも悪いからね、代わりにルドラのことを教えてあげよう」

「リーザさん、正気ですか!?」

「ミナちゃんは、アタイらのこと何も知らないんだから当たり前だろ?」

 すると、二人が同時にミナリエの方を見た。


「でも、一つだけわかったことがあります。名前で呼び合う親子は不自然ですし、二人は親子ではないんですよね?」

 ミナリエの推理が当たっていると認めるように、リーザが苦笑した。


「さすがに顔も似てないしねえ。アタイは独り身になっちまったこいつを引き取って育ててやったんだよ。いい加減、お義母(かあ)さんって呼んでくれてもいいんだけどね」

「感謝はしてますけど、それとこれは別問題ですから」

 リーザが言った独り身という言葉がミナリエの心に刺さった。


「こんな冷たいやつに助けられて、ミナちゃんもツイてないねえ。全然笑いもしないし、怖かったでしょう?」

「あ、いえ。私も親がいなくて、似たようなものなので……」

 とミナリエはルドラの方を見やる。


 ルドラの表情は硬いままだが、警戒心はだいぶ解けてきたように見える。

 親を失って、誰かに引き取られたという境遇は自分と同じだと思った。


「……私、一つ(うそ)をつきました……」

「ん? 嘘?」


 意を決して、ミナリエは話し始めた。

「実は私……。蒼海(そうかい)の民なんです」

 そう言ったミナリエは、手のひらから水を生み出して水術を披露した。

 案の定、二人は目を大きく見開いた。


「蒼海の民ねえ。なんでそんな大事なことを明かしてくれたんだい?」

「私を助けてくれて、優しくしてくれたあなたたちには、嘘をつきたくないと思っただけです……。私はこの国に危害を加えるために来たわけじゃない。それだけは勘違いしてほしくなかったから……!」

 ミナリエは思わず立ち上がり、真剣な眼差しでリーザを見つめた。


「へえ~。ミナちゃんがいい子だってのはわかったよ。危害を加えたくないっていう気持ちもすごく伝わってきた。でも、敵対する蒼海の民をこのまま放っておくわけにはいかないのはわかってくれるかい?」

 血相の変えた彼女も立ち上がると、ミナリエの前に並び立った。


「リーザ、さん……」

 彼女の手がミナリエに伸びてくる。


 このまま自分は捕まって、ヴァリアスの兵士に突き出されてしまうのかもしれない。

 どこかに監禁されてしまうのかもしれない。

 そんな悪いことを考えてしまっても、ミナリエは彼女のことを信じずにはいられなかった。


 だが、リーザはミナリエの両肩にその手を置いた。

「アンタ、バカだねえ! 蒼海の民がいるとわかったからって、アタイが衛兵に突き出すようなヤツに見えるかい? アタイは人を見た目なんかで判断するようなことはしないよ」


 それを聞いて、ミナリエはホッと肩を()で下ろした。

 やはり彼女を信じてよかったらしい。


「蒼海の民だとぉぉぉ!」

 その時、入り口の辺りから怒声が聞こえてきた。

 そこにいたのは、ルドラと同い年くらいの栗色の髪をした青年だった。


「おいレグニ! 一度黙れ! そこで止まれ! 頭を冷やせ!」

 とルドラの続けざまに投げられた言葉の制止はむなしく、レグニと呼ばれた青年は止まることを知らずにミナリエの前にズカズカとやって来た。

 ルドラはそれを見て、頭を抱えている。


「見ない顔ってことは、お前が蒼海の民だな?」

「だったら、何だと言うんだ?」

 ミナリエは臆さなかった。

 挑発的な相手に対して、張り合ってしまうのは悪い癖だとは思っている。


「蒼海の民なんてな! 俺が成敗してやるっ!」

 レグニはミナリエに向かって剣先を突きつけてきたのだった――。

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